くーさんがぱやをぎゅーしちゃう話『空海が俺を離してくれない件について』
「逸勢、いつものを頼む」
烏帽子を放り、髪をすっかり乱した逸勢が振り返ると、机の傍でゆるく胡坐をかいた空海がにっこりと手招きをしていた。
「お前それ毎日やるつもりか?」
「うん」
二人きりになった時の空海は普段の数倍素直だ。
しかし最近はこれまたおかしなおねだりをしてくる。
俺は空海をしばらく見つめたが、ため息をつくと空海の胡坐に腰かけすっぽりと空海の懐に収まった。
「よしよし」
満足げにうなずくと、空海は筆を執り、紙に墨をにじませた。穂先から次々と生まれる字は相変わらずため息が出るほど洗練されながら自由闊達で、美しいことこの上ない。この書を誰に見せた所で、まさか男を抱えながら書いたとは誰も夢にも思わないだろう。
1546