20250914 お誕生日おめでとうございます!
元気良く差し出された紙袋を、一瞬うまく認識することが出来なかった。
「なぁにこれ」
「何って、誕生日プレゼントです!」
いつも輝かしいほどに放つ、うちの末の男の笑顔が今ばかりは少し憎たらしい。その後ろには満足そうに微笑む秀介が立っているので大方言い出したのはこの二人のどちらかだろう。だが少し離れたところに立つうちの優秀な右腕は体はそっぽ向いているもののレンズに隠れた視線がこちらを気にしているし、自分は関係ないとばかりにデスクに向き合う一匹狼も意識が完全に紙袋に向いていることが丸わかりだ。
つまり、ここにいる全員がくだらなくて無駄なことに時間をかけていたというわけか。
「こんなことしている暇でもあったら事件の一つでも解決したらどうなの」
わざとらしく溜息でもついて見るが、夏樹は「まぁそんなこと言わずに!」と紙袋を押し付けて来る。
重い。
いや、違う。紙袋の中身は大した重量のものではない。手渡された物本来の重みとは別の何かが手のひらにずっしりと収まっている。
「司、蒼生」
四つの鋭い眼光がこちらを向いた。蒼生の方は呼ばれた瞬間小さく肩が跳ねるのが視界の端に写った。
「お前たちまでこういうことしてくるとはね」
「仕事なら持ち分を終わらせた上でのことですが。夏樹と違って」
司の言葉に夏樹が小さな悲鳴を上げた。
そういうことでもないのだが、自分から仕事のことを触れた以上詰めるのも座りが悪い。同時に、自分がつけているのがいちゃもんである自覚が少なからずあることも理由の一つでもある。
「そんなにピリピリしないでよ。耀さんに何プレゼントしようかってなった時一番良いアイディアを出してくれたのは蒼生なんだから」
「……っす」
あぁ、「らしいな」と思う。この面々の中でものの機微が一番分かるのは蒼生だろう。司が小さく「俺は特産ラーメンセットを推したのですがね」と言ったのもまた妙に可笑しい。秀介もまた疎い方ではないだろうが、恐らく最終決定したのは秀介のはずで、となると秀介は蒼生が選んだものを選択するだろう。目の前にいる男はそういう男だ。
「……全く。どいつもこいつも」
はじめに驚いた時地面に縫い付けられたように動けなくなってしまった足を無理矢理動かしてデスクに向かう。押し付けられた紙袋をデスクに置けば、中の布袋と紙袋が擦れる音がした。
「なぁにちんたらしてんの。さっさと動かないと書類増やすけど」
わざとらしく言い放つと四人が四人とも目に焦りの色を浮かべて慌ただしく己の仕事に各々向い出す。
「本当に、しょうがない」
だから俺の言葉は誰かが大袈裟に立てた音に塗り潰されて消えた。そして、何故だかそのことに酷く安心したのだった。