今はただこの楽園の朝を見せて エレベーターを降り、甲板の床を靴底が叩けば一斉に視界を翼が埋め尽くし飛び上がっていった。騒々しい羽音の中にくすくすと悪戯好きな笑い声が潜む。羽ばたきが落ち着きかつん、カン、と甲高い音を立てて爪が柵やアンテナなど金属にしがみつくのがしばらく続いた後、ようやく目当ての人の姿――ドクターの姿が照らし出される。
「あけましておめでとう、リー」
「アケマシテ……あぁ、極東の新年の挨拶ですか。おめでとうございます」
ドクターとしての白衣も裾の長い上着も、フェイスシールドすら取り払った姿。ドクターではないにんげんの輪郭。
ドクターの背後の柵、頭上のアンテナ。あらゆる場所から向けられる視線にやや居心地は悪いものの、彼らが邪険に扱われることをドクターは酷く嫌うため、リーは誰に向けたかも曖昧な軽い会釈をしてドクターの隣に並ぼうと歩み寄る。しかしその歩みは先ほどまでとは異なる羽ばたきの音に止められた。
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