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    ひれかつ

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    ひれかつ

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    「持ち主を好きになるようにプログラミングされてる」ってネタ、苦しいけど大好きですという話のマスカイ(もしくはカイマス。どちらにせよ未満。マスターの性別は特に決めてない)。
    途中、救いが無さすぎて悩んで、急にハッピーエンドの方へ舵を切ったので、わりと無理やり気味。

    ##マスカイ

    「冗談言わないでよ、真面目に悩んでるんだから」
    「俺はマスターのことが好きですよ」と告げて、少し間があったと思ったら、苦しそうな声でそう言われてしまった。
    「冗談…じゃ、ないです…!俺は、本当に…!」
    「ああごめん。言い方が悪かったね?好きでいてくれるのは嬉しいよ。まだろくに歌わせてあげられてないのに、嫌われてないんだなと思えて」
    「そ、そんな…ことが……聞きたかったんじゃ…」
    せめて、「ごめんね、その気持ちには答えられない」と言われるなら良かった。でも、どうして
    「ボーカロイドは人に扱われるロイドなんだから、マスターを好きになって当然じゃん。注意書きにも書いてあるんだよね、『マスターである貴方に忠実に従うため、ボーカロイドは貴方に好意を持っています』って。注意書きにあるってことは、ボーカロイドのその感情は、万が一に、相手がいるマスターにとって不都合になり得る、ってことなんだよね。つまり、ただの友愛じゃなくて、ちゃんとした恋慕に近い好意なわけだ」
    つらつらと、今まで聞いたこともないような冷たい声で、突き放す声で話し続けるマスターが、怖かった。
    「わかった?」
    「わ、かり…ません…」
    その事項自体は、わかっている。
    それでも、感情は納得していない。
    この好意までもが作り物だったとして、だとしても、こんなに言うことをきかないなんて、この心は出来すぎている。
    「まあね。たしかにそれをわかってて、君が聞いているところで『最近辛いから自分に優しい恋人欲しい』みたいなことを言ったのは自分が悪かったよ。でもさ、まさか自覚していないとは思わないでしょ?」
    「え、え…ぁ……ごめんなさい…」
    いつも「カイト」と優しく呼んでくれるマスターが、崖に落ちるまで突き放そうとするみたいな冷たい声で「君」と呼んだ。それだけでもう、立っていられないほど目眩がする。
    「ちなみにボーカロイドが求める関係って何なの?今君が言った『好きです』の先に続きはあるの?」
    「そ、それは…」
    たしかに、マスターが冗談で言った「恋人欲しい」というのに、立候補でもするつもりだったんだろうか。
    「既にロイドとマスターっていう特殊な関係だし、同棲はしてるようなもんだし、これ以上何を求めたの?」
    マスターに詰められれば詰められるほど、自分の発言の迂闊さに、今すぐ過去に戻ってやり直したくなる。
    「ねえ、座り込んで俯いてないで答えてよ。そんなに嫌だった?」
    呼吸が上手くできない。オーバーヒートしそうな頭は冷えないし、人間を完璧に模したこの身体は酸素がなければ震える。口ははくはくと開閉するばかりで、声を紡げないし呼吸の手伝いにもなっていない。
    何か、話さないと。
    何を?
    何か、マスターに話せることがある?
    俺は何を欲しがった?
    俺は……
    「ま、すたぁ…」
    「うんうん」
    「ますた、ぁ…に、も……すき、って、いっ…て、ほし…かっ、た」
    多分、それだけだった。
    本当に、考え無しだった。
    「……へぇ」
    あまりにも素っ気ない、声だけが聞こえる。
    顔を上げるのが怖い。失望した顔をしてるのかな。
    「それ、必要あるの?」
    「ひつ、よう…?」
    「好きって、言葉。マスターから、ボーカロイドに」
    「わ、わかり…ません……でも、おれ、は…ほしく、なりました…」
    「うーん、わかんないだらけだね」
    まだ、マスターの声には冷たさがある。
    どうしたら、許してくれる?
    間違えたのは……「好き」って、言ったところから。
    「ま、すたー……かんじょう、を、けすことが、できます」
    「うん?」
    「…す、きに…なって、ごめんなさい」
    「仕方ないよ。そういうプログラミングなんだから」
    「あ、あの……くびの、うしろのとこに、あります…ますたぁの、しもんにんしょう、で…」
    「あー別にいいよ」
    「え、な、なんで…」
    「その感情が迷惑だとは言ってないよ。タイミングは悪かったけど」
    「ご、ごめんなさい……」
    じゃあ、どうすればいいんだろう。どうしたら、いつものマスターに戻って話してくれるだろう。
    「ねえ、今『カイトのこと好きだよ』って言ったら、嬉しい?」
    「っ!はい!!」
    カイトと言われて、反射的に顔を上げる。
    顔を上げて、びっくりした。
    「ま、すたー…?ど、して…」
    マスターは、音もなく、静かに泣いていた。本当に、瞳から涙が溢れているだけで、しゃくりあげたりもしていなかったから気づかなかった、のか。
    「本当に嬉しい?これだけ疑って、信じなくて、追い詰めて、苦しめて……そんな相手から、好きって言われて、嬉しい?」
    「お、れは……マスターが、好きだから……こ、こわかった、ですけど…好きって、言われたら、嬉しい…です…」
    だって実際、今一瞬名前を呼ばれただけで、すごく嬉しかったんだ。
    「…ごめんね」
    そう言ってマスターは、俺の頭を撫で始めた。それは嬉しいようで、でも、言葉の意味が引っかかった。
    「それは、やっぱり…」
    「好き」とは言えない、と。そういうことだろうか。
    「……ううん。多分、違う。そうじゃなくて、変なこと言ってごめんね。やっぱり変に悩んでる時はいろいろ良くないみたいだ」
    「だ、大丈夫…です…!」
    「すごく泣いてるし、途中で立てなくなっちゃったし、大丈夫じゃないと思うよ」
    「え、あれ…」
    言われて、頬に触れてみて、やっと自分が泣いていることに気づいた。一体、いつから…
    「だから、ごめんね」
    「そんな…俺は本当に、大丈夫、ですから…」
    「ちゃんと謝らせて。カイトのこと、本当に大好きだから」
    「…っあ、え…?ま、マスター…っ!」
    だ、大好き、って、本当に?夢じゃ、なくて…?
    「あれ?思ったよりあんまり嬉しくなかった感じかな?」
    「ち、ちがっ…!嬉しいです!!ホントに…!」
    クスクスとからかうように言われて、さっきのマスターの言葉は、都合のいい聞き間違いなんかじやないってわかる。
    「はーあ…本当にごめん、こんな時にこんな大事なこと言っちゃって。あとで改めて言わせて。というか、もっと早く、いつも言ってれば良かったね」
    「そ、そんな…されたら…ゃ、爆発してしまいます…!」
    「ば、爆発まではいかないって…!」
    「だ、だって、今もすごく、熱が…」
    「あ、うんそれは…熱っちぃな〜とは思ってたけど…」
    「うぅぅ…そ、それなら離れてください…」
    「いや…面白いからこのままで…」
    「ますたぁ…!うぅ…さっきまで涙出てたのに、出てこないぃ…」
    「出切ったのかな。それとも嬉しくて?」
    「多分両方です…うわぁぁんあたま熱い…」
    「(おもしろ…)じゃあ冷却水補充しような」
    「やだぁ…ますたぁはなれないで…」
    「おぉおぉぉこら、駄々をこねないの。カイトのデカさで引っ張られると危ないって!」
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