一陽来復 一年でいちばん昼が短い冬至の日だけあって、あっというまに陽は傾き、薄闇の帳が下りるとともに冷え込みが厳しくなってきた。明るく輝く歳星を一番星とし、星々がまたたきはじめている。
「聶の二の若君は、こちらでしたか」
夜目にも白い校服をまとった藍氏の修士が声をかけた。
「夕餉の刻限につき、お戻りくださいませ」
「ありがとう、わかりました」
聶懐桑は星辰を観察した書きつけを片づけ、立ち上がった。ここは厳格で知られる藍氏の仙府、雲深不知処。我が道を行く聶懐桑といえども、聶氏の本拠地である不浄世にいるときのように自由気ままにはふるまえない。
懐桑の吐く息が白くなった。濃い青紫の空に、黒く建物の陰が浮かんでいた。
1232