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    じろぽい

    @PF49VoE5V9RzFaq

    ロゾ探求レッドゾーン

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    じろぽい

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    2023年ロゾ週間おめでとうございます!

    ※tr男の別世界ロゾに対するツッコミ集。
    ※3日目 学生ロゾ VS tr男

    「ヘタレが!今すぐ寝取れ!取るべき椅子は必ず奪え!」みつぼし




    意味がわからねえ、この五月蠅さ。
    意味がわからねえ、この暑さ。


    ミンミンミンミーーン
    突如、音の大合唱が耳を劈き、湿気を多量に含んだ粘ついた暑さがあまりに不快で目覚めた時、まったく知らない場所が現れ、これまでの経験により別の世界だとローの頭脳は処理していた。ローはこの暑さの中うすら寒さを一瞬だけ感じるほど、異様な世界が広がっていた。此処は何処なんだ。むしろ何なんだ、この世界。視界には見慣れないものが多すぎる。一番の不快は溺れながら息をしているのではないかと疑うほどのこの蒸し暑さだ。それに争いや喧騒の気配や匂いが根からないのだ。海賊がいない世界か?なんだ、ここは。
    文句は次々沸きだし反比例してローの気力は失われていた。
    大体この異常な暑さを気候に持つのであれば地面を鉄?鉱石?よくわからないがなぜ埋め尽くす必要があるのか。この一面の灰色の塊のせいで太陽の熱が吸収され発散されるときに温度が何度も上がっているではないか。この国の人間は頭がおかしいのか?それになんだこの等間隔に立つ柱と空を区切る線は。うぜえ。わざわざこんな物を配置して視野を狭くしているなら最早統治者は酔狂の類いか。さらに先程から高速で移動している騒音でしかない乗り物、あれを考えた人間は効率が悪すぎる。どう見ても人体に影響しそうなガスをまき散らして移動するなら最早乗り物ではなく兵器なのかもしれない。
    半目で捉えた世界は何処までも文句しか湧き上がらずローの口癖は「暑い」「うぜえ」になっていた。チラチラと人が歩く気配があっても皆ローの風貌を見てビビりまくって逃げるように去って行く。それが幼き頃の自分を取り巻く環境を思い出させて苛立ちに拍車をかけていた。ローは項垂れて脚を揺するのが止められなかった。下を向けば汗がこぼれ落ちる。太陽が腹立たしい。
    「先輩?大丈夫か?」
    声をかけられても自分だとは思わなかった。

    「先輩?おい、先輩、トラ男?」

    最早懐かしいとまで思う呼び名にローが顔を上げれば、緑髪の幼さを残すゾロが屈んでローを伺っていた。真っ青なキャンバスに大きな白い雲が描かれ、そこに立つゾロの緑髪が涼しく映えていた。そして懐かしい片目だった。蝉の声が一層喧しく二人の存在を浮き立たせていた。



    熱射病か?とゾロは真剣な表情でローと向かい合う。
    ローもゾロを観察すれば、ローが知るゾロに比べてあまりに細いし鋭い気配がなかった。顔付きは強面なのは変わらないがどちらかと言えば端整な顔立ちとして捉えられる。まるで普通の子供だ。片目をのぞけば。
    「あれ?せ、んぱいじゃねえ?もしかして先輩の兄貴か?そっくりだな」
    ローの刺青に驚くゾロは首を傾げ、納得いく理由に辿り着けばうんうん勝手に頷き始める。そっくりもなにも同じだからな、とローが真実を漏らすことはなかった。
    「とにかく一緒に行こうぜ。こんなところにいたら酷くなるぞ?ちょうど今日は先輩も家に来るし」
    熱射病の症状を心配しているようだが、全く違う。そんな柔に鍛えていないし、医者の判断では精神的なものによる一時の気鬱だ。しかしゾロはローを立ち上がらせ歩き始めた。
    また迷子に連れられて彷徨うのか。ローが暑さに倦怠を強め人相を兇悪にしようとゾロは平然としていた。しかし、と改めて子供のゾロを見下ろす。太陽の光を燦々浴びて緑色が喜んでいそうなゾロにこの世界の住人なんだと知る。あんなに避けて通っていた人を見ればローはこの世界では弾かれるような存在なのだろうそれなのにゾロは知り合いの兄貴かもしれないという理由で助けている、いやもしかしたらまったく知らない人間でも声をかけていたのかも知れねえ、とこれまでの経験からローは推測していた。
    視線を感じたのかゾロもローを見上げてきた。ローが視線を合わそうとすると常より視線を下にさげる必要があるので変な気分だ。ゾロは背中に荷物を抱え、刀いやこれは竹刀と言ったか、それを三本持ち歩いているようだ。三本は変わらねえのかよとこれは少し面白くてローの気分が上向きになった。
    「なあ?先輩の兄貴も剣道やるのか?それ、なんか真剣っぽくて格好いいな」
    抱えていた鬼哭を指さして目を輝かせるゾロは幼い。先程ローより年上のゾロといたから余計にそう思ってしまうのか。ゾロはまだ子供だった。この暑さで黒い制服に身を包んでいるので何処かに所属はしていそうだが海兵という訳ではないのだろ。子供なら学校の制服か。黒い制服はゾロに似合っているがこの気候にその制服の着用を強いるならやはり頭がおかしい統治者なのだろう。


    ローの思考力まで奪っていくこの世界の太陽を睨み付け、ゾロの会話にのり、この世界の異様さに文句を積み重ねること30分。
    辿り着いた場所は小さな箱が集合しているような建物だった。共同住宅か。しかも古い建造物でゾロやローが二階に上がるために登った階段はミシミシ音を立てるので、安全性に疑問がある建物だった。鍵を取り出しゾロが「ただいま」と声を出すと、「ゾロ屋!迷子になったんなら連絡しろって言っただろ!」「迷子じゃねえ!」とこれまた随分とガキくさい自分が室内から出てくるのでローの心労が嵩んだ。
    ガキはゾロが連れているローを見つけて変な声を上げた。

    「ゾロ屋!変なもんは拾ってくるなと、あれほど誓ったよなあ?!」

    「変なもん?先輩の兄貴だろ?」
    「はあああ?おれに兄貴なんて」
    「兄貴ってことにしておけ」
    自分に対して容赦なく、ローはガキの口元を押さえ込み殺気を漂わせて話を合わせるよう脅した。命令すんな!と喚いているらしいガキは口が押さえられているのでウガウガ吠えてるだけだ。仲いいなと笑うゾロは靴を揃えて脱いで荷物を置きに行った。
    ゾロから距離が取れた事を確認し、ローはガキを放した。
    「て、めえ何者だ?いや、おれなのか?」
    「頭は悪くねえみたいだな」
    「お、れは、将来ヤクザになんのか・・・ゾロ屋とは破局したのか?!」
    「はあ?」
    「ああ?てめえはあれだろ、未来から来たおれとかそう言うのだろ。映画でもそんなんあったが現実になるんだったらせめて未来のゾロ屋を寄越せよ」
    「安心しろ、未来から来たわけじゃねえ」
    疑いの眼差しと欲望丸出しのガキに、頭が痛くなるローだった。この世界でもそうなのか。
    大小のローに暗雲が立ちこめ始めたとき、晴れ晴れしいほどの快活さでゾロが「麦茶いれたぞー」と二人を呼びに来たのだった。



    前の世界のゾロの緑茶の不味さを口が忘れまじと訴えるので中々口を付けなかったローだが、あまりの喉の渇きに一気に呷ると普通のお茶の味だった。空いたグラスにゾロがまたお茶を注ぐので、ローはそれも飲み干した。漸く一息つけた。
    「それにしてもそっくりだな、先輩と兄貴」
    「似てないだろ。ゾロ屋、おれは刺青なんて興味ねえし、そう言う職業に憧れもねえ」
    「ん?こないだサッカー見てるときに刺青も悪くねえとか言ってなかったか?先輩」
    「止めた。これを見ただろ?ただのヤクザじゃねえか」
    「そうか?格好いいだろ?」
    「ゾロ屋?!お前は本当に年上に弱いな?!」
    「くっついてもいねえくせに、めんどくせえ」
    「うるせえ!てめえは喋るな!」
    「そりゃ横暴だろ」
    三人で一つのテーブルを囲んでお茶を飲む、と記せば微笑ましいが実態は真逆だった。一人はヤクザ、一人は同じ顔で般若のようにいきり立ち、一人は暢気とあまりにチグハグな三人だった。
    そしてローは気付きたくもなかったが、ガキが破局云々ゾロとのことを言っていたのでこの世界でもかとうんざりしていたというのに、その実まだくっつくことも手を繋ぐことすら出来ていない現状だった。はあ、と特大の溜息を吐くしかない。
    お茶のグラスを取るときガキとゾロの手が触れあってはパッとはなして二人でモジモジしているので「きめえ」と一刀両断すれば、ガキが喚く。
    ガキの知らない話題がでれば「初めて聞いたぞ」「そうだったか?」と責めるガキに決まり悪そうに笑うゾロのもどかしい空気に「頭花畑か」と真実を告げてやれば、ガキが喚く。
    ゾロが「またお前の手紙頼まれた」「おい」「わかってる。ちゃんと断った。おれは不実なことはしねえ。でも最近また多くなったな」「夏休み前だからだろ」「ふーん」と拗ねたような顔をするのでガキはデレデレし始めたところで「馬鹿に処方する薬はねえぞ」と医者の見解を述べれば、ガキが喚く。
    そんなことを繰り返していると、おれは引率じゃねえぞとローは馬鹿馬鹿しくなってくる。

    まさかこのモダモダ二人がくっつかないと元の世界に戻れないとか言う地獄のミッションか?はあ。

    「おい、いい加減にしろ!てめえ!」
    ゾロが新しい麦茶作ってくると席を立ったところで、ガキが詰め寄ってくるが気にせずローはやる気もない腹立つ顔を曝して部屋を見回していた。ちりんちりんと涼しい音がしていたのは、開け放たれた窓際に垂れている飾りだった。
    「おい、クソガキ、聞け。ゾロ屋はお前に気がある。とっととてめえも白状してセックスでも何でもすりゃいい」
    「てめえにそんなこと言われる筋合いねーだろ!!ふざけんな!!」
    「ヘタレが何時まで経ってもモダモダしてやがるから、ご教授してやってんだろうが。とっととくっつけ。」
    「あ?だれがヘタレだ?!」
    「ああ?てめえだってゾロ屋から向けられている情に気付いてんだろ。それで動かねえならヘタレ以外なにがあんだよ」
    「うるせえ!勝手にてめえの推論を押しつけんな。反吐が出る。」
    「それなら納得できる理由でもあるのかよ、ヘタレ」


    「ゾロ屋にはユースタス屋がいるんだよ!!」


    ガキの絶叫に、言葉以上に該当の人物が邪魔くさいほどのデカイ図体で幅をきかせてローの思考に出てきやがり、ローも瞬間沸騰した。シャボンディ諸島でのキッドとルフィとの啀み合いまで思い出された。
    麦わら屋にはゾロ屋の船長としてマウントを取られ、此処ではユースタス屋にまでマウントを取られるだと?!ふざけんな?!このおれでありながら甘んじてるというのか?!ああ?!

    「ユースタス屋だと?!あんな野郎にゾロ屋奪われてノコノコしてやがんのか?ヘタレが!今すぐ寝取れ!セックスしろ!やり方がわからねえなら教えてやる!取るべき椅子は必ず奪え!今!すぐ!ユースタス屋から奪え!」

    「ふざけんな!!誰がゾロ屋のエロイとこを他に見せるか!!」
    そして幼いといってもローであることに変わらないガキは、自分が感情的だったこともあり言い方を誤りローが勘違いしていることに直ぐに気付いた。
    「別に二人が付き合ってるわけじゃねえ。ゾロ屋にとってユースタス屋が憧れで特別なんだ。本人は気付いてねえが初恋だろ。」
    「ああ?何処もねえだろ、憧れる要素なんて」
    「ゾロ屋は殺人未遂の容疑者で少年院にぶち込まれた事があるらしい。」
    ローはこの世界の構造がまったくわからないながら殺人未遂と容疑者ということ少年と名が付いているので監獄とは違う対象の子供を収容するための施設なのだと予想を付けた。
    それより気になったことは。
    「ゾロ屋は殺人はしねえだろ」
    仲間でもないローがそう断言できるのは、不思議ではなかった。ローから見ても、ゾロは人を殺すより助けることを選ぶ男だった。剣の道に生き、好戦的で血生臭くシビアな男のくせに、その血の匂いは自分の血の匂いばかり纏うのだ。匂いに敏感なベポが「ロロノアって魔獣って言われてる剣士だから返り血浴びてるヤベエやつだと思ってたけど、違うね。殺すために斬っていないんだ」と安心したように言うので、もうゾロの性格が殺人には向かないのだとローは思っていた。
    「ずっとゾロ屋はやってねえって言ってたらしいが、だれも耳を貸さなかった。ゾロ屋を犯人としてとっとと片付けたかった案件らしい。そんなとき、警察で一人だけゾロ屋を信じて無罪を証明したのが、ユースタス屋だ」
    ガキの話しぶりと警察という言葉で、ローの世界で言う海軍が警察に当たるのだろう。正気か?ユースタス屋が警察?むしろいの一番に捕まえられるほうだろう。成程、この世界そのものが理解不能なのもわけがわからねえのも、納得だ。
    「だからゾロ屋はユースタス屋に憧れてる。」
    ローにもコラさんがいてくれたのでゾロの心境はわかるが、相手が面白くない。まったくもって面白くない。眉間の皺ばかり増えて人相がさらに悪くなる。二人のローを覆う空気もどんより重くなっていた。ちりんと音だけが妙に明るい。
    「おれは、ユースタス屋にだって負けたくねえ。あの野郎を越えてゾロ屋に認められてえ。」
    言い換えればガキの所感では今だキッドを越えられていないということだ。
    「おれは医者になる。ユースタス屋とは別の方向で人を生かす道だ。だから!おれはヤクザになっている場合じゃねーんだよ!!ああ?聞いてるか?!てめえのことだぞ!!」
    「だから未来から来たんじゃねえよ。で?医者になるまで、ユースタス屋をこえるまで、ゾロ屋を放って置くのか?あいつの迷子を甘く見てんじゃねえか?」
    ぐぬぬと言葉に詰まるガキに、ローは「クソガキ」とそのままズバリ罵ると、丁度ゾロが新しいお茶を持って戻ってきた。
    「先輩、携帯、鳴ってる」
    ゾロが指し示す先ではローの携帯が点滅していた。画面にはラミと表示されている。ローはこの世界の文字が読めるはずもないのに、それがラミだということは何故かわかった。そうか、この世界は理解不明でわけわかんねえ世界でも、ラミは生きているのか。きっと両親も。ならそれだけでいいのかもしれない。そう考えると気持ちが少し凪いだ。幼いまま止まってしまった妹の成長した姿を一目見たいと思う愚かな兄心をローは握り潰した。
    ガキは舌打ちをして携帯を持って部屋を出た。
    ゾロはグラスにお茶を注いでいる。

    ローは、ゾロを眺めてみた。
    ローの世界のゾロも、あの海軍だった世界のゾロも、この子供のゾロも、真っ直ぐに立って生きる姿は変わらない。精神や魂は何処も変わらないのだろう。しかしこの子供には抱えているものがある、こんな戦争や略奪とは懸け離れた平和という世界でも。馬鹿なことくだらないことに必死になって転がって生きているのだろう。

    マジで引率じゃねえかとローは頭を振った。
    ガキの中ではゾロの初恋はキッドだと思っているようだが、ローは違うと感じた。ローにとってコラさんの存在があまりに大きくて回りから邪推されることも多いのと一緒でローとコラさんがそんな枠で囲われるものではないのは当事者が一番理解している。ゾロにとってもキッドはそう言う存在なのだろう。腹しか立たないが。
    「ゾロ屋」
    「おかわりか?」
    「ユースタス屋は止めておけ」
    ローがあえてこういう言い方をすれば、ゾロは片目をぱちぱちさせて顔を歪ませて笑った。
    汗をかいたグラスの中で小さくなった氷がカランコロンと崩れた。喚いてばかりいたガキのグラスは手をつけられないまま水溜まりの中に鎮座していた。
    「先輩か?なんでかキッドと張り合うんだよ。この目のことも気にしててさあ。まだ医者じゃねーんだから責任なんて感じる必要ないだろ?それに事件の時だって先輩とは会ってないんだからそれこそ気にすることじゃねえって言ってんのにさ。」
    ゾロは頬をかいた。
    ゾロにとってキッドとキラーはゾロを信じてくれた唯一の大人だった。肉親もいない、世話になった先生にも迷惑をかけられないと一人で戦っていたゾロに、会いに来たのが赤髪で派手な服を来たとても警察には見えないデカイ男だった。
    『お前がロロノア・ゾロか?』
    『ああ』
    『てめえの友達、なんつったかあの馬鹿猿』
    『てめえ!ルフィは関係ねえだろ!仲間に手を出すな』
    『その言い方。やっぱここのヤツに手出されてんのか』
    『どうでもいい。それよか仲間に何かしたら許さねえからな』
    『会って話を聞いただけだ。皆てめえを信じてたぜ。特にあの馬鹿猿は煩かった。ギザ男!警察ならゾロを助けろよ!それが仕事だろ?!って言われたんだぜ?ったくガキに言われちゃおしまいだろ。』
    『みんな・・・』
    『さっきのお前を見てもわかった。お前の目は死んでねえしな。俺に任せろ、ロロノア。お前を此処から出してやる』
    図体に見合ったデカイ掌で頭を撫でられると潰れた片目の目頭まで熱くなって唇を噛みしめたことをゾロは今でも覚えている。キッドと相棒のキラーのお陰でゾロの容疑は晴れ少年院から出てこられた。ゾロの恩人なのだ。
    よくゾロの様子を見に来る二人はローとゾロの関係を見破り面白がっているのだが。

    「その時にいてやれなかったから余計ごちゃごちゃ考えてんだろ」
    「頭がいいと大変だな」
    「お前もお前らしくねえだろ」
    帽子に隠れたローの表情をゾロが見ることは叶わなかった。ゾロはローを見上げた後、ガキが出て行った方向を目で追った。移ろうこともないゾロの静謐な瞳は、どこにいっても変わらない。
    「家族なら、わかんだろ。少年院上がりで片目の男は、止めておいたほうがいい。今があればいいんだ。今、一緒にいれたら、それでいい」
    それはゾロの中では諦めではないのだろう。それが最善の選択だと決めたのだ。ーーお前が、そんなことを言うなと口から出てしまいそうなのをぐっと顎に力を入れて耐えて、ローはローの世界で酒盛りをしていたゾロを思い出していた。
    『ロロノアってほんと鍛えてるよな~!筋肉すげーじゃん』
    『へへ、まあな。』
    『いやなんでゴッドが偉そうなんだよ』
    『すべてはこの俺様のアドバイスがあってこそ!』
    『はいはい。ロロノア、ここでも毎日鍛えてるしな。』
    『やっぱ東の海って聞くとちっちゃいイメージがあるからさ。』
    『あーそりゃまあそうだよな。実際オレの村もそんなデカイ奴とか体格がいい奴とかいなかったしな。グランドラインあたりからやっぱデカイ奴が目立つようになってきたよな。ゾロのとこはどうだった?』
    『おれの村もお前のところと変わらねえよ。』
    『へえ。やっぱ海に出るために鍛えたのか?ロロノア?』
    『おれは世界一の剣豪になるために鍛えてる。東の海の出とかどこどこの海の出だとか、そんな理由で勝った負けたなんて決まらねえ。そう言う理由は好きじゃねえ。男だろうが女だろうが東の海だろうが北の海だろうが関係ねえだろ、おれが勝ったか負けたかだ。ま、おれは負けねえけどな』
    『ロロノアかっこいいーー!!キャプテンには負けるけど!!』
    『だろだろ?すべてはこの俺様の』
    『はいはい。もういいって』
    あの時はただの騒がしさも、今思い出せば郷愁すら感じさせる。随分遠いところまで来てしまったと、ローは己を振り返った。

    ローは此処にいるゾロを見下ろし、それに気付いたゾロがローを仰いだ。ローは子供のゾロにふっと口元を緩ませ、素直ではない頬を抓ってやった。
    「ひたい」
    「そういう理由を持ち出すな。それがロロノア・ゾロだろ?」
    ローが思っていた以上に柔らかく微笑んだのかもしれない。ゾロは頬を抓られたまま体温を上げ顔を真っ赤にしてローを見詰め返していた。ふるふる震えている様はまるで子兎のようで、片思いのゾロという生き物は存外可愛らしいとローは認識を改めた。


    「てめえ!ゾロ屋に手出してんじゃねーよ!!おっさん!!」

    携帯をローにぶん投げてガキがローとゾロの間に割って入った。ローはひょいと携帯を避ければ携帯は酷い音をたてて床に散った。恐らくこの道具はこちらでいう電伝虫なのだろうとローは予測を立てており、通信手段がなくなったのは余計都合がいいとローはほくそ笑んだ。
    「大丈夫か?ゾロ屋?」
    まだ顔を赤くしているゾロにガキは怒髪天をついてローに殴りかかろうとする前にローが動いた。
    子供二人を一室に閉じ込めた。その部屋に窓がないことは織り込み済みで唯一の扉はローが抑えている。
    「おい!何のつもりだ!!」
    「お前らは閉じ込められた。セックスしねえと其処から出てこれねえから、はげめ」
    「はあああ?ふざけんなクソ野郎!!!!なんのつもりだ!!」
    反対側からガチャガチャ音をたてているが開かないだろう。大人げなくローは能力を使っている。鍵の部分に道具の破片を挟んで動かないようにした。まあ馬鹿力で出てきたとしてもシャンブルズで何回も入れ替えればいい。
    ローは見たこともない床?なのか草を編んだような場所に腰を下ろした。ざらざらした肌触りだが自然な風合いがあって、ローの世界のゾロも好きそうだと思った。
    そして扉の先は見聞色を使えばよくわかる。
    ガキはセックスという言葉に落ち着きを失くし、ゾロは何かを一心に考えているようだった。セックスではなく先程のローの言葉を反芻しているのたろう。
    『ゾロ屋、二人でこの扉ぶち破るぞ。』
    『先輩』
    『ゾロ屋?』
    『おれは少年院あがりの片目だ。世間に後ろ指指されるのはわかってる。先輩の隣は先輩に相応しい人がいてほしいって思ってた』
    『まて、ゾロ屋。おれは、』
    『聞いてくれ。そういう理由を持ち出すなって言われて、考えた。兄貴なのに、お前に突きつけられたみたいだった。やってみてもいないのに、逃げるのかよって。そんなの、嫌だ、おれ。逃げたくない、負けたくねえ。でも一人で出来ることなんて変わらねえんだ。あのときも必死に一人で耐えていた。それで何とかしてきた。今もそれしか思い浮かばねえ。だから、でもよ、先輩となら、おれは、』
    出歯亀とは何をしているんだかとローは己を嘲笑し暫く目を瞑って体を休めた。



    ローが目蓋を開くと部屋は暗闇が占拠していた。音も静まり返っている。開けた窓から乗り物の騒音が時々聞こえるくらいだ。ランプかスイッチの類いを探しても良かったが別世界の灯事情など知らないので、閉じ込めた二人を出した方が早い。閉じ込めた部屋からは光が漏れているのであの部屋の灯はどちらかが付けたのだろう。
    ローは背筋を伸ばしてから長い手脚も伸ばし立ち上がった。
    中からでは開けられなかった扉を簡単に開けたローを見て、ガキは飛び上がり殴りかかってきた。
    「童貞卒業したか」
    「てめえの思い通りになるか!」
    「キスぐらいはしたんだろうな」
    「誰が教えるか!!」
    ローはいきり立つガキからゾロに視線を移すとゾロは笑って見せるも下手くそな出来だった。目尻が赤くなっているので、まあ何もしてないというわけではなさそうだ。雰囲気からお互いの気持ちは伝え合ったのだろう。

    ローがあれだけ煙たがれたのだ、ゾロも片目と過去のせいで生きづらいのは目に見えている。ゾロなら一人しっかり立って歩いて行けることはわかる、しかしそれが誰かと一緒になれば困難が伴うのだろう。
    その相手がこのヘタレだと思うと頼りないが、こいつもこいつなりに家族やゾロを守っていきたいと考えているようなのでお手並み拝見と言ったところか。



    音がした。
    空から。

    鰭が海面を叩く音だ。
    星がみっつ叩かれ落ちていく。


    「死んでも、守れよ」
    こっちでは生きることが許されなかった家族を。こっちでは戦いの最前線に身を置くゾロを。お前が大切だと思うならな、クソガキヘタレのトラファルガー・ロー。
    「もう二度と来るな」
    「ありがとう」
    送り出された瞬間、「ゾロ屋、おれは将来あんな男にはならねえからな」と宣言するガキに「そうか?カッコよかったじゃねえか」「待て、あいつと何もなかったんだよな?!」「当たり前だろ。おれは先輩が好きだ」胸のつっかえがとれたように晴れやかに笑うゾロにガキは力の限り抱き締めていた。まあいつまでもモダモダしてくっつかないよりかは見せつけられたほうがマシかと、ローは苦笑して目蓋を閉じた。




    疲れた。
    引率は二度と御免だ。ましてやあんなわけわかんねえ世界、二度と行かねえ。
    おれとゾロ屋が付き合うわけねえが、片思いのゾロ屋は可愛かったな。








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