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    sbjk_d1sk

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    sbjk_d1sk

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    食事の所作とか綺麗なんだろうけどそれはそれとしてその骨格からしてでかい口をがっぱりと開けてほしいだけの話。119番より先に緊急蘇生を→ピニャータの順番で続いていますが、ピニャータだけでも問題なく読めると思います。ピニャータでこの鯉博の友愛拗らせ具合を説明しています。単体で読みづらく書いてしまい申し訳ございません。

    手塩にかける「リー、買ってきたよ!」
    「はい、よくできました」
     龍門の街、賑わう真昼間。これだけ明るく大通りに面していればマフィアだのヤクザだののトラブルに巻き込まれる確率は限りなく低い――無い、とは決して言いきれなかった――と思われる。ちらりと周りのテラス席に座る他の人間を観察してみるが、地元客がほとんど、友人関係六割、家族連れ三割、恋人関係一割といったところだろう。視線を目の前の人、ロドスのドクターと呼ばれる、しかし今は探偵事務所の子どもたちと変わりない無邪気さで笑う人に戻す。お気に入りの白地に橙色がアクセントの大きなパーカー、黒いスラックス、華奢な下肢のラインを際立たせる黒光りした無骨なブーツはアンバランスに見えるのに、ご機嫌な鼻歌を奏でるたびに踵を鳴らす姿が可愛らしい。
     龍門にリーと出掛ける時のドクターは決まってこの格好で、リーもその恰好をしたドクターを一等気に入っていた。今この瞬間はロドスのトップのひとりにして作戦部部門長ではない。プライベートでは無垢な好奇心の塊のような人に、リーは見た目だけ大人になってしまっただけの子どもとして接している。今だって「私だけで買える。リーは席をとっておいて」とちょっとしたわがままを完了させた帰りだ。テラス席のテーブルに戦利品の乗ったトレイを置き、自身もリーの向かいの席に座った。
    「ちゃんと買えましたね」
    「買い物事態はクロージャのところでも経験してるんだから、これくらいできるって言ったでしょ。それよりも、冷めないうちに早く食べよう」
     ドクターが大きな方の包みとドリンクをリーの前に置き、自分の前には一回り小さな包みとドリンクを引き寄せる。紙ナプキン数枚をトレイの上に重ねながら引いて、紙容器の中からフライドポテトを広げた。
     ジャンクフードが食べたい、とびきり不健康なやつ。昼食にそう注文され、リーは稀に子どもたちと共に訪れるファストフード店にドクターを誘った。チェーン店ではないそこは瑞々しい野菜を使ったハンバーガーと熱々のフライドポテトが提供されることで地元では専ら好評の店舗だった。絵にかいたようなラインナップにドクターはご満悦らしい。うふふと幸せそうに笑い、包み紙を開けることにすら喜びを見出しているようだ。
     小さな口が精いっぱい開かれる。真っ赤な舌までも小さく、その舌ではアイスを舐めたりするにも一苦労だろうなとリーはポテトを一本だけ口の中に放り、ドクターの表情を見守る。慣れない食べ方に苦戦しているらしく、ハンバーガーに口をつけたまましばらく動かない。やがてゆっくりと咀嚼を開始し、ようやくハンバーガーが口から離れると、唇の端にソースがついているという、百点満点の反応が返ってきたためリーは笑いを堪えるのに必死だった。
    「リー!」
    「ふ、はい」
    「すごく美味しい!美味しいものは総じて高カロリーだっていうのも納得した」
    「お気に召したようで何よりです、口の横にソースついてますよ」
     え、どこ?動かないで、はい取れた。紙ナプキンで小さな人の唇を拭う龍の中年男性という、傍から見たら関係性を窺われること間違いない光景なのだが、幸いなことに昼時というのは皆、自分の腹を満たすことが最優先のため注目の的となる事態は免れた。
    「ほら、リーも早く食べなよ」
    「はいはい」
     先ほどよりも慣れた様子で二口目を口にするドクターに続き、ドクターのものより厚いハンバーガーをかじる。正面から熱心な視線が注がれていることに気づいた。口の中に頬張った分を飲み込んでから口を開く。
    「なんです?」
    「リーの一口は大きいね、私の…五口はあるかな」
     齧られた自分のハンバーガーとリーのものを比べるように交互に見て、ドクターはいいなぁと呟いた。
    「一口が大きいと、シュークリームやエクレアを食べる時、最初からちゃんとクリームに辿りつけるから羨ましいな」
    「おれがドクターでも満足できるのを作りましょうか?」
    「クリームぎちぎちのやつ?」
    「そう、クリームぎっちぎちのやつ」
     んふふ、とまた楽しそうに微笑むドクターに、リーも同じように微笑んだ。目の前の小さく愛くるしいいきものに食べ物を強請られるのは、悪い気がしない。面倒なことはのらりくらりと躱すのが常のリーだったが、このドクターに関してはもっと強欲であれと思うし、もっと食べなさいあれもこれもどうぞ食べたいものがあれば言ってくださいな、と強い姿勢で食事のことでは詰め寄る始末だ。仕事に集中してしまうと執務室のデスクと仲良し小好しとなり、椅子とは相棒になってしまう人の、なんと世話の焼き甲斐のあることか!ロドスに務めるようになって今まで以上にリーの手を必要としなくなった子ども達への保護欲が、全てドクターに向いた瞬間だった。
     ポテトをもそもそと齧りつつ、ドクターは観光ブックを広げた。
    「おやつはここのマンゴープリンにしよう」
     昼食を食べているのにもう八刻の話をするのか。ポテトを手を止めることなく頬張るドクターにハムスターの姿を重ねながら、観光ブックを覗きこむ。
    「ここのパンケーキはいいんです?最近有名ですよ」
    「カリカリのベーコン乗ってるやつだ。うーん、パンケーキはいいかな。リーが来週作るって約束してくれたから」
     自分の料理の腕には自信があるが、観光ブックの評判に己の腕が打ち勝ったことにリーは内心ガッツポーズをきめた。そりゃあもう、腕によりをかけて作りますとも。カリカリのベーコンも乗せますとも。
    「あ」
    「どうしました?」
    「写真撮ろうと思ってたのに、忘れてた。リーちょっと食べてるところ撮らせて」
    「おれを撮ってもおもしろくないでしょう。ほら、撮ってあげますよ」
    「待って、やっぱりこっちを撮るから」
     バッグから取り出したプライベート用の端末のカメラを、ドクターはテーブルに向けた。ドクターが齧った小さなハンバーガーと、リーが齧った大きなハンバーガーが並んでいる。カシャリとシャッターを切る音が喧騒の中に溶けていく。噛みしめるように写真を眺めた後、ドクターはすいすいと端末を何度か操作する。ドクターのプライベート端末の中にリーとの外出時に撮った写真を保存するアルバムがあることを、リーは知っていた。アルバム名が『探偵事務所:就職活動』なのはどうかと思うが。アルバムへの保存を終え、ドクターが再びハンバーガーを齧る。何度食べても一口目の時と同じようにソースを口の周りにつけるドクターに微笑みながら、リーは雰囲気に合わせて注文したドリンクのコーラを飲んだ。久しぶりに飲む炭酸飲料がパチパチと喉の奥で弾けて、その感覚に「あぁこうしてコーラを飲めば、この日を思い出せたらいい」と今日という日の思い出のトリガーになることを願った。





     六日後の八刻、リーは約束通りドクターにパンケーキを二枚作った。食堂に駆り出されたリーは食堂の中にドクターの姿が見えないことをきちんと把握していた。昼食も忘れてパソコンと睨み合っているであろうことは容易に想像できたため、キッチンの片づけを早々に終え早足でドクターの執務室へパンケーキを持って行った。ドクターの許可を得て執務室に入室すると、予想通りパソコンと睨み合いながらノートになにやら書き込むドクターの姿があった。難しい公式、読めない走り書き、理解できない落書きが乱雑に書きなぐられたノートと取り上げてみると、視線がリーへと移り、ゆっくりとリーが持つトレイへと注がれる。
    「カリカリのベーコン乗ったやつだ」
    「はい、カリカリのベーコン乗っけたやつです。二枚目はこっちのシロップ使ってくださいね」
    「しょっぱいと甘い、最強だ」
    「えぇ、最強です」
     理性が少々家出しているらしいドクターに合わせて喋りながら、どうぞとトレイをデスクに乗せる。ドクターが手袋を外してナイフとフォークを手に取る。会食やパーティなど、リーがロドスに来る前より何度か経験を重ねているらしいドクターの所作はリーから見ても美しいものだった。ナイフが刺し込まれる様子をちらりと見ながらソファに腰を下ろした。ベーコンとホットケーキを小さな一口に合わせて切り分け、まとめてフォークで突き刺す。まだ湯気がのぼるパンケーキを程よく冷まし、ドクターが静かに口に含む。自分の作ったものをもぐもぐと噛みしめる姿を見ている瞬間は、いくら腕に自身があろうとも緊張の一瞬だ。こくりと喉が動き、嚥下を終えたことを知らせた。
    「美味しいよ!」
     文句のつけようがない笑顔にリーは胸を撫で下ろす。この日のためにこっそりとパンケーキを焼く練習をしたことは、食堂に現れるつまみ食い常習犯数名との秘密だ。
    「リーは何でも作れるよね。昨日のクリームぎっちぎちのシュークリームも美味しかった」
    「気に入っていただけたなら、また作りますよ」
     あなたに食べてみたいと言われたものはみんな、事前に調理法を見直してから作っているんですよ。おれの手がつくり、あなたをつくるものには細心の注意と努力を惜しみません。なんてことをリーは決して言わない。隠し味こそ最高の調味料だ。
    「今日も食堂に立ってくれたんでしょ?私のおやつまで作って、大変じゃない?」
    「あなたのこれはおやつではなく昼食ですけどね。なんてことないですよ」
     二口目を切り分け頬張りながら、ドクターはパンケーキを見下ろす。味見と称して少量ずつ口にしているうちに腹いっぱいになります、と以前ドクターはリーから聞かされていたが、食堂に立ちっぱなしな上に片づけまでして自分にこうして食事を持ってきている間に、小腹くらいは空くんじゃないだろうかと思った。だからパンケーキを大きく切り分けた。数日前のハンバーガーを思い出す。あの時のリーの一口はどれほどだっただろうかと逡巡する。結局決心はつかず、丸々一枚を半分に切った大きさにしたパンケーキを残りのベーコンごとフォークに刺し、リーに差し出す。
    「一口どうぞ」
    「いや、流石にデカすぎますって」
     はは、と笑うリーにドクターは一度パンケーキをさらに戻し、更に半分に切り分けた。元の一枚の四分の一にあたる大きさにまで小さくなったパンケーキは、しかしドクターからすれば十分に巨大だ。これくらいなら食べられるだろうか、と同じようにベーコンも半分に切り、再度フォークにそれらを刺してリーに差し出した。
    「これなら食べられそう?」
     差し出されたパンケーキにリーはさてどうでしょう?とソファに深く沈んでいた腰を上げた。ドクターの一歩とは比べ物にならないほど大きな一歩を二、三回繰り返しただけでデスクの前まで辿りつく長身に合わせて、ドクターはもう少しフォークを上にしようと腕を上げようとした。その手を黄色い手袋が掴む。龍が巨躯を折り曲げ、パンケーキをドクターの手ごと口元まで寄せると、ぱかりと口が開いた。ドクターとは骨格から違う大きな口から覗く牙と長い舌が、デスクを照らす照明にてらりと怪しく輝く。手袋を外したドクターの手に、リーのあたたかな吐息がかかった。はくりと閉じられた口に消えていくパンケーキをぼぅっとしながら見届ける。食べ終えたリーはというと、ドクターから手を離し、折り曲げていた背筋をぐっと伸ばした。
    「んん、合格ですね」
     リーは口の端についていたらしいパンケーキの欠片を舐めとる。正面から熱心な視線が注がれていることに気づいた。口の中に頬張った分を飲み込んでから口を開く。
    「なんです?」
     既視感があるな、とリーは声をかけてから思った。前は確か、この後に口の大きさを羨まれたんだったか。今回もだろうか、とドクターの顔を窺うと、ドクターはポカンと口を開けていた。フォークを持つ手が、リーの離した位置で固まっている。そこでリーは意図せずともフォークに間接キスする形になってしまったことに気づいた。自分はあまり気にしないが、ドクターは気にする人だったかと失態を反省する。
     しかし、ドクターが発した言葉はそんなものではなかった。
    「……た」
    「た?」

    「食べられるかと、思った……」

     腕を微動だにせず呟かれた言葉に、リーはきょとりとしてしまう。数回瞬きをした後に、ようやく脳が状況の処理を再開したところで、たまらず顔を背けて笑った。
    「ふふ、ドクター。食べられるって、ハハッ!」
    「そんなに笑うことないだろう!君の口があんまりにも大きかったから、手がひやっとしたんだ!」
     ひぃひぃとソファに伏せるほど笑い、腹ぁ痛くなってきましたとまでリーが口にするとドクターは怒りの炎に燃えた。怒りのピークは六秒立てば理性が介入し冷静になると言われているが、ドクターの理性は普段よりも少ない。怒りを収める理性が足りず、内線で医療部にいるリーの子どもの一人にとっておきの薬を持ってくるよう頼もうとしたところで、ようやくリーはおとなしくなった。
    「はぁ…すみませんね。おれが悪かったです。だからその手を下ろしましょう。パンケーキが冷めちまいますよ」
    「…フンッ」
     怒りが倍以上の時間を経て治まったらしく、ドクターは再びパンケーキを切り分けて食事を再開した。フォークは替えなくとも問題無いらしい。
    「リー」
    「なんです?」
    「今度から、カトラリーは二人分で頼むよ」
     じっとりと見つめる瞳に射抜かれ、リーは頭に被せたハットを手に取り胸の前に持って行った。
    「仰せにままに」
     もっと強欲であれと思う。もっと食べなさい。あれもこれもどうぞ、食べたいものがあれば言ってくださいな。子ども達が巣立ちの準備を始めた今、両手の空いたおれが世話を焼けるかわいい人は、あなただけ。
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    sbjk_d1sk

    DONE記憶を失って転生したリー先生と、連続する魂を持つドクターの鯉博。一部過去作から抜粋。
    オーニソガラムの亡骸 星の予言、星の花。星の光を探して、星屑と閃きを眺めて。



    「いらっしゃい、リー家の子」
     他人のテリトリーに足を踏み入れるのはいつだって、適度な緊張感と警戒心を必要とする。リーは詰めていた息を白色にしてそっと吐き、吐いた分の吸い込んだ空気が纏う花の香りにまたため息をついた。両親と比べ未発達な細く頼りない尾が揺れ、薄く柔らかな鰭が風にあそばれる。
     かつては龍しかいなかったという閉鎖的な集落はすっかり姿を変容させ、龍の数こそ多いものの昔に比べれば様々な種族が住み着くようになった。それにより貿易は一層栄え、利便性は改善し、知見や見解が広がったことで価値観も開放的な方向へと進んでいった。少年が足を踏み入れた家は、しかしそうなる以前――もう百年以上も前だ――に建てられた、異種族にまだ偏見や差別の考えがあった頃にその嫌う異種族に説き伏せられて建てられた家らしい。家屋自体は然程大きくはないが手入れが行き届いた庭は非常に美しく、季節の花や草木が目に鮮やかで、門扉を潜った直後だというのに足を止めて眺めてしまうほどだ。そのせいだろう。前を歩く冬空のようなその人が振り返り首を傾げた。
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