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    で@Z977

    @deatz977

    グスマヴェちゃんだけをまとめておく倉庫。
    🦆🐺至上主義強火。独自解釈多。閲覧注意。
    (全面的に自分用なので配慮に欠けています)

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    小夜啼鳥の夜明け(side M)
    (グスマヴェ未満、アイマヴェ未満)

    小夜啼鳥の夜明け(side M) 酔い潰れて「帰るのが面倒だ」とへべれけなグースを自身のベッドに寝かせることはこれまでに何度もあった。ソファにでも押しやりたい気分だが、グースの身長でそれをするとかなり窮屈なことになる……どころか収まりきらないので渋々ベッドを譲る。酔っぱらったグースと寝ると抱き枕にされる可能性が高いため、いつもは枕になる前に僕の方がソファに逃げていた。


    ―――


     その日はまだそんなに飲んでいない内から気怠い空気があった。連日の慣れない訓練と緊張感の中、疲れも溜まっていたのかもしれない。早めに切り上げようとして、隣りから「帰るのが面倒だ」と聞こえた。こんな時間から馬鹿なこと言うなよ、と紡ぎたかったのに、「少し眠ってから帰ればいいんじゃないか」と口走る。単身者用の官舎の方が近いから、仕方がない。

     いつもと変わらなかった。帰るのを面倒がるグースがいて、僕のベッドを占領して、逃げ遅れた僕は抱き枕になっていた。
     いつもと変わらない。グースの大きな手が僕を掻き抱くように力強いのも、すっぽりと抱きすくめられたハグに安心するのも、心地よい心音に耳を傾けて眠りにつくのも。

     一時間か二時間か。どうやら眠っていたらしい、とぼんやりした頭を振って昨夜のことを思い出す。窮屈な体勢で眠る羽目になったのは、目の前の男が自分を抱きしめているからだ。眠る前ほどの拘束は感じないが、こんな状態でよく眠れたものだと我ながら感心する。なんとなく、この男の腕の中は安心するのだ。
     ふいに、触れることが出来る位置にある男の顔に気づく。


     あぁ、まずい。

     触れたい、と思ってしまった。


     拘束と呼ぶには優しすぎる腕から抜け出すのは簡単だった。いつものようにソファに丸まって朝を待つ。短期招集で使用している官舎に備え付けられているソファは、普段から愛用しているそれより硬くて冷たかった。眠れるだろうか。
    「……Talk to me, Goose.」
     さっきまでのぬくもりが、少しだけ恋しい。


     翌朝、目を覚ましたグースが「今何時だ!?」とわめきながらキャロルに電話していた。電話越しに訝しむ彼女に困り果てているグースの横から「大丈夫だよ、ハニー」と声をかけてやる。大丈夫だよ、僕と居ただけだ。彼が君を裏切ることなんてない。
     酷い裏切りをしているのは、僕だ。


    ―――


     昨夜、グースに対して抱いた感情が信じられない。信じたくない。もう、この気持ちを隠し通すことなんてできないんじゃないのか。隠し通すって何だ。この気持ちって、どの気持ちだ。
     グースは、僕の唯一の「家族」と呼べる存在で、だから、きっとこれは家族に向けた親愛の情で、あの手に撫でられて気持ちがいいのも、支えてくれる大きな身体が頼もしいのも、一緒に笑って、時に叱ってくれるあの唇が紡ぐ音が心を震わせるのも、全部「家族」だからだ。


    ―――


     散々な結果となった模擬戦訓練が終わりロッカールームを後にしてからも、自室に戻る気にはなれなかった。昨日の今日で、あのベッドにシラフのまま横たわれるわけがない。思い出してしまう。思い出してはいけない感情を。
     この際、前後不覚になるまで飲んでしまえば、と思っても明日も当然訓練はあるわけで、さすがにそんなことで成績を落とすのは本意ではない。まずは、とりあえず軽く飲んで、それから……。
     と考えたところで、飲みに行こうにもグースの誘いを断っていたことを思い出した。別に顔を出したところで気にも留めないだろうが、僕自身が今、彼の顔を見たくなかった。それに、僕の身勝手な気持ちのせいで散々な模擬戦まで演じて、本当に合わせる顔がない。

     どうしたものかとぼんやり歩く。今日はもう、誰にも会いたくない。情けない顔をしているだろうことは想像がついたし、かといって笑顔を作るのも面倒だ。感情が綯い交ぜになってしまって、とにかく休みたかった。休む場所がなくて困っているのだけど。

     はぁ、と無意識に溜息を吐いて顔を上げると、見知った顔がこちらに歩いてくるのが見えた。今一番会いたくない……のはグースかもしれない、から、二番目? 三番目? どっちにしろ誰にも会いたくないのだから何番目でも変わらないけど、とにかく会いたくない相手だ。氷のように冷静な男、アイスマン。顔を合わせれば毎度言い合って、何故か嫌味の応酬になる。どこが冷静な男なんだ。
     面倒だな、と思うが、眼前に迫った相手に今更方向転換も難しい。睨むほどの気力もなく、視線だけを逸らす。
    「……大丈夫か?」
     揶揄いの色のない、かといって心配をされているというよりは、単なる社交辞令とも言える平坦な音だった。こいつにそんなことを言わせるくらい自分はひどい顔をしているというのか。そうだろうな、と思い自嘲的な笑いが零れる。
    「お前には関係ない。敵の心配する余裕があるのかよ」
     僕が潰れたら好都合だろ、となんとか絞りだした。いいから放っておいてほしい。
     嫌味が返ってくるでもなく、暫くしてもなかなか立ち去らない男に業を煮やし、こちらから歩き去ろうとしたところで、腕を掴まれた。熱い。
    「ライバルであって敵ではない。お前が一緒に飛んでいるのは味方機だ」
     一番にしか興味のない奴がよく言えたもんだ。


     そうだ。こういうところが、気に入らないのだ。こいつの言うことはいつだって正論で、僕たちは技術を競い合いこそすれ、それは己自身の向上を目指すものに違いない。編隊を組むチームプレイに必要な能力を確実なものにするためだ。決して、誰かを蹴落として、出し抜いて、自分が上に立つためじゃない。正攻法でトップにいるこいつは、きっと本当に「一番」に近いんだろう。
    「………っ……」
     制御できない感情が高ぶる。ただでさえ昨夜から何も整理できていない状態で、その上何故こんなに惨めな思いをさせられなきゃいけないんだ。八つ当たりに似た憤りが浮かぶ。もういいから、とにかく休みたい。虚勢を張って立っているのもやっとで、許されるならこのまましゃがみ込んでしまいたかった。
     こうなってしまっては一刻も早くこの場を立ち去った方がいい。頭の中で警鐘が鳴り響く。もう強がることも取り繕うこともできずに、ぼやけた視界のまま掴まれた腕を振りほどこうと踠く。逃がしてくれ、そう思うのに。未だ離されない手が、熱い。
    「グースは……お前の相棒はどうしたんだ? そんな顔をしているお前を放っておくとは思えない」
     最悪だ。限界だった。
     お前こそ放っておけばいいだろ。なんだっていうんだ。お前には関係ないのに。どうして。
     言いたいことは山程あるのに、音にならない。嗚咽を漏らさないようにするのが精いっぱいだった。こんなの、嫌だ。情けない。


    ―――


    「座れ。そこに突っ立っていられても困る」
     何でこんなことに。
     ほとんど強制的に連れてこられたのは、官舎にあるアイスマンの自室だった。何も言わずソファに腰を下ろすが、ここに来るまでに頭は冷えていた。……何で、こんなことに。
     ローテーブルに置かれたコーヒーに、こいつにも人並みに飲み物を差し出すという行為が出来るんだな、と感心する。くだらない。本当にくだらないことだった。

    「眠れていないのか?」
     酷いクマだ、と伸ばされた手を払う。無意識だった。
     さすがにバツが悪くて「ごめん」と小さく謝る。当の男はさして気にしていないようだが。
    「……飯はまだだろう?」
    「食欲がない」
    「少しでも腹に入れておけ」
    「…………」
     なんでこいつとこんな会話をしているんだろう。不思議でたまらなかった。いけ好かない奴なのに。少しだけ、気負わなくていい雰囲気が、ぐるぐると渦巻いていたモヤを薄くさせた気がして苦笑する。可笑しなもんだ、と思った。
    「……その顔」
    「ひどい顔だって? 知ってる」
     取り繕うのも面倒なのだ。今更言及される謂れはない。
    「確かに……顔色は、酷いもんだな」
    「顔色は酷いけど? 何だよ? その顔、って、おれはどう見えてるんだ?」
     含みのある物言いに納得ができず、小首を傾げてじっと男の瞳を見遣る。あぁ、そういえば、こいつの瞳ってすごく綺麗だな、と場違いな感想が過った。その顔、とか、その目つき、とか色んな人に指摘されたことがあるけれど、この男には、アイスマンの瞳には、どう映っているんだろう。
    「いや、……何でもない。気にするな」
     交わっていた視線を逸らされ、溜息混じりに言われても気になるだけだ。
    「は? そっちから言っておいて逃げるなよ! 敵前逃亡は軍機違反だ!」
     思わず指をさしてそう言えば、今度は声を上げて笑われた。調子が狂う。こいつも、こんな風に笑うのか。
    「だから、敵じゃないと言っただろう」
     くしゃりと頭を撫でる手が振り払えなかったのは、見たこともない優しい顔で目を細められたからだ。
     

    ―――


    「おはよ、グース。……昨日は、その……悪かった……ごめん…」
     開口一番、挨拶もそこそこに謝ることにした。流石に昨日の訓練はグースにも迷惑をかけすぎた自覚がある。僕を信頼してくれているRIOに申し訳が立たない。
     今日はガンガン撃墜しようぜ、と頭一個上にある顔に笑顔を向ける。今日はちゃんと笑えているはずだ。なのに。
     見上げたグースの瞳に、一瞬、底冷えのする色が浮かんだ、ような気がした。

     頼むぜ、と陽気な声とともに背中を叩かれた時には、いつものグースに戻っていた。気のせいだったのかもしれない。
    「昨日は本当に散々だったからな! 愛しの美人教官に慰めてもらって、今日は完全復活したか?」
     あっはっはっと大げさに笑う姿にも、一切の影はない。
    「……チャーリーがどうしたって? 昨日はそんなんじゃ…………」
     ない、と言いかけて、グースの誘いを断った時を思い出す。


    ――今日は散々だったな、どうした? とりあえず飲みに行こうぜ。
    ――……あ、あぁ…悪い。今日は、用事が、ある…から。
    ――相棒の俺より愛しの彼女、ってことか? わかったわかった。ちゃんと慰めてもらってこいよ!
    ――はは、悪いな。


     あの時、上手く笑えていたのかわからない。とにかくグースの前にいるのがつらくて、適当に会話を切り上げたのを覚えている。

    「……ふーん、じゃあ昨日はどこに行ってたんだ?」

     グースの声に怒りの色はない。落胆も、興味も。何気ない日常会話にすぎない。結果として嘘をつく形になったとはいえ、こっちだって単に予定が変わっただけだ。そうだろ? 何も、やましいことなんてしていない。そもそも、僕とグースの間に、互いに隠さなければならない程の重要な関係性が見つからない。見つけちゃいけない。

    「マーヴ?」
    (Talk to me, Goose.)

     どう答えるのが正解かわからないんだ。教えてくれ、グース。
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