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    じろぽい

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    ロゾ探求レッドゾーン

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    じろぽい

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    2023年ロゾ週間おめでとうございます!

    ※tr男の別世界ロゾに対するツッコミ集。
    ※5日目 ゾがハートクルーのロゾ VS tr男

    「もうこれ以上何も見せつけるな。いつもの、ゾロ屋に会いてえ。」いつつぼし




    もとの世界に戻らせてくれ。
    せめて、ゾロ屋が生きてることを確認したい。


    『ローさんが信じられねえのもわかるがな。おれもまさかこんな感情を持つなんて思ってもいなかったぜ』
    『世界が変わっておれが海賊になっていたとしても、変わらねえもんは変わらねえだろ。そんなにほいほいと自分を乗り換えなんてできねえから、必死に足掻くしかねえんだろうよ』
    『麦わらのところのロロノア・ゾロと言えばあの鷹の目も目をかけていたそうだ。世界一をかけた決闘を見てみたかったから残念だよ』


    『映画を見てるみたいだな』


    青空の海原には幾つもの星が浮かんでは沈んで、草臥れたように浜辺へ辿り着くと星の砂の一つ一つとなっていった。赤、青、白、橙と色んな色の星が混ざりあい目を焼く程の光源となる。黄色い巨大な鯨は青空を跳躍し美しい鰭で海原を掻き分け世界を掻き混ぜていく。ローは劇場の狭い椅子に長い脚を余らせながら腰掛け、巨大なスクリーンを見ていた。雑誌を指さしてこれが映画館だと笑っていたのは片思いを胸にひた隠しにしていたゾロだった。映画についての詳細はクソガキが面倒くさそうに続けた。『実はおれも映画館行ったの、こないだ先輩と行ったときが初めてで。それなのにおれ寝ちまって』と悪がるゾロを愛しそうに見詰めるクソガキに『こいつの調査と計画不足だ』と指摘してやれば、クソガキが喚いてきた。
    そうして色んな世界を旅する夢を見ると口を滑らせたローにゾロが言ったのだ、映画を見ているみたいだなと。
    だから劇場なんて行ったこともないところに今いるんだろうとローは分析していた。映画とは読書の映像化だとローは理解した。ローの世界では漸く出始めた技術である映像化がこの世界では大きな産業になっているらしい。映像化された他人や別世界に没入する場所が映画であれば、ローは体験型の映画に参加しているということか?意味が分からない。しかし読書がそうであるように映画もまた感情移入、カタルシス、疑問を持つ知識を得るなど見終わった後に何かが残るものだ。ローが別世界を渡るこの異常現象の後にも、何かが残るのと言うのか。
    スクリーンではローがハルジオンを捧げていた。



    そこでローの意識が浮かんだ。
    まだ微睡む脳と体は自分とは思えないほどあたたかかった。熱移動の実験結果がこれかと回っていない頭で頷き、しかし自分の部屋なのに自分以外の匂いが混ざってローの知らない部屋になっている現状に漸く目覚めた。このぬくさを保つ熱が移動してきた先をローは知っていた。

    昏い部屋に光は射さない。
    深海を進む潜水艦は光よりも闇とわかり合わなければならない。ローは夜目がきく。自らが抱えている丸まった物体が人間の形をしていて全身鍛えられ鋼のような肉体を持つ男だと判断できた。そうだよなお前だなと答え合わせをして、そしてあまりにもあたたかい塊に両腕を外すことが出来ない。こんな鍛えられた硬い体のくせに肌触りは滑らかで肌に吸い付くような心地よさがあって赤子のように弾力もあった。気持ちがいい。誘われるように近づけば項に鼻があたる。くんと嗅げば石鹸の匂いがした。血の匂いではない、生きている、脈も正常だ、そのことがローの目頭を熱くした。
    息を緩く吐き出しローは上半身を起こそうとして両腕をゾロから外した。


    刮目した。


    ゾロの背中に刺青があった。

    間違えるはずがない。
    ローのマークだ。


    人間は自分の背中を見ることは叶わないからこそ、背負う覚悟が出来るんだろうとローは思っていた。そう思ってマークを刻んだ。それが、何故ゾロの背中にも彫ってあるんだ?ローは混乱を来した。頭を抱えた。どういうことだ?ゾロがローのマークを背負っている。その意味を、理解したくなかった。ローはゾロが生きていることを確認したかった。

    こんなゾロが、ほしかったわけじゃない。


    背中で蠢く気配にゾロが先に起き上がった。
    「おはよう、ロー」
    ゾロは寝ぼけ眼でローを見下ろすと、酷い顔をしたローを見つけて慌ててローの両頬を包んだ。
    「悪い夢でも見たか?」
    ぱちぱちと星のように輝く両目がある。両目だ。嗚呼まだローの世界に戻れないのか。唇を引き結ぶローにゾロはふわっと笑みを浮かべてローの唇にゾロの唇を寄せた。まるでローの哀しみに口付けようとするように。
    ローは我慢できずゾロの唇に手を翳した。
    ローの大きな掌に口元を覆われたゾロは仰天し目を見開いた。ローからの拒絶にゾロは傷ついていた。あまりに素直な表情に、これは違う、とまた拒絶してしまう。しかしゾロは星の輝きを強めた。傷ついてもローを離さなかった。頬から背中に移動したゾロの両腕とゾロの体重に押し潰される。
    「おれがいるから、大丈夫だ」
    絶叫はしなかった。爆発的な感情で言葉という形にも至らなかった。「いるわけがねえだろ、お前が、おれの隣に。」そうローがゾロを詰るまえに、部屋の扉が開き、目が潰れるほどの灯が差込まれた。



    部屋に立て掛けてあった鬼哭を呼び寄せローは抜刀と同時に振り下ろし、ゾロは近くにあった鬼哭を抜いて刀身を防いだ。火花が散る。二本の鬼哭が咆哮しあう。ベッドの上の間男を庇うゾロにローは業火を背負い血管をブチブチ断ち切りながらゾロを能力で背後に入れ替え、刀で対象を突き刺そうとして背後からゾロに抱えられた。
    「離せ、ゾロ!!人の嫁に手ぇ出すんだ、死ぬ覚悟はできてんだろうなあ?!」
    「落ち着け!ロー!っていうかなんでローが二人もいるんだよ?!鬼哭も二本いるし、どうなってんだ?!」
    「能力だがなんだが知らねえがおれになりすましてゾロを手籠めにする気だったのか?あああ?切り刻んで魚の餌にしてやる!!」
    「ロー!待てって!!」
    「ゾロ!お前もお前だ!おれを間違えるのか!?」
    「だからどっちもローだろ?!」
    「おれがお前の旦那だろうがああ!!」
    あまりの声量にゾロは耳がキーンと劈き、しかし両腕はローを引き留めることを止めなかった。怒気で膨れ上がるローではなく、ベッドに居るローにお前も逃げろよとゾロは声を張るが、ベッドのローは微動だにしない。ローが部屋に入ってきてから上半身は起こしたが能力を使って場所を変えることもしない。全てを拒絶しているような壁が見えてゾロは気になっていた。そうしてゾロの気が間男に逸れるとローの怒りがまた膨らむので堂々巡りだった。
    「ロー、とりあえず落ち着け!」
    「殺す殺す殺す殺す」
    ローの火山が噴火するときはゾロが怒られることがほとんどなので、止める側がこんなに大変だとはゾロは知らなかった。あとでベポとペンギンとシャチにおにぎり差し入れてやろうとゾロは誓った。そして。

    「お前ら!おれに服を着させろ!!」

    ドンッと主張するゾロに、決まりが悪くなったローは力なく刀を下ろした。ベッドにいるローは舌打ちをした。






    「えーそれではキャプテンが一人増えたという僥倖に恵まれ、偏に我々ハートのクルーの日々の行いの正しさが証明されたと言うことで」
    「長い長いよ、ペンギンってば」
    「どちらもキャプテンだと呼びづらいので呼び方を統一します。我らがキャプテンは旦那さん、別の世界からやってきたキャプテンはキャプテンです!」
    「ええ?なにそれっ?!呼びづらっ!!」
    シャチの離反にもペンギンは怯まない。
    「お嫁ちゃんと旦那さんって呼んでみたかったんだよね-」
    「ここぞとばかりに己の欲望しかねえな。皆が呼びづらいので今のペンギンの呼び方は無し!こっちのキャプテンはキャプテン!別の世界からきたキャプテンをローさんと呼びます!」
    シャチの通達に「アイアイ」といい返事が返ってくる。シャチは続けて「それでは目印としてどちらかに帽子を取って欲しいんですけど」と二人に伺いを立てる。別の世界から来たローさんがすっと帽子を取った。バチバチに目線で交戦している二人なのでもっとヒートアップするかと思っていたシャチは肩を撫で下ろした。
    「それでは、ローさん。自己紹介をどうぞ」
    ペンギンが促すと、ローさんはローさんの世界のことを包み隠さず話した。ハートのクルーはあんまりな内容に顎が外れたり目が飛び出したり頭を打ち付けるものが続出した。特にベポは気を失ってしまいハートのクルーの白いつなぎを着たゾロが大慌てでベポを支えていた。


    ローさんの世界では、ゾロはハートの海賊団のクルーではないと言う。


    そうなればローさんの世界のロロノア・ゾロはどんなゾロなのか尋ねれば「ただの同盟相手だ。どんな?剣士で迷子で冷静で、後はよく知らない」と言われてしまえば剣士で迷子で冷静までは頷けるとしても、よく知らない?!キャプテンが?!と戦き「え?ゾロは可愛いですよね?」「どこがだよ」と返されるのでハートのクルー達は発狂した。
    それからというもの、手が空いたハートのクルー達が次々といかにゾロが立派な嫁で可愛いかとローさんにプレゼンする事態に発展する。これには腹いせに自分の世界に話をしたことをローさんは後悔した。
    中でもジャンバールのプレゼンはローさんも居たたまれなくなっていた。少女が好みそうなイラストでシャボンディ諸島から現在までのキャプテンとゾロの愛の軌跡を紙芝居のように語るジャンバールは、巨体を丸めて小さな紙を捲っていく姿が哀愁を誘い時々涙を浮かべつつ熱心に語る様子にローさんも最後まで聞くしかなくなった。
    「それ、お前が書いたのか?」
    「ああ。どうしてもキャプテンとゾロの愛を伝えたくて!!いや、待ってくれ!聞いて欲しい話がもう一つあるぞ。キャプテンが媚薬を飲まされたときがあって」
    「あーー!!それそれ!それおれが語りたかったヤツ!!」
    影でジャンバールの紙芝居に滝のような涙を流していた他のハートのクルーたちが手を上げながら混ざってきた。そしてキャプテンが媚薬を飲んだときの感動秘話を熱く語り合うクルーたちにローさんは「ついていけねえ」と嘆いていた。そんな様子を見て「まだまだおれたちのプレゼンが足りない!ゾロの可愛さに目覚めさせるぞ!!」と円陣を組みハートに火を付けるクルーたちだった。




    無駄に何日も過ぎている。
    天空から鯨の音は聞こえてこない。なにか規則性があるわけでもないので、空の鯨の気まぐれなのか。
    そしてここ数日、ハートのクルー達のゾロ可愛いプレゼンは続き今だローさんにゾロの可愛さを伝えようと長蛇の列が出来ている。なんだこの世界。
    ローさんはローさんの世界の関係性を伝えたことを完全に後悔していた。こんなことになるなら黙っておけば良かった。しかしあの時のローさんの精神状態は異常だったので、少しでもこの世界を否定したかった。その因果がこれか最悪だとローさんはシャチの怒濤のプレゼンを聞き流しながら心身共に疲れていた。


    「また来ます」と呪いの言葉を残して一旦シャチのプレゼンは終わったらしい。最後の方はゾロが13才頃の話をしていた気もするのでその続きと言うことか。あと何年分あるんだ、どれくらい語るつもりだあの馬鹿は。しかしこちらのシャチは、いやシャチも、と言うべきだろうがハートのクルーの皆がゾロを可愛がっていた。ゾロは末っ子のクルーで、(今だローさんは拒絶している)こちらのキャプテンの嫁と言うことで大事にされているのがわかる。
    ゾロも機関室から油まみれで出てきたり、調理場でおにぎりを握ったり、掃除をしたり、白いつなぎを着てもうろうろ迷子をしていたり、ふらふらのベポを支えながら歩いていたりとハートのクルーとして溶け込んでいる。
    そう、ありえないだろう。
    ロロノア・ゾロがハートの海賊団のクルーだなんて。
    そんな世界があるわけがない。
    麦わらの一味ではないロロノア・ゾロはロロノア・ゾロではない。
    脅迫にも怒りにも似た思いがローさんを圧迫していた。ローさんは凍てつき吹雪く激情をクルーたちに出さないようにするのに必死だった。


    前の世界でゾロが何のために命を懸けて死んだと思っているんだ。ふざけんな。



    内なる吹雪を落ち着かせるためローさんは部屋に戻り本棚から幾つか本を抜粋した。自分の部屋も此処ではキャプテンとゾロの部屋と言うことで出来るだけ近寄らないようにはしていた。
    そのため誰も居ない時を狙って来たというのに、本の中身を確認している最中にキャプテンが海図を取りに来て鉢合わせをしてしまった。
    キャプテンは最初こそローさんを間男として怒り狂ったが、その後はローさんがゾロに近づかないようにしているのを見て気を静めたのか不可侵を貫いていた、お互いに。
    しかし。
    「ちょうどよかった、そこに座れ」
    「ああ?おれに命令すんな」
    キャプテンが手に持っていた分厚い紙の束をローさんの前に置いた。
    「聞け、おれとゾロの愛の物語を」
    「はあああ?てめえまで何言ってやがる?!」
    「あいつらに説得された。おれとしてはてめえがゾロに手を出さなきゃそれでいいが、あいつらにどの世界のキャプテンもゾロも幸せになって欲しいと言われりゃあ、その通りだ。どこの世界のおれもゾロも幸せになるべきだ。いやどこの世界のゾロもおれが幸せにする。そうだろ?」
    「そんなわけねーだろ。結局ネジ外れてんじゃねえか」
    この世界のキャプテンは最初の世界のキャプテンよりマシだと思っていたがさらに酷かった。そしてそれから如何にゾロが可愛いかの講義が始まった。先程の紙の束はレジュメだ。信じられるか?阿呆なのか?うんざりだ、もうずっと。なんなんだこいつらは。こんなもん、見たいヤツなんているのか?!いや、いた。この世界のハートクルーたちは皆泣きながら読み込むに違いない。目眩がする。
    「こないだなんか、おれが格好いいから顔が見れないと初心に戻っちまった。これが可愛い、信じられないほど可愛い。初々しいゾロは本当に可愛い」
    可愛いしか言ってねえだろ。語彙力死んでるぞ、それでもおれかよ。もう全てに腹が立った。自分がゾロを語る姿は、あまりに面白くないし苛立ちしか沸かない。ありえないからだ。この世界のすべてが。


    また吹雪が一層強まってついに心の臓を始めとして徐々に凍り付いていく感覚が広まる。ベッドの上でゾロを拒絶したときと同じだ。


    「ふざけんなよ、てめえら。いいかよく聞け。トラファルガー・ローはロロノア・ゾロがいなくても生きていける。ロロノア・ゾロもトラファルガー・ローがいなくても生きていける。それが真理だ」


    冷気を吐き出しながら言葉を氷結させ糾弾する。
    対するキャプテンはローさんの前に積まれたレジュメを愛しそうに撫でながら、真っ直ぐな瞳をローさんに向けた。一瞬だけローさんは気後れした。コラさんが、重なって見えた気がした。


    「それが真理で、こっちが夢物語であっても、おれはゾロと生きていくと誓った、そう、おれが決めた道を信じる。守っていくだけだ。例えお前の言うことが真理だとしても、ならおれは最後まで足掻くだけだ。ゾロと、仲間達と、生きていくために。そのために出来ることは何でもするさ、てめえと違ってな」





    鬼哭を担いで通路を歩いているトラファルガー・ローが帽子を被っていないことを確認して、ローさんに声をかけたのはペンギンだった。機嫌が悪い時のキャプテンはベポかゾロの話をするに限るので、ペンギンはベポの話を切り出した。

    「ベポの情緒不安定が続いているんです。ベポとキャプテンはゾロが精神安定剤みたいなところがあるので、一緒に生きていない世界があるって知ったら怖くなったみたいで」

    ベポに関してはローさんも放っておくことは出来なくなっていた。白い毛並でもわかるほど顔面を蒼白にするベポとゾロの白いつなぎから覗く首元が歯形の跡で赤く青くなっているのだ。ベポに噛み付かれた跡だ。『気にすんな、いつものガルチューだ。』と苦笑するゾロに、そんなわけあるかとローさんは治療しようとしてペンギンに止められた。『キャプテンがベポを甘やかして育てたので、いやベポがキャプテンを真似しているのかわからないんですけど、ベポもやたらマークを付けたがるんですよ。だからあのままにしておいてください。ちゃんとキャプテンが様子見てますから』ということが昨日あったのだ。
    気になるベポの話をしながら二人は食堂に移動し、ペンギンは珈琲を二つ持って席に着いた。一つをローさんの前に置いた。珈琲の味は変わらなかった。

    「おれはこの世界のほうが信じられねえよ」
    「羨ましいですか?ローさん」
    「おい」
    ペンギンの口元が上がっている。ローさんは目を吊り上げた。
    「オレたち、こんな小さい時からゾロと一緒に育ってきたんで、大切なんです。そりゃうちのキャプテンとお嫁ちゃんの出会いは涙なくして語れない運命的なものでしたよ」
    「だからありえねえんだよ。こっちはたまたま同盟組んでその中にゾロ屋がいただけだ」
    「でもちゃんとゾロはローさんと出会ったって事でしょ?だからオレはちょっと安心しました。ゾロがローさんに出会ってくれたらきっと悪い方向には行かないと思えるから。例え間接的であっても」
    一つ前のゾロが死んだ世界のことを思い出すローは、自分も同じことを考えたわけだが、認めるのは癪だった。
    「もっとうちのゾロを堪能していってくださいよ」
    「ふざけんな」
    「可愛いでしょう、皆に愛されて、皆を愛していますから」
    「別人だ」
    「いいじゃないですか、運命的だろうと、そこにいたのがゾロだっただけとしても。そんな運命性やストーリーを求めるんですか?ゾロ自身よりも?」
    「ペンギン、これ以上口を開くな」
    ローさんの地雷を踏み続けている自覚があるペンギンは両手を挙げた。
    「アイアイキャプテン!それなら最後に言わせてください。もしうちのキャプテンがローさんの世界に行ったらやっぱりゾロの事大切にすると思います。溺愛します、絶対。キャプテンにとって違うゾロでも大切なゾロに違いないから。そしたらきっとローさんの世界のゾロもキャプテンに惚れちゃいますよ。お嫁ちゃんはうちのキャプテンに未だにドキドキトキメクくらいだし。そうしたら、どうします?ローさん?別の世界のトラファルガー・ローを愛したのならゾロの性格なら、生涯別の世界のトラファルガー・ローを愛し続けますよ。その世界のローさんじゃなくてね」
    ローが机を蹴り上げる前にペンギンは二つ分のマグカップを避難させていた。阿吽の呼吸は世界が違えど存在していた。黙れと意思表示してローは食堂を後にした。


    沈黙がしばし空間を支配した後、ペンギンは何事もなかったかのように変形した机を定位置に戻し自分の分の珈琲を飲み始めた。調理場の影に隠れていたシャチが「お前ねえ」と顔を青くして登場した。ハートのクルー達も戦々恐々見守っていた。
    「お前、あそこまで呷る必要あった?オレたちの今までのプレゼンの努力が吹き飛びそうなんだけど。険悪にしてどうすんのさ」
    「んー?まあ何処の世界のキャプテンもゾロも幸せになって欲しいし」
    「そりゃそうだけど。でも逆効果ってあるじゃん。こないだのオレたちみたいに」
    「逆効果に見えて結果オーライなのがオレらでしょ。大丈夫だって、だってキャプテンだから」
    ニカッと笑うペンギンに、シャチは半信半疑で肩を竦めた。





    何処に行くかと言えばやはりここしかないので、ローさんは船長室の前に立っていた。扉を開ける。例え中にゾロがいると分かっていようと、他に行く場所もなかった。
    「おう」
    ゾロはローさんに挨拶をし洗濯が終わったものを片付けていた。
    ゾロから石鹸の匂いがふわふわ漂ってくる。今まで機関室でポーラータングと語らっていたゾロは油まみれになっていたのでそのままシャワーを浴びてきたのだ。ローの世界のゾロはサニー号で「お風呂入ってきなさい!」と叱られるゾロをよく見ていたので自主的に綺麗にしているゾロを不思議そうに眺めていた。その視線にゾロは苦笑した。
    「なんだ?お前の世界のおれは風呂に入らないのか?」
    「そうらしい」
    「まあ、あー、わからなくはねえな。おれの場合はローやベポがよく噛んでくるからな。綺麗にしておかないといけねえから」

    このあり得ない世界はローさんの情緒をぐしゃぐしゃにしていく。
    どれだけゾロの可愛さを伝えられようと、ゾロがローさんを気にかけてようと、その全てが的外れだ。

    「やっぱり、お前顔色よくねえぞ。少し寝ておけ。ローにも部屋に近づくなって言っておくから」
    ゾロはローさんの腕をとろうとして、ローさんはゾロの腕を振り払った。
    ポーラータングに亀裂が走ったように軋んだ音がして、ゾロは天井を向いて頷いていた。そしてローを見詰めた。ゾロを傷つけていることはわかっている。きゅっと引き結ばれるゾロの唇にローさんも痛みを覚えた。しかし星の輝きはその両目から潰えずゾロはローさんの腕を負けじと掴む。
    「おれが気にくわなくてもいい。いいから寝ろ。」
    ゾロがローさんをベッドに押し込もうとして、ゾロから石鹸の匂いが香って、ズタズタの項が見えて、ローさんはパンクした。
    引っ張るゾロをそのまま前方に押して、ベッドに躓かせて上からのし掛った。
    ベッドが軋みたわむ。ローさんがゾロを押し倒す体勢にゾロは目を見開いた。しかしそれだけだ、力の限り抵抗してくることもない。こんなこともこちらの二人には普通のことなのだろう。本当に、虫唾が走る。


    「お前は麦わら屋のだ」


    「おれのものにはならねえ」


    息を飲んだのはゾロだった。ローさんの世界ではゾロは仲間ではなく別の海賊だと説明されて、しかしゾロが何処の海賊の一味なのかはローさんは言っていなかった。ハートのクルー達もゾロが仲間でない事実に発狂しているので「どこのどいつがゾロを?!」と言うところまでは頭が回っていない。――麦わらのルフィ。パンクハザードからキャプテンとゾロが世話になった、海賊王になると豪語する男。人を引き付ける力を持って、どんな強敵を前にしても自分の信念を押し通すところは、ゾロであっても天晴れと言うほか無かった。成程麦わら屋の仲間のおれか、とゾロが納得できる気持ちは存在するもののそれで揺らぐものはなかった。ゾロは首の後ろを撫でた。ベポがあまりに気落ちするのでなるべく傍に居るようにしているが、ゾロは例え誰が何を言おうとハートのクルーの一員だしキャプテンの傍を離れる気はない。ベポだってゾロのお兄ちゃんだ。心配することなど何もないのに。
    「そっちの世界ではそうなのか。確かに麦わら屋は面白ぇヤツだったし気もあったからすぐに友達になったな」
    「おい」
    「ハハ!友達なんかになるなってローに怒られたけどよ!」
    思い出してゾロは笑みを零した。ローさんに押し倒された状態でも平然としている姿にローさんのほうが悄然とした。

    「でもおれはローと一緒に生きていくって約束した。約束は必ず守る。だから背中にローのマークを背負った」

    衝動だった。ローは長い指でゾロの逞しい喉を捕らえて押し潰した。瞳孔も開いていた。



    「なんなんだよ、てめえらは。そんなものを見せつけて、おれにどうすれと?ゾロ屋は麦わら屋のものだ。おれがどうこうすることなんて出来やしない。おれの船に乗らない、おれのものにならない、おれのマークなんて背負わない、おれとゾロ屋は同盟相手、それで説明が付く。そうだろう?ありえねんだよ、全部。麦わら屋のために死んだゾロ屋は正しくゾロ屋だった。おれが介入できることは何もなかった。あれがゾロ屋だ。お前は、違う。ロロノア・ゾロじゃねえ。」


    圧迫される喉はゾロの言葉を塞いでいく。
    覆い被さるローさんは帽子を被っていないので表情が読み取りやすい。ゾロが小さい頃からずっと見上げて見つめ続けてきた顔だ。
    ついにはキャプテンの背を追い越す夢は叶わなかったゾロだが、キャプテンに抱きかかえられてゾロも抱き返してぎゅうぎゅうに密着して体温を分け合うのは特別なのでもう背のことは気にしていない。


    ゾロは己の首に手をかけるローさんの掌の上に手を被せてぎゅっとローさんの掌を握った。重ねられた場所から熱が移り掌の感覚が甦っていくようだった。指が痙攣したその隙にゾロはそっとローさんの掌を持ち上げた。けほけほと咳をし喉の調子を確かめる。
    「っ、お前にとっておれが違っても何でも、おれは、何処のローでも、お前がそんな顔をしているのはイヤだ。だから放っておかねえ!」
    一等星の輝きで光が放たれる。ゾロの両目はローさんの両目を覗き込む。強烈な光の奥底に静謐な色を見つけた、ローさんの世界のゾロの片目と同じ色だったことが、嬉しいのか腹が立つのかローさんにはよくわからなかった。雪解けで通った血が巡り、気が静まったローさんは自暴自棄の馬鹿はおれか、とゾロの隣に寝転んだ。


    「お前らのメンタル、イかれてるだろ。他の世界まで変えようとすんな」
    ハートのクルー一丸となって他の世界の二人までどうにかしようとしてくるのだから、どんだけメンタルが強いんだとローは嘆いた。
    「へへ、おれの大事な仲間たちだ。でもお前の大事な仲間たちでもあるだろ」
    仲間を誇るゾロはこっちもあっちも変わらない。
    そして結局ローさんもハートクルーたちを、自分の仲間たちを無碍にも拒絶することも出来ないのだ。
    仲間達のことを出されて図星だったのか顎を突き出すように口を結ぶローさんを横目で見てゾロは両目を綻ばした。

    「どうにもならねえって言うのに、こんなもん見せて来やがって。こっちが虚しくなるだろ」

    ぐちゃぐちゃになった果てに形になったローさんの言葉だった。
    反対にゾロは寝っ転がりながら腕を組んで首を傾げていた。
    「それだけどよ、別の世界ったって、中見はおれだろ?それなら別の世界のおれもローを好きになるだろ」
    「なるわけねえだろ。ゾロ屋は麦わら屋のなんだよ」
    「麦わら屋は仲間だろ?おれなら絶対、ローを放っておけないと思うぜ」
    「なんだその自信は」
    「おれのことだからな」
    横を向けば、ゾロも同じようにローさんの方を向き笑っていた。見慣れたハートクルーの白のつなぎを来たゾロはローさんの目に馴染まないが、その笑顔は馴染んだものだった。そして。
    「お前も、こっちのおれも、どうしようもない馬鹿だが、なんでだろうな。コラさんのことを思い出す」
    「おれはコラさんを知らないけどよ、ローと一緒に居ると、わかる気がするぜ。」
    それはこっちのロー、キャプテンの中でコラさんの心が生きているということだろうか。そんな強さを持っているのは、ゾロと一緒に生きてきたから?それならローさんには永遠に持ち得ないものと言うことだ。
    「お前も持ってるぞ」
    「ああ?」
    「安心しろ。ローは思った以上に図太いし我儘だし、強いぜ。それはお前もな。」
    「褒めてねえだろうが」
    「おれがいなくても皆がローと一緒なら安心だ。まあおれも変わらねえと思うがそれはいいとして、お前が信じる道を行くならそれがおれと関係なくていいんだ。そこは勝手におれが行くさ。」
    「だからその自信は何なんだよ」


    音がした。
    空から。

    鰭が海面を叩く音だ。
    そして波立つ空から星が次々と降って光の洪水になっていた。


    ローさんはやっとかと息を吐き出した。横にいたゾロから天井に視線を移すと、ゾロも同じように天井を見た。ゾロにも音が聞こえたのだ。そして空を覆う黄色い鯨に胸を熱くした。
    「ベポに悪いことをしたと言っておいてくれ」
    「おう。でも大丈夫だぜ、ベポは」
    「そうだな」
    ふっと笑みを浮かべるローさんにゾロは嬉しそうに笑った。そう言う顔をされると、この世界のハートのクルー達の怒濤のプレゼンの効果が出てきそうで後味が悪い。
    「皆、ローを信じてるぜ。ポーラータングも。おれも」



    送り出された瞬間、「ゾロ~?」「どこいったー?」とゾロを探す声が聞こえた。ゾロはうしっと呟いて部屋を後にした。ちょうど自室の前まで来ていたキャプテンはゾロの首元を凝視し「あの野郎!ゾロに手ぇ出しやがったな!なんだこの痕は!!」と怒髪天をついたので「あいつなら、行ったぞ」「なんだと?まだおれとゾロの話が終わってねえだろ!あの野郎!ゾロを大切にしなかったら襲撃だ!!」と最後まで勝手なことを言うあっちの自分に、ローは、目蓋を閉じた。


    あまりに疲れた。
    こんな世界こそ、もう二度と来ねえ。もうこれ以上何も見せつけるな。
    いつもの、ゾロ屋に会いてえ。



    空の鯨は空の海原を光であふれさせた後、その巨体を翻し空の海へ潜っていった。

    世界を渡り続ける旅の終わりだった。







    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🍶👏👏👏☺☺👍👍👍💖💖💒👍👍👏👏☺💘👏💞💞💞💞💞💞💞💞💞❤❤❤👍👍👍💯💯👍😭😭😭🙏😭👍💖
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    じろぽい

    DOODLE2023年ロゾ週間おめでとうございます!
    今日が最終日なら明日はつまり後夜祭!明日まで続きます!すみません!

    ※tr男の別世界ロゾに対するツッコミ集。
    ※最終日 帰ってきたtr男 vs いつものゾ vs dークライではなく別世界ロ's
    「愛しく感じろ!!トキメケ!!オレに!!!」むつぼし




    瞼を開けると太陽の光が目を焼き、潮風が吹き抜けた。デッキにはハートのクルーと麦わら一味と侍たちが外の空気と解放感に喜んでいる。
    始まりの時から変わっていない。
    戻ってきたのか?おれの世界に。ローは即座にゾロを確認した。
    ゾロはハートのつなぎを着ていないし海軍の制服でもない。子供でもない。片目だ。死んでもいない。
    あとはまたネジが外れた己が現れないかということか。
    ペンギンとシャチがデッキに出てきてベポやウソップたちに声をかけていた。それから二人はローのもとに来て報告を始めた。近海の様子やカイドウの情報を報告する姿に、ああおれの世界だと実感することが出来た。
    どっと疲れが体中を巡った。
    ローは二人に情報が足りない箇所を指摘し、30分以内に集まらないようなら出発すると告げ、その間ローは仮眠を取ることを伝えた。「アイアイキャプテン!」と敬礼するペンギンとシャチの後方にゾロが見えた。侍たちと麦わら一味とハートクルーたちも何人か混じって話をしていた。どっしり構えた姿と合わない視線にローは安堵を覚えていた。
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    じろぽい

    DOODLE2023年ロゾ週間おめでとうございます!

    ※tr男の別世界ロゾに対するツッコミ集。
    ※5日目 ゾがハートクルーのロゾ VS tr男
    「もうこれ以上何も見せつけるな。いつもの、ゾロ屋に会いてえ。」いつつぼし




    もとの世界に戻らせてくれ。
    せめて、ゾロ屋が生きてることを確認したい。


    『ローさんが信じられねえのもわかるがな。おれもまさかこんな感情を持つなんて思ってもいなかったぜ』
    『世界が変わっておれが海賊になっていたとしても、変わらねえもんは変わらねえだろ。そんなにほいほいと自分を乗り換えなんてできねえから、必死に足掻くしかねえんだろうよ』
    『麦わらのところのロロノア・ゾロと言えばあの鷹の目も目をかけていたそうだ。世界一をかけた決闘を見てみたかったから残念だよ』


    『映画を見てるみたいだな』


    青空の海原には幾つもの星が浮かんでは沈んで、草臥れたように浜辺へ辿り着くと星の砂の一つ一つとなっていった。赤、青、白、橙と色んな色の星が混ざりあい目を焼く程の光源となる。黄色い巨大な鯨は青空を跳躍し美しい鰭で海原を掻き分け世界を掻き混ぜていく。ローは劇場の狭い椅子に長い脚を余らせながら腰掛け、巨大なスクリーンを見ていた。雑誌を指さしてこれが映画館だと笑っていたのは片思いを胸にひた隠しにしていたゾロだった。映画についての詳細はクソガキが面倒くさそうに続けた。『実はおれも映画館行ったの、こないだ先輩と行ったときが初めてで。それなのにおれ寝ちまって』と悪がるゾロを愛しそうに見詰めるクソガキに『こいつの調査と計画不足だ』と指摘してやれば、クソガキが喚いてきた。
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