【イベント】ヒューマノイドロボットの考える慰霊十一月十一日、アンセムアーティファクト。――お盆であり慰霊祭。
総研のゆるりと流れる時間の中でで唯一寿命を早いサイクルで迎えるのが道具達。それを灯篭流しのように星へ流す行事だ。
記録はされている。実行した事実はない。ということは今までそこまで興味がなかったということか、Sは自分の記憶を辿る。
総研に来てからというものますます人格が形成されていっている気がする。いい変化だ。
誰が何を入れるのかは知らない。聞いても良いものなのだろうか詮索は良くない。
狐面の彼女は壊れてしまった面を入れると小耳に挟んだ。
各々、長年使ってきたものや思い入れのあるものを入れるらしい風を感じる。
さて、私(ワタクシ)は何を入れようか。
散らかった部屋を見回す。バージョンが変わって便利とは言えなくなった参考書。最近読んでいない好きな作家の本。DVD、ペン、空瓶、修理道具(これはまだ使える。)、ジッポライター、……
「うーん……入れる程の愛着はないなぁ……」
なにか無いかと掃除ついでに部屋を物色するが目ぼしいものは見当たらない。
千思万考。
Sは頭を捻って考える。
机になにかあるだろうか、漁ってみようか。
簡素な事務用机の引き出しを引く。がらがら。
「あ、あるじゃないですか。」
自分のパーツ。自力で直せる部分は突発的に実家(研究所)に帰るわけにもいかないので個人的に修理する。その時に廃棄せざるを得なかった割れた歯車や錆び付き使い物にならなくなったビスが出てきた。
僕にとってのこれ。生物にとっての血液や骨や内臓。
別に処分すればこの鉄屑はまた熱されて溶かされて新しいパーツになり、新しい作品の一部となる。
けれどなんとなくSにはそれができなかった。
ある世界では自分から抜け落ちた一部を屋根やら軒下やらに投げるなんて習わしもあるらしいし、
「そうね、これにしよう」
誰に言うでもなく独り言つ。
これを何年も繰り返して、流れ着いた先でパーツが偶然組み合わさって、偶然自分ができたらそれって面白い。そんなことが可能かどうか、この大きさができるまで何年かかるかなんてそんな具体性は求めてない。あったら面白いだけだ。なんてことを考えながらパーツをかき集める。
小さなかけらが片手に収まるぐらい集まった。コンビニの饅頭ぐらいの量。この例えはあまり上手ではない
手のひらに小さな生き物が乗っている。僕の小さな分身であったもの。
箱へ詰め込む。がらんころん。
金属と木が触れ合う音。アンバランスな音に反して紺色の中に詰め込まれた銀は中々いい調和をとっている……と思う。
「――さて、」
足は喫煙所に向かう。一服しながら自分を見送るなんて乙じゃない
紫煙を燻らせながら星を待つ。
いつか僕も動かなくなったら。誰かがこの箱に入れて空へ送ってくれるのかな。
そしたらその先でもう一人、先に送った自分が偶然完成していて。
オンボロとオンボロがまた馬鹿なことをやったりするんだろうな。
吐く煙と共に箱が空へゆっくりと昇っていった。