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    shiraishi_niku

    @shiraishi_niku

    捏造ボイス集の置き場。公式が作らなかった記念日ボイスの幻聴。

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    shiraishi_niku

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    11/23 オンリーイベント「ネオン街で会いましょう」で無料配布した医師ズ&夏井さんのギャグ小説です。
    と言いつつ、なんでも許せる人向けです。
    かっこいい3人はいません。

    もしも医者ズと夏井さんを魔法と夢の陸に放り込んだら「今日はどうされ……なんだ、夏井か」
     診察室のドアを開けた雪原先生は、速やかに笑顔を引っ込めた。これほど綺麗に笑顔から虚無にデクレッシェンドできる人を、俺は知らない。
    「先生が呼んだんじゃないですか」
     俺だって暇じゃないのに。早く仕事を切り上げるために休憩時間を削ったのに。
     俺が肩を落としたことにすら気づいていなさそうな先生は、白衣を翻して診察室に俺を招き入れた。むっと暖かい空気に包まれる。暖房の設定温度がおそらく二度は高い。タバコの残り香がしないのは、さすがと言うか何と言うか。
     そんなことよりも、先生が頭にサンタの赤い三角帽子を載せているのが気になる。
    「あの、その帽子――」
    「お前を呼んだのは他でもない」
     俺の疑問に、単調で無愛想な声が重なった。
    「……何でしょうか?」
     診察室の椅子に深く沈んだ先生は深刻なため息をついた。
     見下ろす構図になると余計にサンタ帽が気になり始める。でも突っ込めるタイミングが巡ってこない。
    「断らないでほしいんだが」
    「内容によりますね」
    「お前にこれを……あれ、どこいった?」
    「聞こえていないみたいですね」
     んー、と唸りながらぽりぽり後頭部を掻いた先生は、
    「あ、ここにあったのか」
     机に積み重ねた書類の間から、薄い封筒を抜き取った。
    「これ、お前に」
    「はあ……」
     雑に差し出されたそれを、うっかり受け取ってしまった。ぱかっと開いた洋形封筒の口から、鮮やかな色彩の紙が覗いている。封筒に隠れて見切れていても、黒くて丸い耳の形から、あの世界的有名キャラクターだとわかる。
    「陸……」
     取り出して数えてみたら、チケットは三枚あった。……え、なんで三枚? こういうのって普通、偶数じゃないのか。二名一組のペアチケットとか。四名二組とか。違うの?
    「お前は遊園地が好きだっただろう」
     視線を移すと、大真面目な顔の雪原先生が俺を見上げていた。相変わらずサンタ帽が気になるけれど、本人はどういうつもりなのだろう。
    「以前、俺を遊園地に誘ってくれたからな」
    「いや、あれは『遊園地の怪人』の特別公演があっただけで」
    「あのときは断って悪かった」
    「話聞いてます?」
    「看護師にチケットを貰ったから、お前にやる。特対の三人で行ってくると良い」
    「聞いてないですね。……って、は?」
     右から左に耳を滑った言葉を疑う。特対の三人?
    「いやいやいや、何言ってるんです? 春野さんと俺と秋元の三人で?」
     対テロの厳しい顔つきのままハニ1ハソトのはちみつ壺に運ばれる春野さんが脳裏を駆け抜けた。秋元は普通にはしゃぎそうだし夢の国が似合いそうだしなんか嫌。
    「仲が良いだろう、お前たちは」
     先生の言葉に、手を振って否定を示す。
    「たまたま職場が重なっているだけで、一緒にテーマパークに行くような関係ではありません」
    「ああ、それもそうか。三人同時に休みは取れまい」
    「微妙にズレてますよ……」
     腕を組んで頷く先生の頭で、わずかにサンタ帽が揺れている。滑り落ちる気配は無い。
    「しかし看護師の方が先生にプレゼントしたものなら、先生が使うのが礼儀では」
    「いや、俺には仕事が」
     帽子はズレないのに、ズレたメガネの位置をくいっと直す。
    「何でメガネが動くんだ……ああもう、調子が狂う。休んでくれって部下からのサインなんですよ。可愛い部下のお願いを無視するんですか?」
    「俺のどこに休む必要がある?」
    「要不要の問題ではないでしょう」
    「そもそも遊園地に出かけたほうが疲れる」
    「アトラクションを制覇しようと思うから疲れるんです。ショーを見るとかレストランで食事するとか、大人には大人の楽しみ方がありますよ」
    「そうなのか、詳しいな」
    「まあ、先生がどうしてもって言うなら……俺が一緒に行ってもいいですけど」
    「お前……」
     メガネのレンズ越しに視線が交わる。先生の眉間にぎゅっと皺ができて数秒。ふっと顔が和らいだ。
    「やっぱり遊園地好きじゃないか」
    「だからそれは……!」
     顔に熱が集まってくる。
     別に嫌いではないけど……!
    「仕方ない、付き合ってやる」
    「立場が逆……!」
     生暖かい微笑みを浮かべる雪原先生が憎い。これじゃ俺が行きたがってるみたいじゃないか……!
    「あと一人は共通の知人が良いだろう。とすると、七篠さんか」
    「まあ、そうなるでしょうね……」
     無意識にため息をついて、どっと肩が重くなった。マイペースな雪原先生と絡むと、いつも疲労が蓄積する。
     当日は七篠に半分負担してもらわないと。いや待てよ、七篠もああ見えて中々の困ったちゃんだ。先生と七篠のお守りを、俺が一人で……?
     せっかくの休日に俺だけ疲労を溜めるなんて不公平すぎないか。と思いを巡らせたとき、ある人の顔が浮かんだ。
    「そうだ、先生」
    「何だ?」
    「もし彼女の都合が合わなかったら、俺の友人を誘ってもいいですか?」
    「お前の友人?」
     メガネのフレームの向こうで、ぴくりと眉が動いた。
    「以前から先生に紹介したいと思っていたお医者さんがいるんです。よく図書館で会うんですけど、誰にでも寛容で面倒見が良くて、先生と合うのではないかと前から思っていて」
     こういうの好きそうな人ですし。ゲストというかキャスト寄りかもしれないですけど。
     そう付け加えたら、サンタ帽の先生は訝しげに首を捻った。
    「お前……友人がいたのか?」
    「何ですか、俺に友達がいないみたいな言い方は」

     当日はこれ以上無いほどの快晴。混雑も比例するのか、蘇我行の快速電車は浮かれ模様の人々でいっぱいだった。まだパーク外なのに、耳つきのカチューシャをつけている人もいて、ちょっとそれは理解できないって思ったり。
     でも、こういうの嫌いじゃないな。どの人も胸を躍らせているのがわかるから。満員の電車が揺れるたびにドアのガラスに顔を押し付けることになっても、歌舞輝町では滅多に見ない光景のおかげで、どこか穏やかな気持ちでいられた。
     ……舞浜駅に着くまでは、だけど。
     太陽系第一号店のピザのレストラン(軽食が楽しめるパーク内のレストランで口ボットが調理などの業務に従事するSF的な世界観が売りと見た)で、俺は今日何回目かわからないため息をついた。
    「山神、少食すぎるだろう。ピザでも食べておけ」
    「悪意しか感じられへんねん、デカいトマト載っとる」
    「嫌なら茶で流し込め」
    「そーゆー問題とちゃうねん!」
    「いいから食べろっ……このっ……この!」
    「やーめーろ! リコピンもデコピンもいらん言うてるやろ!」
    「だいたい何だその頭のリボンは、良い歳した大人のくせして」
    「ミ二1ちゃんやで。かわええやろ」
    「お前はジャソグルクル1ズに帰れ」
    「阿呆のプ1はんは黙っとき」
     ああもう……!
     耳とリボンのカチュ1シャを頭に載せた山神さんと、もこもこした黄色い熊の帽子で顔以外の頭部全体を覆った雪原先生は朝からずっとこの調子で喧嘩している。
     はあ。人生で最も多くため息をついた日の記録をまた更新してしまった。冷たいテ1ブルに頬杖をついたら、放置された緑の三つ目の饅頭的なのと目が合った。
     七篠が来られないと言うから、俺の「友人」を誘ったのだけれど。雪原先生と山神さんが旧知の仲で、しかも険悪な関係だなんて知らなかった。
     二人とも個性は強いけど、頭が良くて医師として優秀だ。だから、気が合うのではないかと……天才の苦悩みたいなものを分かり合えるだろうと、勝手に想像していた。そして二人に混じって引けを取らない自分を確認したかった、というのも少しある。
     舞浜駅で顔を合わせた瞬間、二人が同時に放った冷ややかな「「は?」」が忘れられない。まるでダ1クマタ1を目の当たりにしたかのような顔の雪原先生。カクンと音が鳴るくらい豪快に口を開けて絶句した山神さん。俺がスマ1トに二人を紹介し合う前に、予定外の喧嘩が始まった。
     半日が過ぎても、火災は収まらない。
    「相変わらずロが減らないな。さっきまでスペ1スマウソテソで乗り物酔いしてヘ口ヘ口だったくせに」
    「和哉はホ1ソテッドマソツョソにビビりすぎやわ。あんなもん八リボテやで」
    「チキノレ1ムは最初から最後まで寝ていただろう。あれほど興味深いものは無いぞ」
    「スモ1ノレワ1ルドで爆睡しとったくせによう言うな」
     むしろ仲が良いのでは? と思わされるほどの険悪っぷりだ。お互いのことを意識してよく見ていなければ、こうも具体的な悪ロにはなるまい。
     はあ。再びのため息。緑の三つ目を一つ摘んで口に放り、ウェットティッツュで指を拭く。
     そういえば、さっき買ったスプラッツュマウソテソの写真はどんな顔で写ってたっけ。写真を選ぶところでも二人が争っていたから、ろくに見もせずに買ったんだった。
     鞄から台紙を取り出して、開いてみる。まずはまあ、安定というか普通にビビってバ1を掴む手から肩まで変に力が入っている俺。後ろに、両手を挙げて笑顔を弾けさせる山神さん。そしてその隣に……しゃんと背筋を伸ばした証明写真みたいな雪原先生がいた。え、なんで姿勢も顔も崩れないの。硬直した顔には、山神さんのポ二1テ1ルの先端が当たっているように見える。
     雪原先生は絶叫マツンでも直立真顔なのか……と、写真から顔を上げて二人を見やると。
    「研修の修羅場でお前が俺のメガネを踏んで割ったこと、忘れてないからな」
    「和哉がコケて僕をホルマリン漬けにしたことも忘れたとは言わせへん」
     え、何の話?
     目を離した隙に、話についていけなくなってしまった。……じゃなくて!
     離れたテーブルに座る一家のお母さんの視線を感じる。俺が振り向いたら、見てませんよ、みたいな顔で目を逸らされた。
     人手の多い休日のテーマパークで、人目をはばからずに喧嘩する俺たちのグループは、どこか遠巻きに見られていて。半径三メートル以内は常に無人という、奇跡あるいははた迷惑な魔法に成功していた。
    「だいたいお前は……」
     ああもう! いい加減にしてくれ!
     思わずテ1ブルに手をついて立ち上がる。カップに残った緑の三つ目が衝撃で震えた。
    「大人なんだから喧嘩しないでください!」
     二人を睨みつけたら、鋭い目で睨み返される。大の男二人の鮮烈な視線に、「お前が引き合わせたからだ」の圧を感じた。その通りですけど、そうじゃなくて……!
     落ち着け、俺。ここは穏便に。俺は最速出世の巡査部長。頭をフル回転させるんだ。できるだろ。
     そうして導いた、俺の最適解は。
    「……って、七篠が言ってました」
     彼女を引き合いに出すことだった。
     楽しげなBGMも家族連れの賑やかな声も耳に入ってこない。無言の空間。痛い沈黙に耐える。
    「……」
    「……」
    「……そうか、七篠さんが」
    「……エトワールの望みとあらば、喜んで受け入れなければね」
     雪原先生はピザにかじりつき、山神さんはコーヒーの紙カップを口に運んだ。一時休戦、ということだろうか。
     ……七篠、ごめん!
     心の中で手を合わせる。ふう、と天を仰いだら……ん? もしかしてあれ、隠れなんとかじゃない? 丸が三つの模様がある気がする。
     ここからは良いことがあるかもしれない。口角が緩むのを感じながら、何とは無しに窓の外を見る。
     パークはクリスマスムードに染まり、どこを見ても赤と緑に飾り付けられている。金属質な近未来と深緑のモミの木が調和する不思議な空間を、サンタの格好で真っ白な布の袋を肩にかけたキャラクターが手を振りながらてくてく歩いている。

     そのとき、ふと、思い出した。
     雪原先生のサンタ帽は、一体何だったのだろう。

     了
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