よくぼう「スナイダー…っ…」
背後から苦し気な声と共に、俺の兄、エンフィールドが、ぎゅうっと抱き着いてきた。
ジョージに借りた漫画を読み終え、そろそろ寝ようかとテーブルの上を片付けて立ち上がった時だった。
俺は何事だと振り返る。
そこには熱い吐息を漏らすエンフィールドの姿があった。
いつもは涼やかなその顔には焦りの色が見える。
どうしたのだろう。
「何かあったのか?」
そう尋ねてもエンフィールドは何も答えず、ただ黙って俺を見つめてくるだけだ。
「どうしたエンフィールド?体調が悪いのか?……っ?」
ごり、と硬いモノが俺の尻に当たる。いや、当たるというより尻の肉に押し付けられている。
「スナイダー……ヤらせて?」
「はぁ…………またか?」
俺たち貴銃士は元は銃だが、人間の姿を与えられ、自分で思考し戦う存在となった。
しかしそれ故に、肉体やら感情やらの煩わしさも付き纏う。
性衝動というものもその1つだ。
俺には性衝動というものがよく分からないが、俺よりも人間に近い思考や感情を持っているらしい兄は、度々それに悩まされていた。
そしてその度に、俺が相手をしてやっている。
一般生徒達から『頭が良く、スポーツも出来て、愛想が良く、気が利いて優しい、優等生のエンフィールド君』と呼ばれている兄なら相手など選び放題だろうに。
「誰にもこんな姿は見せたくない」と、ただ手軽だからという理由だけで俺を選んだのだ。
「チッ……」
思わず舌打ちが出る。
俺はこの兄の事が嫌いではない。
むしろ好ましく思っている。
けれどそれは、ただ俺の強さを認めさせて改造してやりたいというだけのものだ。
女のように抱かれて愛されたい訳じゃない。
……そのはず、だったのだが。
「スナイダー……いいかい?」
甘えるような声を出されると、どうにも断れない。
「……好きにしろ」
「うん……ありがとう」
答えると同時に唇を奪われる。
「んぅ……ちゅく……ふぁ……」
舌先を合わせているうちに力が抜けて立って居られなくなる。
腰を支えられて2段ベッドの下のベッドへと押し倒された。
キスをしたままパジャマを剥かれ、あっという間に全裸にされてしまう。
……本当に、この男は。
こういう事をさらりとスマートにやってのけるから始末が悪い。
「お前も脱げ」と言うように胸元を軽く叩くと、素直に従ってくれた。
鍛えられた身体が現れる。
程よくついた筋肉が男らしくて綺麗だと思う。
じっと見上げているとちゅ、ちゅ、と触れるように軽く口づけられた。
同時に、大きな手で全身をまさぐられる。
「…んッ……ぁ……ふ……」
耳の裏や首筋を撫で回されるとくすぐったくて身じろぎしてしまう。
「…ひァ…ッ!?」
胸の先端を引っ掻かれるとぴくんと肩が跳ねた。
「……ん…!…ッ!……ゃ……」
そこばかり執拗に責め立てられると変な気分になってくる。
じんわりとした快感が広がり、もっと触ってほしいと思ってしまう。
俺の変化に気付いたエンフィールドは満足そうに笑うと、今度は下半身に手を伸ばしてきた。
既に反応していた陰茎を強く握られ、そのまま上下にしごかれた。
「んっ!……あ、あぁ……ひっ!?」
先端を指先でぐりぐりと押されると腰が跳ねてしまう。
「気持ちいい?」
「うるさい」
俺は短く答えて目を逸らす。
そんな俺の反応を楽しむかのようにエンフィールドは笑みを深め、俺の脚を広げさせて後孔に触れた。
その指はぬるりとした液体をたっぷりと纏っている。
おそらくローションとかいうやつだろう。
それを塗り込むようにして縁の辺りを刺激する。
何度も繰り返されている行為だが、やはり違和感がある。
「うぁ……はぁ……ん……っく……」
「もうちょっと力抜いて」
「むり、だ……!」
中に入り込んだ指先がゆっくりと奥まで進んでいく。
エンフィールドは探るように抜き差しを繰り返しながら少しずつ俺の中を押し広げていった。
「ん、ぁ……く……うぅ……ぁ……は、ぁ……?」
ある一点を擦られた時だった。
ぞくり、と言いようのない感覚が背筋を走る。
「ここ?」
エンフィールドが楽し気に笑い、その部分を集中的に刺激し始めた。
「ひぃ……ッ!!や、やめろ……ぁ……ああぁ!!」
強い快楽が押し寄せてきて、思わず悲鳴のような声が出てしまった。
「ふふっ」
エンフィールドは嬉々として俺の弱い部分を攻め立て始めた。
「やぁ……!あぁ……はぁ……!んん……!や……ぁ……!」
2本の指がバラバラに動き回り、内壁を押し広げ、探るように腸壁に触れられ、時折腹側にある膨らみを引っ掻いてくる。
その度に身体がビクビクと震えた。
やがて3本目が入る頃には、すっかり息が上がってしまっていた。
「はーっ、はーっ、うう……はぁ……」
苦しさに涙が滲む。
しかしエンフィールドは容赦なく、3本の指を動かし続けた。
「も、いい……はやく……挿れろ……っ」
「ふふっ、なあに?スナイダーも僕が欲しくなっちゃった?」
エンフィールドが楽しそうに笑う。
「……妙な勘違いをするな。俺はただ、1分1秒でも早く終わらせたいだけだ」
睨んでやれば、エンフィールドは苦しそうな笑みを見せた。
「つれないなぁ……。君らしいけど」
「ッ…………」
ずるり、と俺の中から指が引き抜かれる。
「ねえ、君はどうして僕の相手をしてくれるの?
……親切心?同情?それとも内心では僕を馬鹿にしてるのかな?」
「…………」
……別に、馬鹿にしているつもりも哀れんでいるつもりも無い。
ただ、エンフィールドが苦しそうな顔をしているのを放っておく事が出来ないだけだ。
そう伝えた所でこの兄は信じはしないだろうが。
「……まあ、どうでも良いか。スナイダー、力を抜いていてね」
エンフィールドがパジャマのズボンの前を開き、下着をずらす。
現れた性器は硬く勃ち上がり先走りを零していた。
……俺で興奮したのだろうか。
一瞬そんな考えが頭を過ったが、すぐにどうでもいい事だと思い直して目を閉じた。
「入れるね」
エンフィールドが覆い被さってくる。
熱く硬いものが押し当てられ、一気に貫かれた。
「―――~~ッ!!!」
声にならない叫びが上がる。
身体が勝手に仰け反ってびくんと跳ね上がった。
目の前がチカチカする。
いつも思うが、何故この男のものはこんなに大きいのか。
大浴場で一般生徒や他の貴銃士を何度か見かけた事があるが、俺が知る限り、エンフィールドのモノはかなり大きい部類だ。
圧迫感と痛みに喘いでいると、エンフィールドがそっと頬に手を添えてきた。
「スナイダー、ゆっくりでいいから……ちゃんと息をして」
「は……ふぅ……はぁ……ふ……」
言われた通りに何とか深呼吸を繰り返す。
その間に少しずつ挿入が深くなっていく。
「んっ、く……はぁ……」
全てを収めると、エンフィールドが俺を強く抱き締めた。
「はあ……スナイダー……」
耳元に囁かれる声は、普段の爽やかな好青年とはかけ離れた艶を帯びている。
そんな声で俺の名を呼ばないでくれ。
ぞくりと背筋に震えが走る。
……その感覚が何なのかはよく分からない。
(こいつは今どんな顔をして、何を考えているのだろう?)
そんな事を考えそうになり、俺は唇を引き結んでエンフィールドの首に顔を埋めた。
――気付いてはいけない。
――気付かれたら終わりだ。
エンフィールドは俺の事を弟だと思っている。
だからこうして抱いている。
つまり……エンフィールドの俺に対する認識が弟で無くなれば、抱かなくなる、かも知れない。
それで、良い筈だ。
それが正しい兄弟の筈だ。
そう思うのに、どうやら俺はこの関係を失う事が怖いらしい。
だから、俺が俺自身の中に芽生えた感情を認める訳にはいかない。
――気付いてはいけない。
――気付かれてはいけない。
――頼むから。
――いつまでも、俺をお前の弟でいさせてくれ。
「……スナイダー」
また名を呼ばれる。
その度に心の奥底から湧き上がってくる得体の知れない衝動を必死に抑え込む。
エンフィールドの背中に腕を回す。
密着するとより一層繋がりが強くなる。
その状態でゆっくりと腰を揺すられた。
熱い欲棒が中を行き来する度、甘い痺れが全身に広がる。
最初は苦痛しかなかった行為だが、今はもうすっかり慣れてしまった。
否、それどころか、悪くないとさえ感じている。
「んっ!んんっ!はぁ、んっ…!」
次第に抽挿が激しくなる。
ベッドがきしきしと音を立て、肌同士がぶつかる音が響き、結合部から漏れる水音が大きくなる。
「スナイダー……スナイダー……ッ!」
エンフィールドは何度も何度も俺の名前を呼んだ。
「んっ、ふぁ……!あ……!んん……っあ!」
突かれているのは腹なのに、何故か胸が内側から張り裂けそうに痛む。
苦しい。痛い。熱い。気持ちいい。
様々な感覚が押し寄せてきて思考が追いつかない。
もう何も考えられない。何も考えたくない。
もう嫌だ。
「エンフィ…ルド……はやく……終わらせてくれ……っ」
「うん、もうすぐだから……」
そう言って更に激しくなった動きに、俺はただただ翻弄され続けた。
「はっ、はっ、スナイダー……」
荒々しい息遣いと共に名前を呼ばれる。
ぐちゃぐちゃと卑猥な水音と肌同士がぶつかる音が響く。
「ああ!あっ!あっ!んんっ!や、やめ……っ!ひあっ!ああああああああ!!」
一際強く突き上げられ、視界が真っ白になる。
それと同時に、中にどくりと温かいものが注がれたのを感じた。
「……、はー……はー……はー……」
荒い息を繰り返しているうちに段々と意識が戻ってくる。
「スナイダー、大丈夫かい?」
エンフィールドが心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
俺は小さく溜め息を吐いた。
「平気だ。それより、終わったなら早く出て行け」
エンフィールドは困ったように笑う。
そしてゆっくりと腰を引いた。
どろりと精液が流れ出る感触に眉を寄せる。
ようやく解放された。
疲れた。眠い。もうこのまま寝てしまいたい。
ぼんやりとしていると、不意に肩を抱き上げられ、くるりとうつ伏せに倒された。
その上に、エンフィールドが再び覆い被さってくる。
「……おい」
「ごめんね、まだ足りないみたい」
「ふざけるな」
「だって……」
言いながら、再び硬度を取り戻しつつある自身を押し付けてくる。
……嘘だろう?
「スナイダー、もう一回だけ付き合ってくれないかな?そうしたら終わるから」
懇願するような口調だが有無を言わさない圧を感じる。
「はぁ……」
俺は目を閉じた。
きっとまた胸が苦しくなるだけだ。
そう理解しているのに。
それなのに。
「……1回だけだからな」
俺はいつだって、この兄の頼みを断れない――。
【終】