友チョコ多分、こういうのって味だけじゃないんだ。見た目勝負な部分があって。
ケーキとかだと、運んでる間に崩しちゃいそう。
自分で言うのも何だけど、俺って普段の動きが雑いから。
クチバでも大きなデパートの、盛況極まるチョコ売り場を舐めるように巡回して、これと決めることが出来ず俺は軽くため息をついた。催事場を外れた階段そばの椅子に座ってぼんやりと買い物客の楽しそうな様子を俯瞰する。
明様に渡すチョコは、明日。柄にも無く作る段取りで材料も型も全部準備できている。問題は一緒に作る友人に友チョコをあげたいと思ったからで。
「あげる」?
自分の言葉のチョイスに、俺は眉をしかめた。なんか、違う。「あげる」は、違う。そんなんじゃなくて。
「わたす」
いつも感じてるし、多分伝わってるんだけど。好きだよって伝えたくて、ありがとうって言いたくて、その気持ちを渡す。うん、そんな感じだ。
「小町?」
不意に名を呼ばれて思考の奥底から意識が戻る。目を上げると、少し切れ長の目を丸くして、友人が立っていた。
「撫子…?なんで、こんなとこに」
ずっと後ろの柱の陰で黒服の姿が見切れてる。普段なら『中川さんが心配するので』と、寄り道なんかしないのに、今日は制服に通学カバンのままで買い物に来ていることが不思議で、反射的に聞いていた。
「ええと、明日の…」
はにかみながら口を開いた撫子に、ああ、夕様に渡すチョコ作りの準備のためかとどこかで俺の気が抜けた。
「小町に渡すチョコを買いに来ました!」
えへへと笑う撫子を、呆然と見つめてしまう。
「小町は」
「俺も!」
言わないでおこうと思っていたのに、撫子の言葉が呼び水みたいに、俺から声を引き出した。撫子にかぶせるように、告白してしまう。
「その…。俺も、撫子に渡すチョコを買いに」
なんで俺、こんななんだろ。ちゃんと顔を見て、「いつものお礼を伝えたくて」って、言えばいいのに。伝えたいのに。
「じゃあ、一休みしたら一緒に回りたいです!あ、もう、お買い物、すんじゃいました?」
軽やかな撫子の言葉にうんと応えて、小さくありがとうと呟くと、撫子がハイと大きな声で返事した。