もしも医者ズと夏井さんを魔法と夢の陸に放り込んだら「今日はどうされ……なんだ、夏井か」
診察室のドアを開けた雪原先生は、速やかに笑顔を引っ込めた。これほど綺麗に笑顔から虚無にデクレッシェンドできる人を、俺は知らない。
「先生が呼んだんじゃないですか」
俺だって暇じゃないのに。早く仕事を切り上げるために休憩時間を削ったのに。
俺が肩を落としたことにすら気づいていなさそうな先生は、白衣を翻して診察室に俺を招き入れた。むっと暖かい空気に包まれる。暖房の設定温度がおそらく二度は高い。タバコの残り香がしないのは、さすがと言うか何と言うか。
そんなことよりも、先生が頭にサンタの赤い三角帽子を載せているのが気になる。
「あの、その帽子――」
「お前を呼んだのは他でもない」
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