雪は振りつつ辺りは暗くなりかけている。
だというのに、地面から月光を受けて輝く銀が視界一面を満たしているためか、かすかに明るい。
雪だ。
しずしずと降り続けている。
昨日の九ッ時を過ぎた頃から降り注ぎ続けるそれは、すっかり京を白銀へ塗り変えてしまった。
もはやあえてこの時に外出しようなどというものは少なく、通りの人の気は薄い。
足跡をくっきりと残していた道も、止まぬ雪が更にまっさらを重ねてゆく。
安倍晴明は釣殿で柱に背を預け、どこを見るでもなく湯気と共に酒を口に運んでいる。
無色な静寂がその場を包んでいた。
ふと、晴明は庭に視線をやる。
なにやら音が聞こえる。
よろけながら不規則に、しかし段々と近づいてくるそれは、新雪を踏み鳴らす音である。
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