think of me ねえ、大哥はおぼえている?
あの春の日の、ふたりだけの結婚式。
木立を抜けたところに広がる草原と、荘厳な建物。いまにしておもえば、キャンプ場も併設しているような広大な公園のなかなのだけど。
やわらかな草のあいだでシロツメクサやタンポポといった素朴な野の花々をつみ、小さな花束を作った。花冠を作りたかったけど、幼い私では作り方がわからなかったし、一緒にいる大哥はもっと知らないだろう。
「大哥、懐桑とけっこんしきしよ」
テレビで見た結婚式の花嫁さんが、真っ白なベールに、後ろに長く伸びたウェディングドレスを着て、かわいらしいブーケを持っているのに憧れた。どこもかしこも華やかで美しくて、花嫁さんの輝くように幸せな笑顔に、自分も同じことをやってみたかった。
結婚とは、大好きな人とずっと一緒にいること。それなら、私は大哥としか結婚しない。
「け、結婚式ごっこ……」
懐桑にはまだ早いとかなんとか口ごもった大哥は、それでも私のお願いを聞いてくれた。
「お花とー、あ、ゆびわがいる!」
大哥の指に、やっとできるようになった丸結びでシロツメクサをくくりつけて、指輪にした。指の白い花を見下ろした大哥が、少し笑った。気をよくした私は、大哥にせがんだ。
「大哥も懐桑にゆびわつくって!」
困った顔をした大哥は、リュックをゴソゴソと探した。大哥はお菓子を入れたビニール袋をとめている銀色のビニタイをはずし、それをねじって輪を作った。針金の先が刺さらないか確認してから、大哥はまるまるとした私の指に、銀色の指輪をそっとはめた。
「わあ、すごい……大哥、ありがとう」
「どういたしまして」
シロツメクサの指輪がはずれないように気をつけながら、大哥が私のあたまをなでた。
「大哥、だいすき!」
今日は私の結婚式。
繊細な純白のレースをあしらったマリアベールが後ろに流れる。結婚式らしいのはベールだけで、シンプルな黒いシャツを着ていた。
ふたりきりの結婚式だから。
ベールをおさえた私の指には、銀色の細い指輪が輝いている。
あのときのビニタイで作った指輪は、いまでも小箱に入れて大切にしまっている。そんなものは捨てろと大哥はいうけど、私は知っているんだ。大哥だって、カサカサにひからびて、触ったらバラバラになりそうなシロツメクサの指輪を、こっそりしまいこんでいることを。
大哥の目は潤み、いまにも泣き出しそうだった。ふふ、ばかだね、大哥。これからはいつでも一緒なのに。
私は足を踏み出した。