伝えるには狭い世界"You two are really close, huh."
休み時間に律と談笑していたら、キャシーにそう言われた。彼女は日本語と日本文化を学ぶためにLAから交換留学生としてやってきた。だから他のクラスメイトとは拙いながらも日本語で話すが、幼なじみの僕とは英語で話す。
「ジュンくん、キャシー何て言ってるん?」
律が僕に問いかける。
「『あなたたちとても仲がいいのね』だって」
「そりゃあ、僕ら幼なじみやしな!」
そう言う律はどこか誇らしげだった。キャシーはそんな律にニコリと微笑んだ。最近日本語リスニング力が着いてきた彼女はおそらく意味がわかっている。そして僕の方に目線を戻すと真面目な顔でこう問いかけてきた。
"Could it be that you are dating"
キャシーが英語で言ってくれたことに感謝した。英語が苦手な律には多分わからないだろうから。だが、たまたま聞き取ったであろう、何人かの英語得意勢のクラスメイトたちがププッと吹き出した。
"No we aren't.…so far."
僕が冗談混じりにそう答えると、そのクラスメイトたちは何かが破裂したように笑いだし、キャシーは不思議そうな顔をした。律は僕らと周りの様子から不安になったのか、もどかしそうに僕の袖を掴んで揺さぶった。
「なあなあ、なんで皆笑ってんの? 今何の話してたん?」
焦る律が何となく可愛らしくて、ついにやけてしまった。僕が勿体つけて黙っていると、英語得意勢の一人である女子が代わりに律に教えた。
「キャシーが『もしかしてあんたら付き合っとるんか?』ってジュンくんに聞いて、ジュンくんは『今んところはちゃうよ』って言ったんよ」
「んなっ!?」
律の顔が真っ赤になった。
「ジュンくん!! なんで!! なんではっきり否定してくれへんの!? 否定してや!! そんなん!!」
焦ってキャシーに向かってノー!ノー!と叫びながら僕の袖を掴んで揺さぶってくる律が面白くて仕方なかったが、何かがチクリと胸に刺さった気がした。
"Don't worry if you are in kinda relationship.At least I'll accept. Everyone has various ways of loving someone."
けして茶化すわけでなく、至って真面目にそう言ってくれるキャシー。
「『あんたらがそういう関係でも私は受け入れるから心配しやんでいいよ』ってさ!!」
さっきの女子がケラケラ笑いながらそう律に伝える。
「お前らいつでも一緒やからそういうこと言われるんやろ!!」
男子の一人が笑い転げながらそう言った。
律はますます焦ってノー!ノー!と首を激しく横に振った。だが、キャシーは真剣な表情のままだった。周りが可笑しそうに笑っているのも、律が死にものぐるいで否定しているのも、彼女にとっては違和感があるようだった。
ごめんな、キャシー。律は女子にもモテるし、きっとそういう奴じゃないんだ。それにここは僕らがいた世界とは違うから。
"Thanks, Cathy. But He is not that kinda person."
僕がそういうとキャシーは何かを察したような顔をしてこう言った。
"Jun,I'm always here for you."
「私はいつもジュンの味方だから」。ありがとう、キャシー。