汗 暑い
茹だるような暑さである。
もう九月に差し掛かろうというのにこの暑さは気がくじける。原稿を前にしても汗で腕に原稿用紙が張り付いて気になって仕事が進まなかった。
自宅の窓硝子から差し込む日差しの熱々しさを憎らしく見つめ、したたる汗にももう構うことなくただ垂れ流している。
「おい、関口くん、いるかい」
玄関口から聞きなれた声がする。しかし返事をする気力もない。妻は夕刻まで戻らない。まぁ勝手に上がってくるだろう───そんな適当な気持ちで書斎でごろりと横になった。
「まさか死んでいるんじゃないだろうな」
「勝手に殺さないでくれ」
頭上から落ち着いた低い声が聞こえる。私はこの声が───好きだ。
「大丈夫か?熱射病じゃないだろうな」
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