供出 また一人新しい狩人の首を切った。頭を失った切断面から激しく血が吹き出して、それは助言者の装束を赤く染め上げた。
花々の中に頽れて霧散するそれを見送り、ふうと一つため息をつく。
今回の「新しい狩人」は少し強情だった。強く、意志も固く、聡い狩人で、心優しくもあり……しかし、それ故に下らない勘繰りをしてしまったのだろう。
「新しい狩人」は助言者にこう言ってきたのだ。
〝あなたは此処で狩人を狩り続けているのでしょう。そんなお辛い役目などやめてしまって良い、もうあなたはこんな場所に囚われ続けなくたって良いはずです〟……と。
助言者はその言葉を思い出し、小さく頭を振った。
――何もわかっていない。
と、その時だ。花畑が煌々とした光に輝きを帯びて、一帯に甘く花のような香りが広がった。俄かに助言者の心臓が跳ね上がり、彼はその「月の香り」のするほうへ振り返った。
「ああ、来たのか」
香りの源であろう異形は空から降り立つと助言者の体を両手で包み、そして唸りながら頭を擦り寄せてきた。口も舌もない貌は、しかし助言者が今しがた得たばかりの血の遺志を啜り舐めた。
異形はしばしののち貌を上げると、低い唸り声を上げた。どうやら「足りなかった」らしい。
助言者はその異形の貌に手を触れ、そっとなぞった。
「すまない。久しぶりに夜明けまで『保った』狩人だから、もう少し遺志も多いと踏んでいたんだが……」
謝罪をしながら少し困ったように微笑む助言者の身に、異形から伸びる触手がゆっくりと絡みついてゆく。それは手に、足に、胴に巻きついて、そして助言者を白い花々の咲く地面へ組み敷かせた。異形は低い唸り声を上げながら、再び助言者の胴に貌を擦り付けた。それを受け、彼は自らの装束の留め金に手をかけた。
……供物が足りないなら、自らを供出するだけのことだ。それに、その補填を担うことはそんなに悪い気がするものでもなかった。
緩めた装束の隙間から、異形の神の一部が入り込んでくる。肌を這う感触が、漏れ聞こえる静かな唸り声が、助言者の中の何かをふつふつと沸き立たせてくる。彼は目を細めて、目の前の愛しい存在をじっと見つめた。
「……どうぞ、いくらでも、お好きなように」
すると間もなく、ごぼりという音が聞こえた。助言者の意識は朦朧とし、そして心地よさの中にゆっくりと揺蕩い始める。
眼前のうつくしい神が彼の体を抱き締める。強く、強く。離すまいとするように。
――ああ、神は今自分だけを見ている。他の者ではなく、自分を。
そんな自惚れた満足感を覚えながら、助言者は静かにその目を閉じた。