瑠璃唐草と乙女模様- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
ネモフィラを見に行こう。
そんな話がわたくしと天霧様の間で出たのは、つい最近のことでした。
これまでは桜舞う日に公園へお花見に行く、わたくしがおやすみの日に天照へ逢いに出かける……など、天霧様とは違う屋根のもと離れて暮らしているなりに、二人だけの時間、つまりは「おデート」は何度かしているのですが、そのどれもが近場への外出で済むような気軽なものでした。
ゆえに、天霧様の方から「花畑に行きませんか」と、改まったお誘いを頂いた事には意外というか、びっくりというか。嬉しく思う反面わたくしが言い出したかったような気持ちも少々。現に二人揃って同じ観光地の資料を持っていたと判明した時には思わずおかしくて笑ってしまいました。天霧様もあの時は笑っておりました。
「きれいですよね。瑠璃唐草とも呼ばれているだけあって、青くて綺麗で……行くのが今から楽しみでございます!」
「今の時期であれば、絨毯のように一面敷き詰められた光景が拝める事でしょう。……私も楽しみです。玉殿とのお出掛けなので尚のこと……」
「ふふ。お弁当はこちらで作っていきますから、お花畑のそばでお食事して……あとは……ええと…………」
そんなふうに、二人で並んでパンフレットを眺めながら計画を立て、約束した日を迎えるまでは互いにお仕事に励みつつ、すれ違う度に微笑み合い、来たるお出かけの日のことを思って過ごしていました。
しかし。この数日はやけに天霧様の顔色が良かった気がするのはわたくしの気の所為でしょうか? 日頃よりも気持ち程度元気そうだった、とでも言いますか。
それが気の所為などではなくわたくしの所為なのだとしたら、わたくしはとっても嬉しいです。
してやったりです。ふふ……!
当日は何を着ていこうかしら?
せっかくならいつもと違うようなお召し物を纏って天霧様を驚かせて差し上げましょう……!
いつも着るのは温かみのある暖色ですし……いっそ印象をがらっと変えて瑠璃唐草と同じ爽やかな青色か、晴れの空によく映える白色か。季節柄きっと薄着になりますしお帽子があっても可愛いやも? その場合髪の毛は────。
「ちょっっっとばかり、張り切りすぎている気もしますが……これにしましょう!」
ワンピースを一着手に取り、あとは羽織ものをば。
天霧様を驚かせてやるのだとあれやこれやと考えているとクローゼットを漁る手が進む進む。お洋服を乱さぬように畳みながらだというのに、わたくしの手元はとてつもなく軽快です。
あまりの張り切りようにわたくし、自分自身で可笑しいなぁとは思うのですが、きっと乙女心というやつはこんなものでしょう。
だって、今回行くのはせっかくの遠くへのお出かけ。おデート……なのですから。