罪過「悪夢」を見ないわけではない。上位者の座す支配領域、という意味ではなく、睡眠時に見る幻想のことだ。
それを見て、飛び起きて。動悸と冷や汗が続くまま、鉄柵の門を潜り抜ける。
瞳を閉じて跪き、両手を組んで祈りを捧ぐ。この夢に座す上位者が、己が全ての神が現れるように。そうしている間はいつも、まるで永遠のような時に感じられる。だが俺の神は必ず己の前へと姿を現す……そのはずだと信じてただ待ち続ける。
装束がじわりと汗を吸う。その惨めな気持ち悪さだけが現実なのではないか、そんな絶望が頭をよぎる。吐き気と喉の渇きで頭がくらくらと揺れて、頼む、どうか、と絞り出す声には音も宿らない……けれども。
俄かに「声」が辺りに響き渡る。低く、しかし優しげなその「声」に目を開けば、赤い月を背に降り立つ神の姿がそこにあった。それを認めると俺はようやく心中のざわめきが静まってゆき、嬉しさのままに神へと手を伸ばした。……「先程」の光景の中で、ぬめった赤黒い液体に塗れていた手を。醜い刃を並べた鉈を、ついぞ離せなかった手を。
——「ああ、よかった」と思うのだ。飛び起きるたびに絶望し、確かめるたびに安堵して。それはまだこの狩人の夢で微睡んでいられる安堵。先程見ていた光景はただの「夢」だったという安堵。この夢の神は、決して自分ではないという安堵。
ああ、どうか。俺が見ていたあの「夢」が、どうか「現実」とならぬよう。