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    黒姫です

    @princess_kuro18

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    黒姫です

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    ちいさいケイ様といっしょ【一日目】
    初めて会った日の出来事。プロローグ的なものなので短い。

    ピンポーン────

    家のチャイムに、動いていた右手が止まる。すると作業に没頭していた脳と身体が急激に疲労を訴えてくる。時計を見ると、作業開始から数時間は経っていた。
    脂肪にまみれた首と肩を回し、凝りをほぐす。
    そうしているうちに二回目のチャイムが鳴り、慌てて腰を上げる。
    「はい」
    『〇〇急便でーす!お届け物です』
    「あ、はい。今行きます」
    はて、何か頼んだだろうかと首を傾げながら玄関に向かう。着払いではないと良いのだが。
    ドアを開けると、筋肉質な30代ほどの男性が、その体格に合わない小さな小包を片手に立っていた。
    「宛名にお間違えないでしょうか?」
    「…はい。あってます」
    「では、ここにサインお願いします」
    ボールペンで名前を書き、返すのと一緒に小包を渡される。
    「ありがとうございます。では失礼します!」
    「あ、お疲れ様です」
    小走りで去っていく足音を聞きながら、ドアを閉める。


    「差出人は……不明…?でも宛先は僕なんだよな…」
    あまりにも怪しい。
    箱を軽く揺らしてみる。ぽふぽふという音がする。異臭がするわけでもない。中身が全く検討もつかない。このまま廃棄した方がいいだろうか。

    「!?…え、動いた……?」

    僅かだが、内側から叩いたような衝撃が手に伝わってきた。思わず落としてしまうところだった。
    中には生き物が入っているとでも言うのだろうか。ハトじゃあるまいし。第一、ハトはこんなに小さくない。

    覚悟を決め、変なものでないことを祈りながら、ゆっくりと箱を開けてみる。
    中を覗くと────目が合った。大きな空色の瞳がこちらをじっと見つめていた。
    「なんだこれ………??」
    何かのキャラクターをデフォルメしたようなぬいぐるみだった。ぬいぐるみがクッションに包まれている。
    いや違う。ぬいぐるみではない。少なくとも、ただのぬいぐるみなどではない。

    そのちいさな人型の何かは、その大きな目でぱちぱちとまばたきをすると、ひょいと立ち上がる。箱の縁に手をかけて、こちらを見つめてくる。
    「え、っと……こ、こんにちは?」
    「きさま」
    「ひぇっ…」
    喋った!!!いや、その前に動いている!!!
    混乱している思考を必死に落ち着かせようとしていると、そのちいさな人型の生き物がその箱から出ようと奮闘しているのが目に入った。しかし、脚が短すぎるせいで全く届いていない。縁にすら脚がかかっていない。
    顔を真っ赤にしながら必死に出ようとしている姿に思わず笑ってしまう。

    親猫が仔猫の首根っこを咥えて運ぶように、ちいさな生き物が着ている服をつまんで持ち上げる。
    すぐそばの作業机に置くと、びっくりした様子だった生き物の眉間にキュッとしわが寄る。かと思えば、怒ったように机をぺちぺちと叩き始める。
    「あ、手伝わない方が良かった?」
    確かに途中で勝手に手を出してしまったのは、気分を損ねられても仕方のないことだったかもしれない。だからといって自力で出るのも少々厳しいものだったとも思うが。

    しかし、机を叩く手は止まらない。
    違うのだろうか。
    原因がわからず、首を捻る。すると今度は片手で首の後ろをぽんぽんと叩く。
    「ん?…………ああ、服をつままれたのが気に入らなかったのか」
    そうだと言うように、ちいさい生き物が頷く。
    「そっかそっか、ごめんね」
    幼い子どものようにも思えて、片手にすっぽり収まるサイズの頭を軽く撫でる。感触は普通の人間の髪の毛と同じだった。茶髪に金が混じっている。独特な髪型だが、既視感がある。
    撫でた瞬間、驚いたのか怒ったのか、ちいさな身体が硬直する。
    「あ、これもダメか。ごめんごめん」
    手をパッと離して、即座に謝る。なかなか気難しい性格のようだ。
    ちいさな生き物は頭に手をあてて────腕が短いせいで、撫でられた部分には届いていないが────何やら考えこんでいる。

    「わるくない」
    「……?」
    顔を上げたちいさな生き物は、やや興奮気味に手をぱたぱたと動かす。
    「貴様に俺の頭をなでることを許可する」
    「ウォッ…」
    急に流暢に話し始めた。どうしようかと迷っていると、生き物の手の動きが激しくなる。早く撫でろと言いたいのだろう。
    「あっ、じゃあ…はい、失礼します…」
    再びそっと手を頭に置き、優しく撫でる。
    ちいさな生き物は目を細め、元から桜色に染まっていたふっくらとした頬を更に紅潮させる。
    つい、その頬を指でつついてしまった。ふにふにと柔らかく、大福のような手触りだ。それがいけなかった。

    ぺしっ!
    予想以上の威力で指をはたかれる。眉を吊り上げ、ふんふんと鼻息荒く怒り始めてしまった。
    頭を撫でるのは良いのに、顔をつつくのはダメなのか。普通はダメだろう、と冷静な自分が言う。
    「ごめんね」
    そう言って再び頭を撫でると、徐々に怒りはおさまっていったようだった。案外チョロいのかもしれない。
    出会って数分だが、おそらくこの生き物は怒りっぽい性格であろうということはわかった。しかし、かなり簡単に懐柔できそうでもある。頭を撫でる以外の好みも見つけておこう。
    そうしたら頬をつついてもそこまで問題にはなるまい。あの感触は一度味わうだけでは足りない。はまってしまいそうだ。


    と、流れで自然に受け入れてしまったが、これは一体なんなのだ。どういう状況なんだ。
    「……ねえ、名前はなんていうのかな?」
    まさかと思いつつ、名前を訊いてみる。いつまでも生き物呼ばわりするわけにもいかないだろうし。
    「ケイだ」
    「ケイ……やっぱりそうか…。スターレスって知ってる?」
    「ああ。俺が働いている場所だな」
    なんでもないことのように頷いているが、大変困ったことになった。

    スターレスとは都会の片隅にあるショーレストランだ。そこでは毎日、男たちがステージに立って客を喜ばせる。そんなスターレスの、ある意味常連である僕の最推しの名前はケイという。彼の風貌や醸し出す雰囲気から『ケイ様』と敬称をつけて呼ぶ客は多い。僕もその一人だ。
    ちなみにスターレスの客のほとんどは女性だ。僕のような冴えない男の客は珍しい。

    そして、彼の名を名乗り、特徴がほぼ一致するちいさなマスコットのような生物。大問題だ。
    今頃、スターレスでは騒ぎになっているかもしれない。その前に、なぜ小さくなった(?)彼が梱包されて、僕の家に届いたのか。
    「ど、どうしよう……」
    背筋に嫌なものが走る。スターレスに送った方がいいだろうか。しかし、こうして生きて話せる物体を再び梱包するのは気が引ける。だからといって直接持っていくのも変なことに巻き込まれそうで嫌だ。

    「何を慌てているのかは大方予想はつくが、問題はない」
    「どういうこと?」
    「俺は二人いるのだ」
    「………はい??」
    「大きいサイズの俺とちいさいサイズの俺がいる。俺は見ての通りちいさい方だ。気に食わぬがな」
    「いや、わかんない。説明雑すぎない?」
    もう少し丁寧に説明してくれと言うと、マスコットはやれやれと首を振りながら肩をすくめる。かわいい。
    「まったく。この理解力のない、どんくさそうな男が下僕とは、俺もつくづく運が悪い」
    「すごいディスるね、君」
    その上、サラッと下僕呼ばわりだ。見た目は可愛らしいが、性格には難ありか。だがしかし、ケイ様に下僕と呼ばれていると考えると興奮する。ご褒美だ。見た目は全く違うが。

    ふと作業机に置いてあるもちころりんや、ぬいが目に入る。大きさはこの動くマスコットと同程度だろうか。多少マスコットの方が大きいくらいだ。
    「あ」
    「なんだ」
    「君って、これみたいなもの?」
    そう言って、ケイ様を象ったぬいを手にとりマスコットの前に持ってくる。
    「…………そんなものと同じにしてもらっては困る。俺は金で買えるような存在ではない」
    「…まあ、確かに君のこと買った覚えはないけど」
    「だが、俺がオリジナルのケイから生まれた存在であることには相違ない」

    なんだかよくわからないが、スターレスのケイ様と、このちいさなケイ様は性格や特徴は同じであれ、別の存在であるということらしい。
    「スターレスに行けば、元の俺がいるだろう。見ればわかる」
    と、本人(?)も言っている。

    「じゃあ、もう一つ訊くけど、なんで僕の家に君が送られてきたの?」
    「知らぬ」
    「えぇ……」
    そうきっぱり言われてしまうと、掘り下げようもない。これではどうすれば良いのかわからない。
    「うーん………君のことはスターレスに持って───連れて行った方がいいのかな?」
    「その必要はない」
    ちいさなケイ様は、その短い腕を組み、丸い腹を出してふんぞり返る。



    「貴様は今日から俺の下僕であり、この家の主人は俺になるのだ」
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