もうすぐだね「あの頃はしつこいくらい口吸いしてくれたのに、今は全然ですよね。なぜですか?」
僕が顔を近づけると父さんは逃げるように顔を反らせた。僕より少し背の高い、細い身体が小刻みに震えている。
「なんでそうやって逃げるんですか?成長した僕は受け入れられないんですか?」
「……本来親子ですることではないんじゃよ……」
「じゃあ親子でしないようなことをなんで小さい僕にしたんですかね?」
父さんのすべすべの頬に手を添えてこちらを向かせる。その赤い瞳がじわりと滲んで、僕にそっくりなその顔が引き攣るのを見ると何故かゾクゾクとした感覚が肌の上を走る。顔をもっとよく見せて欲しいのに、今度は俯いてしまった。これじゃあ長い髪に隠れて顔が見えない。そんなに僕と目を合わせたくないのかな。
「…………わ、儂が悪かった。お前が可愛くて可愛くて堪らず…………勘弁しておくれ」
父さんの声が泣いているみたいに震えてる。何をそんなに怯えてるんだろう。
「なぜですか?全然悪くないですよ。僕は父さんにされて嫌なことなんて何もないんです。僕はただ、あの頃みたいに父さんと触れ合いたいだけです」
「……っ!……きたろう……」
父さんの細長く白い首を撫でるとその靱やかな肢体がビクリと跳ねた。猫みたいで可愛いなあ。このまま顎を撫でたらゴロゴロ言うかな。
「そういえばもうすぐですね」
「……?」
父さんが「何のこと?」と言いたげに僕を見る。そんな人間がお化けを見るような目で見ないでくださいよ、それにお化けなのはあなたも同じじゃないですか。実の親子なんだから。
「僕と父さんが初めて愛し合った記念日ですよ。僕は確か8歳でしたよね。お義父さんが仕事に行った後、父さんは小さい僕を膝に乗せて『愛いのう愛いのう』って言って僕の唇を吸いながら身体中撫で回してましたよね。ここまではいつものことだった。でもその日の父さんはそのまま僕の服を脱がせて……」
「やめてくれ……やめてくれえ……!! 儂が悪かった!!許してくれ!!」
父さんは耳を塞いでうずくまってしまった。僕はただ思い出話をしただけなのに。大柄な体をきゅっと縮めて震えちゃって可愛いなあ。めちゃくちゃにしてやりたくなっちゃうなあ。
「子供だった僕にあんなことやこんなことを教え込んで、精通の世話までしたくせに、その態度はないんじゃないですか? 教えたからには責任とってくださいよ。せっかくの記念日なのであのときと同じことしましょうね。いえ、あのとき父さんが僕にしたこととと同じことを僕が父さんにしてあげますよ」