キツネうどん 導入部分彼がサクラギ研究所を訪れたのは、ハロウィンも過ぎて半月もたつ頃だった。
モスグリーンのベレー帽をかぶり、背中には小さなリュック。Aラインに広がった上着の裾からは、キツネの尻尾を模したキーホルダーが覗いている。
「久しぶり」
大きな扉を抜け応接間へ通されると、笑いながら少年が帽子を脱いだ。銀の髪から、ひょこりと白い三角形が伸び上がる。滑らかな被毛に覆われたそれが耳であると気づくまで、ゴウはたっぷり三秒間ほどそれを凝視した。
「今日は、この件で来たんだ」
視線を受け止め、少年は面白そうに笑った。さも、イタズラが成功したとでもいいたげな笑顔である。