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    hito

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    hito

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    遅くなっちゃったけど11月の睡煉です。

    落ち葉を集めて焚き火をすると、冷たい空気がほんの少しだけ和らぐような気がした。火加減を見ながら、はあ、と息を吐いてみる。まだ呼吸は白く色づかないが、きっとそれも数日のうちに変わるだろう。ここ最近は、寒い日が続く。
    「どうだ?」
    「まだだ。もう少し待て」
    焚き火の側にしゃがんでいた煉骨に、箒を手にしてやってきた睡骨が声をかけた。掃いて集めた落ち葉を鷲掴みにし、焚き火の中へとくべていく。
    「もう秋も終わりだな」
    「そうだな。紅葉もだいぶ葉が落ちてきた」
    各地を転々として戦に赴いている七人隊は、特定の住処を持ちはしないが拠点は何ヵ所かに構えていた。この山間の場所もそうだ。人の住んでいなかった家に戦の道具や物資を運び込んでおき、近くで仕事となった際にはここで準備を整え、戦場に出向いている。
    が、ここ数日は暇を持て余していた。先日の仕事が終わって、そのあとの戦場が続かなかったのだ。七人隊は傭兵だ。要望に応じて戦に出向くことはあっても、戦を起こす立場には無い。来月には声がかかっている仕事もあるが、もっと北の方へと出向かなくてはいけなかった。もうしばらくは暖かいこちらの地方で心身を休めたいということで隊全員が同意し、各々が適当に時間を過ごしている。
    「北の方はさぞ寒いんだろうよ」
    「次の仕事のことか……そうだな、確かに長引きそうな戦ではある。下手をすると冬の間はずっと向こうで過ごすことになるかもな」
    「はっ、勘弁してほしいぜ。さっさと殺し尽くして終わらせちまいたいところだ」
    「戦が始まれば好きに殺して構わねえが、雇い主が始める前におっ始めるんじゃねえぞ。あとあとの処理が面倒だからな」
    「わかってるよ」
    睡骨が落ち葉を掴んでまたくべる。火が燃えるパチパチという音が、静かな冬の森に響く。
    「あまり寒いと銀骨が動けなくなっちまって使えねえからな。寒冷地用の装備でも、明日あたり考えてみるか」
    「ここ最近、色々な地方の大名から呼ばれるようになったな。昔は北の方での仕事なんざ無かっただろ」
    「七人隊がそれだけ有名になってきたってことだ。金も入るし悪くはねえ。まあ、やりすぎないようには気をつけねえとな」
    「ああ?やりすぎるってのはどういうことだ」
    「上に立つ人間ほど、手元の駒が強力だと捨て置くわけにはいかなくなるってことさ。……そろそろか」
    そう言って煉骨が、地面に置いておいた鉄の棒を手にする。睡骨が不思議そうな表情を浮かべた。
    「なんだその棒」
    「銀骨を改造してつけようと思ったんだが断念した」
    「改造ねえ……」
    「ほら、焼けたぞ」
    棒を焚き火の中に突き刺し、中に入っていたものを取り出す煉骨。紫色の秋の味覚が先端に刺さっている。焼き芋だった。
    「お前、銀骨になんでもつけすぎじゃねえのか」
    「そんなことはない。あいつを強くするならまだ物足りないくらいだぜ」
    焼き芋の刺さった棒を睡骨に手渡すと、煉骨はもう一本、棒を焚き火に突き刺し、次の芋を取り出す。睡骨は刺さった芋を手に取ろうとしたが、思いの外熱かったのでやめた。棒に刺さった芋に、そのままかじりつく。甘い味が口の中に広がった。
    「寒さによる冷えが銀骨の一番の問題だからな……凍れば各部の構造の動きも悪くなるし、湿気は錆の原因にもなる。寒暖差による影響や、それに伴う管理、手入れのしやすさが課題だ」
    「へえ」
    煉骨も睡骨と同じようにして、棒に刺したままの焼き芋をかじる。ぶつぶつと言いながら色々と考えているようだが、睡骨は銀骨の改造のことなど興味はない。半分ほど話を聞き流しながら、焼き芋をかじる。
    「あとは銀骨本人の体の冷えも問題だ。接合部は特に冷えやすい。銀骨の奴、体の中心部はあったかいんだが、生身との繋ぎ目は金属に熱を奪われるせいで冷てぇからな……」
    ぴたり、と芋を食べる睡骨の動きが止まる。煉骨はそれに気づかないまま、話を続けた。
    「おれと組んで戦う分には火の気に近いし、多少の寒さであれば気にはならねえだろうが、あいつ一人で戦うとなると……」
    「銀骨の体について随分詳しいな」
    煉骨の言葉を遮って睡骨がそう口にする。「ん?」と煉骨が首をかしげた。
    「当たり前じゃねえか。あいつの体をちゃんと理解してなけりゃ改造に支障が出る」
    「は、そりゃそうだ」
    がぶり、と焼き芋をかじる睡骨。もやつく気持ちが胸の中にわだかまっているが、しかしそれがしょうもない感情に由来していることには気づいている。自分の下らない嫉妬心に呆れながら、黙々と芋を口にした。
    「銀骨のやつ、体が丈夫で改造に耐えられるのはいいんだが……少し鈍いところがあるかならな。負担がかかってることに気づいていないことも多い。ちゃんとこまめに見てはやらねえと」
    焼き芋を半分ほど食べたところで、煉骨は腹を満たすよりも考えをまとめることに注意がいってしまっているようだった。睡骨は芋を食べ終え、棒を焚き火に突き刺し二つ目の芋にかじりつく。
    「寒冷地用の装備を考える前に、一度今のを取り外して体の具合を見てやった方がいいかもしれねえな。この前の戦が終わった後も肩のあたりを気にするような動きを見せていたし……今ならちょうど暇もある。いっそみんな外しちまって……」
    「煉骨」
    「ん?」
    ずっと銀骨のことばかり考える煉骨に、思わず睡骨は名を呼んだ。煉骨がこちらを向く。しかし名を呼んだものの、特に言いたいことがあったわけではない。ただ、自分と一緒にいるのに、他の男のことばかり考える様子が気にくわなかっただけだ。もちろんそれが仕事に必要なことだというのは睡骨もわかっている。それと感情はまた別の話だった。
    「なんだ、睡骨」
    何も言わない睡骨の、言葉の続きを促す煉骨。睡骨は少し黙ったのち、仏頂面を下げたまま小さく呟いた。
    「………。少しはおれのことも考えろ」
    言い終えてから気恥ずかしさに、睡骨は芋をかじった。煉骨は目を丸くしている。視線が居たたまれない。もう一口、芋をかじった。
    「……お前も改造してほしいのか?」
    煉骨の言葉に芋を口に含んだ睡骨が噎せる。ごほごほと喉につっかえかけた芋を飲み下し、睡骨は声をあげた。
    「はあ!? なんでそうなる」
    「違うのか。じゃあなんだ、お前の寒冷地用の装備ってことか?」
    「そういうことじゃねえよ……」
    「じゃあどういうことだ」
    「いや……いい。なんでもねえ」
    がっくりと肩を落とす睡骨の姿に首を傾げる煉骨。些細な嫉妬心に気づかれなかったことはよかったのか悪かったのか。睡骨ははあと溜め息をついた。煉骨が「改造してほしかったらいつでも言えよ」と笑って言うのに対し、「誰が言うか」と返してまた溜め息を吐く。情に思い悩んで熱された吐息は、白い冬の色をしていた。
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