「好きだ」「大好き」「愛してるぞ」
御手杵が俺に対して発するその言葉が、苦手だ。行為中はもちろん、ふたりきりであれば口癖のように囁いてくる。
「お前、それやめろ」
「?」
「その、スキスキ言うのをやめろっつってんの」
「好きだから好きだと言ってるんだ、何が悪い?」
嫌がらせをしているわけではなく、好意を示しているだけだ。理解できない、とでも言いたげに御手杵は肩をすくめた。
「俺もお前も武器なんだからさ、人間のように愛を語るのもおかしいだろ」
「うーん、やることやってるのに今更な話だな」
確かに、愛し合う人間同士がするような行為を毎晩…とまではいかずとも、よくしている。してはいるが‥‥
「それとこれとは別の話で」
「じゃあお前は、俺以外のやつともこんなことするのか」
御手杵はそう言いながら顔を近づけて、俺の額と頬に軽くキスをした。
「しねぇけど」
「ふふーん、そうだろう?」
「でも俺は、」
言わないほうがいいだろうと思い、今まで口にしなかったことを、少し迷いながらも吐き出すように言った。
「そんな言葉はいらねぇよ。心臓が暴れて苦しいだけだ。」
「‥‥‥‥」
「こんな苦しい思いをするなら、出会いたくなかった。お前のこと、知らないほうが良かったよ」
情けない弱音だが、本心だった。明日、失うかもしれないこの幸福が、ただただ怖かった。
「‥‥‥‥‥」
沈黙が流れる。御手杵の顔を、見ることができなかった。
「‥‥‥‥ぶっ、あっははは!」
「!?」
突然の笑い声に、俺は顔をあげる。御手杵は、笑いを堪えきれないといった様子で、緩んだ口元を抑えながら、涙目でこちらを見た。
「す、すまない‥‥ふふっ。正国は俺のこと大好きなんだなぁ、と思ったら嬉しくてつい‥‥」
「なっ‥‥!俺は好きだなんて一言も言ってねぇ!今まで、一度も‥‥!」
これだけたくさんの言葉をもらっていながら、俺からは愛の言葉をひとつも発したことがなかった。
「言われたことはないが、伝わってるぞ。ちゃんと。」
「‥‥‥‥」
「俺も好きだよ、正国。出会えて良かった」
「‥‥クソっ!勝手に言ってろ。」
「あぁ、言うさ。何度でも!」
駄目だ、駄目だ。その笑顔が俺を苦しくさせているというのに、本当にお前ってやつは‥‥
「あぁ、悔しいが俺の負けだ‥‥」
「なんか勝負してたか?」
「うるせぇ!好きだ!」
勢いに任せて言ってみたら、驚くほどに顔が熱い。俺はそれを見られまいと御手杵に抱きついた。優しく抱き返してきた御手杵は、何も言わずにただ、俺の髪を撫でている。こんな幸せ知らないほうが、きっと幸せだったのに。俺はこのとき初めて思った。
こいつに、出会えて良かった。