君のために「ねえねえエリオット。“塩こしょう少々”の“少々”ってどのくらいかな? 何グラム?」
「そうだなぁ……親指と人差し指の指先でゆっくり摘んで振りかける程度だな。ちょっと前までキッチンが戦場になってたのに立派にこなせるようになったもんだ」
「エリオットに美味しいって言って欲しくて、ボク頑張ったよ!」
エプロンを身に着けたパスはコンロの前に立ち、親しい友人の俺のために夕食を作ってくれていた。以前レストランでシェフをやっていたこともあると聞いたが、ラーメン屋で働いていた頃の話からすると決して料理が上手い部類ではなかったことが伺える。高機能なロボット故に数値で表した行動はバッチリとこなせるが、数値では言い表せられない感覚的なところは苦手なようだ。前にパスから夕飯を作らせてくれと頼まれて任せた時は、塩ひとつまみがわからずに塩ひとつかみ入れようとしたり、レシピに強火と書いてあれば汚物を消毒するかの如く大火力で食材を消し炭にした。
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