走馬灯 任務に危険は付き物。とはいえ、今回は本当に危なかったかも知れない。
「走馬灯が見えました……」
「塔?どこに?」
地面にへたり込んだまま呟いた晶に、オーエンが訊ねた。晶が見上げると、彼は「意味がわからない」と言いたそうな顔をしていた。こちらの世界では馴染みのない表現だったのかも知れない。言葉を探しながら、晶はふらりと立ち上がった。まだ少し感覚がふわふわしている。
「走馬灯というのは、ええっと、死の間際に過去の記憶とかが巡って見えるみたいな……不思議な現象のことで」
知っている言葉でも人に説明するとなると案外難しい。晶も詳しく知っている訳ではないのでざっくりとした説明になってしまう。走馬灯ならオーエンの方がたくさん経験していて詳しそうな気がするけれど「オーエンは走馬灯を見たこと無いですか?」なんて訪ねて良いものだろうか。
うんうんと頭を悩ませている晶に、オーエンの手が伸びる。彼は無遠慮に晶の顎を掴んで上向かせた。突然のことに声もなく驚いた晶と目を合わせてオーエンはにこりと笑う。彼の傍らには、いつの間にか魔道具のトランクが浮かんでいた。
「きゅ、急に何ですか?」
「賢者様、まだ寝ぼけているみたいだから、目を覚まさせてあげる」
「何で!?」