ある冬のことだった。夜中に降っていた雨の影響で一日中体の芯から凍えるような寒さだった日。父さんがいつもなら帰ってくるであろう時間になっても帰ってこなくて、母さんがしきりにどうかしたのかなと心配する独り言を言っていたのを覚えている。眠い目を擦り、数分の間にあくびを何度もこぼす。母さんに何回目かの「もう寝なさい」を聞いた頃だった。
外の恐ろしく寒い空気と共にようやく帰って来た父さんは、亡霊を連れていた。真っ黒で、父さんの後ろにぼうっと立っている。遅かったのねと声をかける母さんは何も言わなかったし、父さんもその男のことを特に口にはしなかった。だから自分にだけ見えている何かなのだと思い、その姿を目にしないように恐る恐る後ずさり母さんの後ろに隠れ始めた自分に父さんが気がついた。
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