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    琴事。

    @kotokoto__0118

    小説を書く人です。20↑。物語と猫とインターネットが好き。
    ぽいぴくは基本的にTRPG関係のやつ置いてます

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    琴事。

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    ふぉろわーさんのじいやからネタを貰って書いたはずなのになんか別物になっていました
    https://twitter.com/lllg8436/status/1724930988462195037

    ロトあだ自陣の話です。朝チュン的なやつなので直接的な描写はないですがお気を付けください。シナリオのネタバレはないです。

    ##ロトあだ

    冷えた空気は、いつの間にやら温度を上げていた ふ、と意識が浮上したのは、太陽の光を感じたからだった。ゆっくり瞼を開く。朝日がカーテンの隙間から室内に流れ込んでいた。それに眉をひそめながらもベッド横のカーテンを開ければ、薄暗い室内が明るくなる。冬の朝日はどこか鋭い。空気が冷えているからだろうか。そんなことを、寝起きのややぼんやりした頭で考えていた時のことだった。

    「んん……」

     唸るような、ぐずるような小さい声が耳に入る。視線を落とせば、そこでは桃樂亭が不満気に眉を寄せながら布団の中へ潜りこもうとしていた。こちらの視線に気が付いたのか、一瞬眠たげな眼でこちらを見たそいつは、けれどそのまま布団を被る。布団の隙間から、ふわふわとしたくせ毛が覗いていた。それを意味もなく拾って指先で遊ばせていると、目から上だけを覗かせたそいつが、小さく「さむい」と文句を言う。

    「朝だぞ」

     指先を移動させて、そいつの目にかかる髪を払いながら言う。寝起きだからか、寒いからか、それとも俺が気に食わないからか分からないが、また桃樂亭は眉根を寄せた。

    「今日、予定ないんで」
    「そうか」
    「布団、出るなら出てくださいよ。隙間ができてさむい」

     言って、そいつが内側から布団を引く。大人しく体をどかせば、そのまま布団は引かれていき、最終的にはベッドの上にこんもりとした布団子が出来上がった。それを眺めながら、くぁ、とあくびを零す。二度寝するには目が覚め過ぎていたし、なにより布団は奪われてしまった。がしがしと首筋を掻いて、ベッドから降りて寝室を出た。

     顔を洗って、髭を剃って、最低限の身支度を済ませる。普段は固めている髪は、今朝はなんだか面倒に感じたためにそのままにしておいた。俺が身支度を終えても、まだ桃樂亭は起きてこない。

     台所に行って、電気ポットで湯を沸かす。エアコンの空気がまだ広がらない、しんと冷えた室内で何か暖かいものが欲しくなったのだ。小さく音を立てるそれを眺めながら、朝飯についてぼんやり考える。一人なら適当にどこかに食いに行っていたが、今日はあいつが家に居る。
     電気ポットの前から動いて、冷蔵庫を開けた。基本的には料理はしないが、まったくできないわけではない。少し迷って、昨日買ったばかりの卵を三個取り出す。全てインスタントで済ませてしまっても良かったが、こんな時ぐらい多少機嫌を取っておくべきか、と思ったからだった。
     卵を割って、シャカシャカ混ぜていく。醤油と砂糖を混ぜて、また混ぜる。フライパンを取り出して、火にかけて油を敷いた。それから、溶いた卵を半分ほど流し込んで、焼いて、形を整えて巻いて。また油を敷いてから、同じように卵を流し込んで焼いて巻けば、それなりにらしい卵焼きが出来上がった。
     それから、レトルトの米を取り出して電子レンジにぶち込む。米が暖められている間、同じくレトルトの味噌汁の封を切って茶碗に落とす。とっくに湯を沸かして終えていた電気ポットを持ってきて、その上に湯を注いだ。茶碗の底で固まったままの味噌の塊を箸で溶かして、テーブルの上へ移す。さっき作ったばかりの卵焼きと、冷蔵庫から取り出した鮭フレークも同じように。最後にチン、と鳴った電子レンジから米を取り出して茶碗に盛ってそれを並べれば、そこそこしっかりした朝食がリビングの机の上に並んだ。
     それを眺めて、思わず小さく苦笑する。

     言われるがままに買った多めの食器がこんな形で役に立つとは思いもしなかった、とか。
     誰かのために何かを作るなんて、あまりにも俺らしくないな、とか。
     そんな、俺らしくないこの光景を見たあいつはどんな反応をするだろうか、とか。

     そんな風に思いながら、足を寝室へ向ける。案の定というか、ベッドの上には布団子ができたままだった。それに近づいて、布団を軽く叩く。布団の下がもぞもぞと動いたのが分かって、先ほどと同じように布団の端から顔がのぞいた。

    「……なにか?」

     先ほどよりは目が醒めているらしい。視線はまっすぐだが、やはり機嫌はよくないらしく眉根は寄ったままだった。

    「朝飯、できたぞ」

     桃樂亭はむっとした顔で黙り込んだままだった。時計を確認すれば、もう八時を過ぎている。

    「八時過ぎてるぞ」
    「……起きたいんですけどね、体があちこち痛くて動けないんですよ。どっかの誰かのせいで」

     ものすごく不満気に、しぶしぶ、といった様子で伝えられたそれに、思わず目を丸くした。少ししてから、じわじわと口角が上がっていく。その自覚もあった。

    「……ちょっと、何にやついてんですか」

     じとりとした視線と共に、そんな言葉が投げかけられる。そういうそいつの、布団から覗く首筋に赤い跡が見えたものだから。
     気づけば、そいつへ手を伸ばしていた。布団から覗くその額の、そこにかかる髪を指先で払う。あらわれた白い額に、吸い寄せられるように口を近づけた。ちゅ、とかわいらしすぎる音が鳴って、口を離してから喉の奥で笑う。ああ、本当に、らしくない。

     そいつに口づけるために屈んだ身を起こせば、口づけられた当の本人は本当に理解ができない、と言った顔でこちらを見ていた。いつも通りの反応に、なんだか少し安心したのは、俺自身がいつも通りじゃない自覚があるからだろうか。

    「……あなた、何してるんです?」

     その問いかけを受けて、思わず首を傾げる。俺もどうしてこんなことをしているのか、分からなかったから。少し考えて、でも途中で考えるのが面倒になって。

    「何してるんだろうな」

     言いながら、布団にくるまったままのそいつを布団ごと抱き上げた。「わ、」と小さな声が腕の中で上がる。もこもことした布団の感覚が肌に伝わって、けれどそこあるしっかりとした重量を腕で感じていた。
     どうせ、もうらしくないことをいくつもしているんだ。なら、今日はもうそういう日なんだろう。己に言い聞かせながら、腕の中で小うるさく喚いているそいつを運ぶ。あまり暴れていないのは、さっき言っていたように体が痛いからだろうか。そんな想像をして、また小さく笑う。

     寝室の扉を開けて、リビングのソファにその布団の塊を降ろす。すると、漏れ出る文句の声が小さくなった。不思議に思って顔を覗き込めば、そいつはぽかんとした表情で机の上を眺めている。

    「あなた、料理できたんですか」

     独り言のように零れたそれは、驚きを十分に伝えていた。

    「卵焼き以外は即席のだ」

     言ってから、箸がないことに気付いて台所へ向かう。箸と、ついでにペットボトルの水をそれぞれ二人分取って机まで戻った。ソファに座らせた桃樂亭に箸を手渡して、ペットボトルはどちらも机の上へ。どかりとソファに横並びで座れば、そいつは信じられないものを見るかのようにこちらを見ていた。

    「食わねぇのか」
    「……いただきます」

     小さく手を合わせた桃樂亭が、卵焼きに箸を伸ばす。一切れ取って、おそるおそるといった様子で口に運んだそいつは、驚いたように目を瞬かせた。
     鮭フレークの蓋を開けながら、そんな様子を横目に見ていた。しばらく固まっていたものだから、思わず「そんなに意外か」と聞いてみる。

    「そりゃ、まあ……」

     もぐもぐと口を動かして、ごくんと飲み込んでから桃樂亭は言った。続けてペットボトルの水に手を伸ばしたそいつは、けれど蓋がうまく開けられないのかペットボトル相手に奮闘している。それを少し眺めてから、手の中からペットボトルを奪って蓋を開けて渡してやった。そうすれば、そいつは心から不本意そうに「……どうも」と言いながらペットボトルを受け取る。少し愉快だ。感情を隠さずくつくつと笑う。そんな俺に反して、桃樂亭は不愉快を隠さず表情を露わにしていたけれど、箸の動きは止まっていなかった。

    「……誰かに習いでもしたんです?」

     そんな問いかけが飛んできたのは、もくもくと食事を進めて少ししてからだった。何のことを指しているのか分からず首を傾げれば「卵焼き、きちんとできていたので」と説明するように桃樂亭が続けた。ああ、と納得する。遠い記憶を思い返しながら口を開いた。

    「……まだ学生の頃、だったか。卵焼きさえ作れるようになればなんでもできるようになる、なんて言われて教え込まれたことがあった」

     あの時は本当に、自分にはいらないものだと思ってたから、心底嫌々やっていた記憶がある。……ただまあ、実際卵焼きが作れるようになるころには何かを作ろうとして火加減を誤ることはなくなっていたから、何も文句を言えなくなってしまったものだったか。
     ふぅん、と相槌を打ったそいつが続ける。

    「親御さんですか?」
    「いや、あれは……一応、あの頃付き合ってた女だな」

     そう、確か上の学年の、妙につっかかってくる女だった。

    「へえ、世間広しといえど、アンタを好くような物好きな女性がいるとは思ってもみませんでしたねェ」

     いつも通り、ちくちくと刺すような言葉を添えて相槌が打たれる。ようやっと目が覚めて来たのだろうか。

    「……そうだなァ」

     何か言うか迷って、結局大人しく肯定した。事実、物好きな女ではあったのだ。当時既に裏社会に足を突っ込んでいた俺に話しかけてきた上、料理の基礎まで教え込んでいった女。卒業と共に縁は切れたから、もうどこで何をしているかも知らないし、向こうも俺を覚えてはいないだろう。実際、俺も聞かれるまで忘れていた。

    「おや、認めるんですか」
    「そのころから、俺ァ半分極道みたいなもんだったからな。黒八鬼組に入ったのはそのずっと後だが」

     言い切ってから、ぐびりと水を飲む。喉を潤してから、また口を開いた。

    「そんなやつに好き好んで話しかけてくるようなのは、物好きとしか言いようがねぇだろ」

     言い切ってから、また箸を動かす。卵焼きを一切れ取って口に放り込めば、もうずいぶん慣れ親しんだ、けれど久しぶりに口にする味がした。

    「……なるほどねぇ」

     桃樂亭が、横で納得したように呟く。目線そちらへやれば、それに気づいたのか「なんでもありませんよ」と返された。これ以上追求したとて、何か言うことはないだろうなと思ってそれ以上聞くことはしなかった。
     ……が、それはそうとして。気に食わないな、となんとなく感じる。

     だから、少しからかってやりたくなった。思いついたそれは、あまりにも俺らしくないとは思ったが、もう今更だ。
     俺に比べればずっと小食な桃樂亭は、もう箸を止めようとしていた。そいつが箸を置いたタイミングでその肩に手を置く。不思議そうに目線だけでこちらを見たそいつの耳に口を寄せる。

    「はじめ」

     昨晩と同じように、流し込むようにそう呼んでから甘く耳朶を噛んだ。びくり、そいつの体が揺れる。距離を取ろうとしたのだろう、動いた体はけれど言うことを聞かなかったのかバランスを崩してソファの背もたれに崩れていった。

    「は、な、なん」

     俺が嚙みついた方の耳を抑えて、こちらを見る、そいつの首はやや赤い。くつくつと揺れていた笑いは、どんどん大きくなっていった。

    「ちょっと! 何笑って、っていうか何するんですか! 朝! 分かります!?」

     キッと眦を釣り上げたそいつが、けれど普段より赤い肌のまま俺に向かって言う。そのいつものそいつらしい言い分と、いつものそいつらしくはない肌の色に、またははと笑いが漏れた。そんな俺を見て、桃樂亭がまた文句を投げてくる。それに適当に返しながらも、笑いは収まらなかった。

     ああ、本当に、らしくない。
     けれど、たまにはこんな朝があってもいいだろう。
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