神様なんて神父様は心優しい青年だ。
まだ若いにも関わらず、教会の神父を勤めており、それでいてたくさんの人からの信仰を集めている。
かく言う私もその一人だ。
彼の話す言葉は人々の心を動かし、良い影響を与えてくれる。
名を鬼伏千隼。
いつの間にか、私は彼を心から信頼し、心を許していた。
さて、今日はミサの日。
だが、何かがおかしい。
いつも静かな教会だが、今日はいつにも増して静まり返っている。
それも無気味な程に。
あまりの雰囲気に気圧されるも、意を決して扉を開く。
するとそこには赤い血溜まり。
見間違いか?目を擦る。
目を開けると、先程よりも鮮明な赤色と血の匂いにくらくらしてきた。
「……え?」
「ああ、今日も来てくれたんだね。」
神父様の声。
手には黒く光る銃が握られており、服は血塗れ。
まるでこの世の者ではないような姿に目を疑う。
「し、神父様……?こ、これは一体?」
「ああ、これかい?みんな『救って』あげたんだ。」
何を言っているのか分からない。
「この人は1000万以上の借金を背負っているし、この人は親が殺人を犯して町を追いやられた。」
神父様はこちらにゆっくりと歩み寄ると、顔をぐっと近づける。
「可哀想だろう?みんな不幸に取り憑かれてしまったんだ。」
ぞっとした。
彼は普段の様子からは想像も出来ないような狂気じみた笑みを浮かべていたのだ。
「人は神様をどうして信じるんだろうね?だって見た事すら無いじゃないか。」
「それに比べて死は救いだ。全ての苦しみから解放され、楽になれるんだから。」
手を掴まれ、身動きが取れなくなる。
まずい、逃げられない。
「大丈夫だよ。私に任せてくれれば何も怖くない。」
彼の顔がさらに近づく。
「君も救いを求めてここに来たんでしょう?」
「た、たすけ……」
「次産まれてくる時は、神様になんて惑わされちゃダメだよ。」
それじゃあ、さよなら。
神父様の口元が、三日月のように歪む。
引き金を引く音と共に私の意識は消えていった。