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    mikoto151310

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    14サンド共有√の作業進捗という名の尻叩き
    『業火の兆し』の続きのようなもの。ラスティしか出てません

    #ラス6
    Rusty/621

    14サンド共有√序章視界に映った人影に、目を疑った。信じ難い光景に絶句する。こんな所に居てはいけない人間だった。居てほしくない人間だった。

    「……戦、友」
    余りにも頼りない、か細い声が地下室に響く。
    ここは再教育センター。アーキバスの所有する、眉を顰めるような非人道的所業が行われている施設である。
    そんな所に、戦友─強化人間C4-621が居る。経緯は分からないが、理由は分かる。621はどのような形であれアーキバスに敗れ、その強さが故に生け捕りにされ、ここに連れてこられたのだ。
    聞けば、戦友はハンドラー・ウォルターの指示のもと、アーキバスの先行調査打ち切りを無視して技研都市に侵入したのだと言う。そしてV.Ⅵメーテルリンクとかつて自分が殲滅したレッドガンの元G3五花梅を撃破し、バスキュラープラントに辿り着いて、技研の遺物と交戦。死闘の末撃破したところを、スネイルが生け捕りにしたらしい。
    それを知ったのは全てが終わった後だった。そう言えば、とスネイルに嫌味のように教えられ、飛び出てきたのだ。戦友がこう成り果てているのは間違いなくスネイルの指示だろう。地下室に殺意が充満する。ああ、あの嘲笑う顔を引き裂いてやりたかった。

    恐る恐る近づくと、戦友の姿が明瞭になる。
    「…………は、」
    それは余りにも惨憺な在り様だった。その身体が傷ついていない所など1つも無く、血の赤と痣の青だけが色鮮やかだった。上はファクトリー行きも考えていたのだろうか、四肢を1度切断しかけた痕もあった。いつの日だったか、戦友が飼い主に褒められたのだと嬉しそうに語った身体は蹂躙され尽くされ、任務で獲た給料で買った本物の肌のような人工肌は切り裂かれて、よく似合っていた人工髪は乱雑に切り落とされていた。爪は全て剥がれ落ち、枷で繋がれているとはいえ念の為か、足の腱は両脚とも切られていた。特に目に付いたのは、頭だった。装置が幾つも付けられており、目はゴーグルのようなもので覆われている。その装置が脳を弄り回し精神を壊す機器であることを、ラスティは知っていた。特に精神力が強く拷問に屈しない者に使われるが、それ故に残虐性はどんな拷問機器よりも高い。この装置を宛てがわれた者の殆どは廃人となり、残りの少数は発狂死したことが証拠である。
    ゾッと血の気が引いて、傍にある報告書を盗み見る。見たところ、まだ戦友は廃人となってはいないらしい。その精神の頑強さにホッとしたが、それでも半透明のゴーグルから薄らと見えるその虚ろな瞳は、過去に対面で会ったときに僅かに感じられた人間性の欠片も無い。暗く黒く、さながら虚ろのようだった。
    別に、拷問を受けた姿を見たのが初めてだった訳じゃない。ラスティは良くも悪くも、残酷なものを見慣れている。ルビコンという惑星は哀しいかな、残酷無比かつ非情なものと半世紀以上前から密接な関係にあり、そこに生まれ落ちたラスティも当然その渦中に居た。幾つもの同士が口を割らずに凄惨に死んだのも見てきたし、大義の為に自らも手を汚してきた。自分は人心掌握に長けていたのか、そういった役目を任されることも多かった。その点においては、人よりも多く経験してきたと言えるだろう。
    だから、その点で驚くことはない。だが、戦友だけは違うと、思っていた。あの翼は誰にも届くことはないのだと、そう思っていた。撃ち落とすことなど土台無理で、何人たりとも──それは自分も含め──その翼を穢すことは叶わない存在なのだと、そう思い込んでいた。
    だが、現実はご覧の有様だ。何者にも撃ち落とされないと思い込んでいた鴉は無惨に地面に叩きのめされて、肉体も尊厳も蹂躙された。
    蹂躙と凌辱に蝕まれた友の姿を見たとき、何かの線が切れたのを感じた。プツンと呆気ないほど軽く切れたその線は、きっと切れてはならない線だった。途端、情念の業火が渦巻いて、雪崩のように理性を覆う。今までの価値観が圧倒的な暴力に屈するように塗り潰されていくのが分かった。
    その線が切れた瞬間、ラスティの全てが変わった気がした。

    「──ああ、そうか。最初から、そうすれば良かったのか」
    「迷っている時間が無駄だった。自分はハナから、そういう奴だろうに」
    「は、はは、ははははは───」
    壊れた機械じみた笑い声が独房に響き渡る。自嘲の笑みは止まらない。壊れたレコーダーのように、ラスティの口からどんどん零れ落ちていく。否、最早自分はどうしようもなく壊れている。たった今、壊れたのだ。
    分かっていた。ハンドラー・ウォルターの猟犬である以上、戦友が傷つくことは避けられない。そうとわかった上で過酷な戦場を駆ける友を美しいと思っていたし、それを尊重したいと思っていた。だけどそれと同じくらい、君を死地に追いやり利用する、ハンドラー・ウォルターが嫌いで仕方がなかった。だがそれもきっと、後付けの理由だ。ただ自分は、あの輝ける星に首輪を付けて、戦友の情を恣にする飼い主が、気に食わなかったのだ。ただ、それだって押し殺し続けた。戦友の為を思うならば、それを自分の欲で穢していい訳がないと、必死に見て見ぬふりをし続けた。……だが、もういいだろう。
    分かっていた。全て、分かっていたつもりだった。自分の中にある戦友への憧憬も、執着も、独占欲も、所有欲も。そして、戦友に常に思われる飼い主への嫉妬心も、憎悪も。全部、把握していると思い込んでいた。自嘲の笑みを浮かべる。自分の中にある情念は、自分が思っていた以上に強く、重い、業火のようなものだった。そしてこれは、最早止められない。その線はたった今切れてしまったのだから。あとはただ、燎原の火の如く、全てを薪として燃え盛るだけ。
    ハンドラー・ウォルターには621は守れない。例えどれだけ情深くとも、死地に向かわせることを命じている以上それは避けられない。同じく使命を胸に生きているからこそ、気持ちは分かる。だが、これだけは認められない。…もういいだろう。十分鴉は飼い主の為に羽ばたいた。だからもう、傷だらけの鴉を守ってもいいだろう。守ろうとしてもいいだろう。傲慢だとしても、それでも。そしてそれを、ハンドラー・ウォルターの猟犬である以上叶えられないのだとしたら。ならば──自分のモノにしても、いいだろう。
    それでも戦友は、ここまで傷ついて尚ウォルターの為に尽くすのだろう。しかしそれを、ラスティは許せない。これ以上ウォルターの為に傷つく鴉を許せない。例え、他ならぬ本人から恨まれ、憎まれたとしても。
    (……ああ、でも。君自身にも責任はあるよ、戦友)
    621が自分の正体を見抜いているかは知らないが、解放戦線の同士から聞いた話によると、レイヴンは他任務よりも解放戦線の任務を選んでいるらしい。事実、ホーキンスとペイターは621によって撃破された。それを聞いて、ラスティは更に621に自分の手を取って欲しいと渇望するようになった。取り付く島がないのならこの欲もまだ抑えられただろうが、そんな素振りをされてしまえば“本当の”戦友になれるかもしれないと期待してしまうのも当然のことで。
    それは女々しいにも程がある責任転嫁。でも、やっぱり撤回は出来なかった。君のせいでもあるのだと、少しだけ思ってしまうことを許してほしいと少し願った。

    「ほんの少し待っていてくれ、戦友」
    ラスティは跪いて、壊れかけのガラス細工に触れるように、そっと621の頬を撫でた。例え意識が無いとしても、傷だらけの身体が、僅かにも痛みを感じることのないように。そして、こつん と額を重ねる。伏せていた目を開けて間近で621の目を見たが、そこに生気は無く、ただ愚かな男の姿が反射して映るだけのビー玉のようだった。621の虚ろとした目にラスティが映ることは無かったが、それでも良かった。いつか必ず、その瞳に光を宿らせると静かに誓う。
    スっと立ち上がり、戦友に背を向け足早に歩き出す。いっそ全速力で走りたかったが、アーキバスの目がある以上それは難しかった。しかし、出来る限り速くラスティは駆けた。

    策はある。理性を以て堰き止めていた業火は箍が外れた瞬間瞬く間にラスティの心を燃やし、元々他よりも優れていた脳はそれをエネルギーに621を手に入れる為の策を次々と導き出していった。無数に思いついた策の中で、1番ラスティにとって望ましい策のシミュレーションを脳内で行う。だが、どうしても一手足りない。それは唐突だったが故の下準備の無さも1つの要因だが、何より決定打が足りなかった。脳内で何パターンものシミュレーションを行ったが、どうしたって最後で詰む。勿論成し得る可能性が0という訳では無いが、この計画においては確実に成功させたい。楽観的な希望には縋りきれなかった。
    自分1人だけでは成しえない事実に歯噛みし、舌打ちをする。逆に言えば、その一手さえあれば事は成せる。その事実に散々思い悩んだ結果、ラスティは断腸の思いで確実な手を取ると決めた。
    ただラスティは、あの男を釣る報酬について考えるのが億劫だった。無償で協力してもらう、なんてことは考えちゃいないが、そもそも金で言うことを聞くような人間じゃないため金というのは論外。報酬において誰もが当然の如く望み、誰もが分かりやすく頷く金が駄目なら、相手の望む報酬を用意しなければならない。それがACの最新の装備などなら幾らでも出すが、あの男は頷かないだろう。
    …あの男がそれ以上に欲しいものがあることを、ラスティはきっと誰よりも知っている。他でもない、同じ穴の狢として。かといってそれを渡すつもりは毛頭ない。ならば共有、という手になるが。
    (──あの男と戦友を共有するなんて反吐が出るな)
    ラスティは深く重く、溜息をついた。それでも、成さねばならないことがある。成してみせると誓ったことがある。ならばラスティはただ、駆けるだけだ。
    そうと決めれば行くべき場所など決まっている。相棒が居るガレージに向かう道中、挨拶と共に敬礼してくる部下を蹴り殺してやりたいという思いを押し殺しながら、「お疲れ」と言葉を返す。いつも通り笑えているかは分からなかった。それを気にする余裕は無かったし、最早どうでもよかった。
    ガレージに到着し、コックピットに乗り込む。首裏にあるACの接続端子とACを接続させ、相棒を起動させる。少し無茶をさせるが許してくれ、と独りごちて、スティールヘイズの操縦桿を強く握りしめる。そして外への扉が開いた瞬間、スティールヘイズはアサルトブーストを以て羽ばたいた。ジェネレーターに大きく負荷をかけるような荒い運転など普段は決してしなかったが、今だけは時間が惜しくて仕方がない。もっと、もっとと気が逸り、無意識に舌打ちが漏れる。身体に襲いかかる負荷も、人体を潰すようなGも今のラスティにはどうでもよかった。
    狼が駆ける目的地はただ1つ。あの忌々しい男がいるであろう、ヴェスパーの基地である。
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