おタマさんの気づき最近めぐみさんが変なんです。いつもなら朝起きて私が挨拶をすると直ぐに
「おはようさん」
と返してくれるのですが、ここ2、3日挨拶をしても何も聞こえてないのかどこか一点を見つめたままの状態をよく見るので、さすがに心配になり
「めぐみさん!」
と揺すると
「...おおタマ、なんや?」
と少し驚いた様子で答えてくれることが多いんです。
この間だって、ランチをお誘いした時ラーメンを頂いたのですが、目の前に出されたラーメンをじっと見つめるだけで手を出そうとしなかったんです。
戦闘訓練の時なんかもいつもよりも反応が鈍く、手塚司令官や七瀬さんに指摘されていました。
こんな風に、何をしていてもぼーっとしている時間が多いというか、上の空というか、めぐみさんがめぐみさんではないような状態が続いていました。
こんな状態がこれからも続くようであれば、実践の時に危険だと判断した私は、まずは31Aの皆さんに相談してみることにしました。
めぐみさんには少し申し訳なかったのですが、緊急事態であると考えたので、お昼休みに31Aのお部屋に月歌さんを始め、めぐみさん以外のメンバーを集めてめぐみさんの最近の様子について話をしました。
「...こんな感じでめぐみさんに何かあったのではないかと思いまして...」
「なるほどねぇ、確かに最近のめぐみんツッコミのキレ悪いよな」
「ああ、確かにな」
「体調でも悪いのかな」
「風邪の時はネギをおしりに突っ込むといいらしいわ」
「いやそれ体温を下げるためのやり方だろ!更に言うなら風邪薬飲めばいい話だからな!」
「なるほど、では風邪薬を買えば...」
「いや風邪だと断定したわけじゃないから」
「うーん、風邪じゃないとしたら分かんないよな」
「何でお前も風邪一択だったんだよ、他にもあるだろ」
「例えば」
「何か悩み事があるとか...って考えりゃ分かるだろ!」
「えー、そんなの本人に聞かないと分かんないじゃん」
「...お前に正論言われるとムカつくな」
「でもまあ、月歌の言う通り逢川に直接聞いた方が早いんじゃないか?」
「そうですね、真意を確かめるためにもきちんと聞いてみることにします!皆さんお付き合い頂きありがとうございました」
それから私は寮から出て、皆さんからのアドバイスを元に、めぐみさんにお話を伺おうと探すことにしました。この時間、めぐみさんはいつもナービィ広場で修行をしているのでそこへ向かいました。すると、いつものようにナービィ広場の真ん中の木の下で瞑想のように目を閉じて佇むめぐみさんを見つけました。邪魔をするのも悪いかなと思い、傍で様子を伺っているとめぐみさんの方から話しかけられました。
「なんや、何かあるんなら聞くで」
「何かあるのはめぐみさんの方ではないでしょうか!」
「なんやねん突然」
「最近、集中が全然続いてないのお気づきでないですか?」
「...やから修行してんねん」
「体調が悪いとか?」
「なんで風邪薬持っとんねん」
「違いますか?」
「ちゃうわ、でもまあ似たようなもんかもな」
「え!それはどうやって治りますか!」
「そんなん...」
めぐみさんが言い終えないうちに、何かに気づいたのか立っていた木の後ろに隠れてしまいました。私も何となく何かあるのかもしれないと思い一緒に木の後ろに隠れました。
するとナービィ広場の前に見慣れた2人がいることに気づきました。2人は仲良さげに、時折お互いに見つめ合い、恥ずかしそうに笑いながら歩いているのが見えました。
「あれって、月歌さんとユキさんですよね?やっぱり仲が良いんですね」
そう言いながらめぐみさんの方を見るとじっと2人の様子を見つめたまま逸らそうとしませんでした。もう一度2人の方へ目をやると、手を絡ませ合う姿が見えました。
「わあ、こ、これは付き合ってるんですかね!付き合ってますよね!」
興奮の止まらない声ではしゃぐ私の隣で、めぐみさんは固まったままになっていました。仲がいいことは知っていたもののさすがにその事実を目の当たりにすると驚いてしまいますよね、と思いながらめぐみさんの方を向くと
「...」
何も言わないままポロポロと涙を流していました。私はこんな風に泣くめぐみさんを見たことがなかったので何と言えばいいか分からず戸惑ってしまいました。
めぐみさんは、頬を伝う涙を拭うと走ってどこかへ行ってしまいました。
戦艦の頭脳として育てられたこの私でも難しい問題に当たってしまいました。
どうしようかと考えている時に、31Aでいる時のめぐみさんを思い出しました。
私のことをいつも気にしてくれていて、困っていると助けてくれる、尊敬するめぐみさんの姿が思い浮かびました。
「私もめぐみさんの力に...」
めぐみさんがどんな気持ちで泣いていたのか、最近の日々を過ごしていたのか、確信できる答えは浮かばないけれど、きっと一人で寂しい思いをしているんじゃないかと思い、走り回りました。
きっとまだ近くにいるはずだと思い、めぐみさんがいそうな場所を回っていきました。
いくつかの場所を回って、すれ違っているのかもしれないとまた行った場所に回ろうと動こうとした時に
「誰かお探しっスか?」
「あ!あなたは31Dの!」
「石井色葉っス!この間はうちの部隊長がお世話になったっス」
「いえいえ、とんでもないです!」
「それより、誰か探してたんじゃないっスか?」
「そうです!めぐみさんを探しています!見てませんか?」
「31Aの人っスね、見たっスよ。凄い色をしてたから覚えてるっス」
「本当ですか!!どこに向かってましたか?!」
「時計塔の方っス」
「ありがとうございます!」
石井さんの言う通り、時計塔の方へ行き上へ上ってみるとぽつんと一人、座っているめぐみさんを見つけました。めぐみさんは鮮やかなピンク色の髪を夕焼け色に染めながら、沈む夕日を見つめていました。
「めぐみさん」
今度は自分から声をかけることが出来ました。ゆっくりとめぐみさんの方へ近づいていくと、めぐみさんはこちらを向かないまま
「何しに来たんや」
といつもの威勢のいい声ではなく、鼻声の小さな独り言のように呟きました。
私は
「めぐみさんの傍にいたかったんです」
そう言いながら隣に座り、めぐみさんの肩に頭を預けました。
「こうするとよく眠れそうです」
「寝に来たんか」
「そうですよ、めぐみさんの近くはよく眠れるんです」
「そんなんあれへんやろ」
「夕日、綺麗ですね」
「ほんま、こんな日にも綺麗に沈んでいくわ」
私は何も言わずに、めぐみさんとオレンジ色から紺色に変わっていく空を見つめました。明日は笑顔のめぐみさんが見れますようにとお願いしながら。