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    蒔野祐

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    蒔野祐

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    気まぐれに首絞めようとしてきたティーチとマスター夢主の話
    ( FGO / エドワード・ティーチ夢 / ひげぐだ ・ 髭ぐだ ※)

    夢主 : うちのひげぐだカルデアのマスター
    (ぐだのことをゲーム主人公と藤丸立香と原作寄り夢主の総称と扱っている人)
    ビジュアルは女主人公、NOT藤丸立香

    それでも明日はやってくる 略奪。陵辱。それらを人のかたちに固めたような立派で最悪な海賊。いくらそいつが英霊という型に填められていようとも、周囲に身を案じる輩が両手じゃ足りないほどに居ようとも関係ない。ただの道化だと侮ったならばその場で首を引きちぎってやることも辞さない男だ。
     それなのに。



    「したいの?」と、澄んだ目でまっすぐにこちらを見つめてくる相手を前にしたとき、たじろいだのはこちらだった。命乞いでもない、破滅願望でもない、慈母のような受容でもない。ただ単純に、「諸々の不利益を被ってまで、それをしたいのか」と問いかけてくるのだ。些細で気まぐれな行動に、大真面目に応じてくる様は、かといって肝が据わっているとも見えない。

     自分の生も死もどこか遠くにあるような、ふわふわとした面持ち。そこから繰り出されるのが「ここだとすぐロマニたちが来ちゃうよ」という、脅しというよりも”別のロケーションの方がいいんじゃない?”というニュアンスの、半ば共犯者じみた発言なのだ。

     喉元にかけた右手を放したり、胡座で囲っている足をどかしもしないが、手に込めた力は抜いてやった。その代わり、高ぶりかけた興奮にピシャリと水を差されて不機嫌になった、ような顔をつくる。相手はたいして動きもせず、まだ上体を捻ってこちらと目を合わせたままだ。

    「……アンタ殺されかかってるの分かってます?」

    「私のこと殺したいの?」

    「その疑問文で話してくるのやめてくれませんか。ウザいんで」

    「え、だって、私のこと殺したら、ティーチもここに居られなくなっちゃうし。漫画も読めなくなるよ」

    「マスターが死んだら人理も一緒にお陀仏ですし、もはや関係ないのでは?」

    「あれ、そっか。でも、やってもあんまり楽しくならないと思うから、やめといたらどう?」

    「なんつうか、軽い命乞いですなぁ。もっと泣いて縋ったり、逆に殺し返してやるーみたいなのしないんです?」

    「やだなぁ、それじゃティーチが面白がっちゃうじゃん」

     ピク、と自分の眉が動くのを感じた。

    「過剰に反応したら、どんどんどんどんテンションが上がっていっちゃうでしょ? そうなったら誰にも止められなくなるもん。”やべー殺しちゃった。でもやっちゃったことはどうしようもないし、最後におもいっきりハチャメチャしてかーえろ”みたいな?」

     呑気な顔をしてるくせに、思いのほか全うに享楽的な自分の心理を突かれて押し黙ってしまう。

    「ティーチがほんとうにそうしたいなら別にいいんだけど、損得で考えたら今じゃないと思うんだよね」

    「分かったような口きいてんじゃねぇぞガキンチョ」

    「うん。実はそんなに損得でとか考えたことなんてないからさ、ティーチの方が詳しいと思う」

    「……ハァー。お子ちゃまの知ったかぶり賢みそうろう節聞かされるのが一番の損じゃねぇですかね」

    「ふふ、なにそれ。賢みそうろう節ってはじめて聞いた」

    「今拙者が考えたんで」

    「天才じゃん! 絶対カルデアで流行るよそれ」

    「えぇ~、マスターの笑いのツボってなーんかズレてるんですよねぇ。ノッブ殿とかならハマりそうでござるが」

    「ちょっとわかるかも、へへ」

     他愛ない会話の最中、さりげなく右手を首から退かし、徐々に体の力を抜いていく。一気に脱力して油断させようかとも考えたが、その手の小細工は効きそうにない。というよりこの人間は、緊張と油断という二極に収まってはくれまい。自然体に見えてこちらの動向を伺う。見透かしているようでいて、実はハッタリでしたとすぐに舌を出す。これが全て作為ならばよっぽど御しやすいが、そうではないとなると。舐めてかかってはいけないのはお互い様だろう。

    「あれ、もうこんな時間だ。ちょっとマシュと約束してたんだよね」

    「おやぁそれはそれは。百合の間に挟まる者は馬に蹴られちまいますからなぁ。でも拙者はボッコボコにされたって両手にハーレムしたぁい!」

     軽口を叩きながらマスターが立ち上がり、足の間からすり抜けていった。約束というのも方便ではないのだろう。手に取ったのがオムニバス形式のコミックだったり、時折時間を気にしていたという状況証拠もそうだが、今さら下手な嘘でこちらを刺激するような馬鹿ではないと理解できたからだ。少々名残り惜しいとは思えども、屈服させてやろうとか犯してやろうなどという、己の残虐さは鳴りを潜めていた。不思議な感覚だ。

     こちらの心情を知ってか知らずか、目の前の相手は先ほどまでと変わらぬとぼけたような様子で振り向く。

    「えー、マシュはティーチのハーレムとか興味なさそうだし、私も複数人でお付き合いはなぁー。じゃあまた明日、かな? ちょっと早いけどおやすみ!」

    「はーい、明日もまた来てくれるかな?」

    「いいとも~!」

     手を振り笑顔を向ける姿は閉まる扉に遮られ、その後はパタパタと廊下を小走りで移動する音だけが残る。ふと一息ついた後に、先ほどの返答に違和感を覚えた。あのシールダーの少女は”興味がなさそう”、マスターは”複数人でお付き合いはなぁー”。わざわざ分けての発言、というのはつまり。

    「一対一ならアリってこと?」

     まっさかぁ、と笑いながら。あのガキが向けてくるまっすぐな笑顔に、明日もちゃんとおどけた態度で返せるのだろうか。と思ったとて、それでも夜は明けてしまうのだった。
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    蒔野祐

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    夢主 : うちのひげぐだカルデアのマスター
    (ぐだのことをゲーム主人公と藤丸立香と原作寄り夢主の総称と扱っている人)
    ビジュアルは女主人公、NOT藤丸立香
    それでも明日はやってくる 略奪。陵辱。それらを人のかたちに固めたような立派で最悪な海賊。いくらそいつが英霊という型に填められていようとも、周囲に身を案じる輩が両手じゃ足りないほどに居ようとも関係ない。ただの道化だと侮ったならばその場で首を引きちぎってやることも辞さない男だ。
     それなのに。



    「したいの?」と、澄んだ目でまっすぐにこちらを見つめてくる相手を前にしたとき、たじろいだのはこちらだった。命乞いでもない、破滅願望でもない、慈母のような受容でもない。ただ単純に、「諸々の不利益を被ってまで、それをしたいのか」と問いかけてくるのだ。些細で気まぐれな行動に、大真面目に応じてくる様は、かといって肝が据わっているとも見えない。

     自分の生も死もどこか遠くにあるような、ふわふわとした面持ち。そこから繰り出されるのが「ここだとすぐロマニたちが来ちゃうよ」という、脅しというよりも”別のロケーションの方がいいんじゃない?”というニュアンスの、半ば共犯者じみた発言なのだ。
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