雪落とす夜ガチャリ、と玄関の扉が開く音が耳に届き、煉骨はタブレット端末の画面から顔を上げた。廊下を歩いてくる足音が聞こえ、リビングにつながる扉が開く。
「ったく、ひでぇ寒さだったぜ」
「そうみたいだな」
ダウンを着た睡骨が部屋に入ってくる。ずずっ、と鼻を啜る音が聞こえた。
「一面真っ白だ、こりゃ明日も電車は駄目だな」
「そうか。なら明日も家で仕事にするかな……」
突然の大雪で朝から交通網が乱れ、電車もほとんど動いていない。普段、電車で通勤している煉骨は今日の仕事内容を在宅に切り替えて働くことにしたのだが、仕事上、現場に行く必要のある睡骨は仕方なしに雪道を運転して職場に向かい、そして今帰ってきたところだった。窓の外では、いつ止むかわからない雪が次々と空から落ちてくる。
「このまま降りが続くようなら、明日は車も出せねえぜ」
そう言って睡骨がダウンを脱ごうとした時だった。
「待て、睡骨」
「ああ?」
「上着に雪がついてる。玄関で脱げ」
「ああ……」
はあ、と疲れたため息をついて睡骨は一度廊下へと戻った。煉骨はキッチンへ向かいお湯を沸かす。ほどなくして睡骨がリビングに戻ってきた。
「くっそ、寒いな」
そう言ってソファに座る睡骨。キッチンにいた煉骨がリビングへとやってきて、腰かけた睡骨に近づいた。
「睡骨」
「ああ?なんだ、今度は」
煉骨の方を見上げて面倒くさげにそう言うと、少し濡れた固い髪に長い指先が柔らかく触れた。
「髪にもついてるぞ」
そう言って軽く微笑しながら、煉骨が指先に摘まんだ雪を見せる。低い体温でもそれは容易に溶けて、あっという間に水に変わった。
「……おう」
頭を掻いて一言それだけ言って睡骨は視線を外す。ふっ、と背後で笑う気配がして、煉骨が離れていく足音がした。
「鼻も真っ赤じゃねえか。いまコーヒーを淹れてやる。そこで待ってろ」
キッチンから聞こえてくる声。それを聞きながら睡骨はまた頭を掻いた。
「はあ……」
詰めたため息に乗った感情。隠しきれない表情を手で覆う。鼻だけではなく耳まで赤くなった睡骨のことなど知らないまま、煉骨は戸棚から揃いのカップを出すのだった。