私たちに君は不要「…綺麗!」
感嘆の声を上げ、風に揺られ桜吹雪を起こす大きな桜の木をセレスは見上げた。さらさらと風で木の枝が揺れ――そしてぶわりと勢いよく風が吹く。セレスとマティスの間を吹き抜ける桜の雨が、桜吹雪がマティスは自分からセレスを奪い取る存在のように思え、桜に攫われて消えてしまいそうな、そんな儚げな笑顔に思わずマティスはセレスの腕を掴んだ。
「マティス、くん…?」
「あ、す、すいません…つい」
ただ事ではない必死なマティスの顔を見て何かあると感じたセレスはじっとマティスを見つめる。わけを話してくれ、と訴えると降参したというようにマティスは小さく息を吐いた。
「じ、実は…あなたが、さ、桜に攫われそうに見えて…僕の前から消えてしまうんじゃないかって…そう思えてしまって、不安で……それで、つい」
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