ベキリーブルー・ガーネットは落ちて来ない 犬飼。
名前を呼ばれて、犬飼は元気の良い返事と共に後ろを振り向いた。
そしてにこりといつも通りの笑顔を浮かべながらなんですかと問いかけてみれば、声を掛けて来た側である土佐凌牙は一瞬どこかうろたえた様子を見せる。
どうしたというのだろう。声を掛けてきたのは土佐くんの方なのに。そんなことを考えながら、犬飼は隠すことなく首を傾げた。土佐くん。代わりに今度は犬飼の方から名前を呼んでみれば、土佐が一歩を踏み出して距離を詰めて来る。
その一歩は、とても大きい。
犬飼は一瞬で目の前まで来た土佐を見上げる。獰猛でいて、その実だれよりも優しく不器用な彼を犬飼はとても好いていた。愛おしいと素直に思うそれは決して恋愛感情などといったものではないけれど、確かな好意を抱いていることにかわりはない。
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