1/367光に透ける金色の髪が好き。力の強い大きな身体が好き。笑っちゃうくらい似合ってるサングラスも、その下に隠れてるただただ綺麗な青い瞳も好き。
体中に着けてるキラッキラでごついアクセサリーも、シャツもライダージャケットも、武者装束も全部似合ってる。格好いいものが好きで、可愛いものが好きで、ゴールデンならなんでも好きで、それを素敵だと思える気持ちが好き。タバコやお酒が大好きなのも、それをわたしの前では遠慮してるとこも好きだよ。低い声も、ハイテンションでカタカナ語を連発してる声ももちろん好き。
絶対に正しいことなんて何処にもないって知っていて、それでもいつも正しくあろうとする、その姿が一番好き。家族や仲間を大切にしているところが好き。誰にでも分け隔てがないところも好き。走ってきた道を、多分いびつで、何度も躓きかけて、痛いこともいっぱいあったのに、それでも後悔はないんだって、そうやって強がれるところはもっと好き。
そしてきっと、本当の願いを誰にも言えないまま、今も一人で抱えている。
そういう不器用な貴方のことが、わたしは好き。
「はいこれ、受け取って!」
「おお、今年もサンキューな大将!……お?」
手渡したチョコレートは特別製だ。青くてリボンがついていて、ヨハンナの祈りが込められている。中身もちょっとだけ工夫して、くまちゃんの形にしてみた。正真正銘、彼のためだけに作ったチョコ。
「コイツは……」
「ふっふーん。なんとね、それを食べたら神様のご加護があって、ここから3週間くらいすんごい力が湧いてくるんだって!それ聞いて、張り切っちゃった」
見た目からして明らかに他と違うチョコを受け取って、彼はちょっと戸惑っていた。
だからなるべく軽快に続ける。
「それね、全部のチョコの中で、2個だけなんだよ。材料も特別で量がないし、ヨハンナも大変だから。わたしの気持ち、わかるよね?」
「大将……」
「ふふふ、大好きだよ金時!頼りにしてる!」
青い箱を見つめる身体を軽く叩く。眉を寄せて笑った金時が、もう一度チョコを見る。
「二個、つったか」
「うん」
「……ちなみによ。あー、嫌なら別に言わなくても良いんだが。もう一つは誰にやるんだ?」
「これ?」
紙袋からピンクのリボンがついたチョコレートを取り出す。
金時が持っているのと色違いで、ストロベリーの入ったチョコ。こっちの中身はスタンダードにハートの形。
「はい、あげる」
「なっ」
青い箱に重ねるようにピンクのそれを乗せる。
思った通り、困惑する金時がおかしくて、つい
笑っちゃう。
「もう一個はね、誰にあげるか決められなくて。金時にあげるから誰かに渡してよ」
「は!?いやけどよ、これ大将が作ったんだろ、だいたいバレンタインつーのは」
「返品受け付けませーん、お引き取りくださーい」
焦る金時の大きな背中に手のひらを当てて、ぐいぐいと部屋の外まで押していく。
廊下についても、金時はまだ困った顔をしていた。ほんとにブレないなぁ。そういうところも好きなんだけどね。
「それ、ストロベリーだから女の子に送るのがおすすめだよ!年に一回の愛の祭典、金時も楽しんで〜〜!」
これ以上、わたしの出る幕はない。あのチョコをどうするのかは金時が決めればそれで良い。
だからドアが閉まるまで手を振って、それから部屋にロックを掛けた。
途端に静かになる部屋の中で、わたしはぼんやりつま先を見る。
バレンタインデーは愛の祭典。だからわたしはわたしの送れる全部を渡した。
どうかわたしの好きな人に、神様のご加護がありますように。
今だけの都合のいい信仰を聞き届けてくれる、そんな優しい神様がいるのかどうか────祈っておいて身勝手なわたしは、しばらく結果は知りたくないなと、そう思った。