ハルスケッテの殺人 1. 朝食「おはよう」
「おはよう、先生」
恩師たるベレト・アイスナーは山ほどパンが乗ったトレイを両手に持ち、心なしか機嫌よさそうに口元を綻ばせている。
「この辺りは水がいいらしい。かまどで焼いたパンが絶品だと、ヒルダが」
「そうか」
彼は見かけによらない大食らいだ。己の目を楽しませる目的でトレイに山のようなパンを乗せているわけではない。決して行儀がいいとは言えないが、その大量のパンはすべて彼の腹の中にきれいに収まるものだから何も言うまい。
「ローレンツはそれだけか」
「朝はこれでじゅうぶんなんだ」
「昼食までにお腹がすきそうだ」
テーブルの上の先客である紅茶のポットを一瞥すると、目の前の焼き立てらしい香ばしい小麦のかおりを漂わせるパン山からひとつを取り、小さくちぎって口へと運び、咀嚼すると満足げにうなずいた。
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