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    らくがきとSSと進捗/R18含
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    2018/01/30 過去作投稿
    「少年の瞳」
    ---
    8話にて一緒に行動していた時のカグツチとレックスの話です。(2022/07/06)

    ##SS
    ##Xb2
    ##Xenoblade

    少年の瞳昼とも夜ともつかぬ、雷鳴と嵐の音が響き渡る、業と死の大地。
    モルスの断崖から落下しバラバラに引き裂かれたレックス一行は、遠い過去に滅びた未知の大地で束の間の休息を取っていた。

    「レックス。休んでいるところ悪いけど、少しいいかしら?」
    手頃な瓦礫に腰掛けてヒカリと話していたレックスの元に、カグツチが歩み寄っていく。話し込んでいたレックスは、掛けられた声の方へと顔を向けた。
    「ん、何?カグツチ」
    「私の武器の使い方、分かるかしら。軽く訓練をしておくべきじゃないかと思って……。急ぎたい時ではあるけど、こういう時だからこそ、ね」
    ああ、とレックスが声を上げる。このような、あまり戦力が十分といえない状況だ。一人しかいないドライバーのレックスを手助けするため、カグツチは先程戦闘での協力を申し出たのだった。
    「確かに。多少は覚えておかないとな」
    レックスはそう返事をすると、横に座っていたヒカリにちょっと待ってて、と声を掛け、瓦礫から立ち上がってカグツチの後ろについて行った。
    二人は少し開けた空き地に向かう。モルスの地はそこら中が崩れており探索が困難なこともあったが、その割に踏み締める大地は固く、平地を歩くぶんには疲れにくい場所だった。カグツチは周囲を見渡して武器を振るうに十分な広さであることを確認すると、己のコアクリスタルに触れ、二本のサーベルを発生させた。そして振り返ってそれをレックスへと手渡すと、カグツチは少し離れた場所にある瓦礫の小山を指差した。
    「そうね……、じゃあまずは、あの瓦礫に向けて剣を振ってみてくれる?」
    レックスは指示に頷く。軽くサーベルをしならせ、その刃をいとも容易く瓦礫に命中させた。カグツチは続けて指示を出す。スパン、スパン、と小気味よい音を立て、レックスはカグツチの指示した瓦礫を打ってゆく。
    「……そう、そんな感じよ。その調子」
    指示を続けながら、思わずカグツチはレックスの武器捌きに感嘆した。
    ブレイドの武器はブレイドとドライバーを繋ぐものだ。武器というものの殆どは、訓練をしなければ戦闘において使い物になどならない。しかし、同調し、エンゲージしたブレイドの武器を握れば、多くのドライバーは使用したことがない武器であっても自ずと武器の振るい方を思い描くことができる。ブレイドが生まれながらにして己の武器の扱い方を体得しているのと同じような原理だろうか。
    だが、それを差し引いてもレックスの武器捌きは見事だった。マスタードライバーとしての力と、彼の天賦の戦いの才能がそれを生み出していた。
    カグツチはレックスにエーテルエネルギーを送り続けながら、今度は先程より離れたところに雪崩れた瓦礫を指した。
    「それじゃあレックス、今度はあそこの山。いくつか弾き飛ばせる?」
    「オッケー!」
    レックスはすぐに返事を返すと、指定された二つ三つの雪崩を素早く打ち払った。そこまで見届けると、カグツチはエーテルエネルギーの供給をやめ、レックスへと歩みを進めた。
    「……なるほど。そこまで扱いを心配する必要はなさそうね。これで安心して貴方に力を貸せるわ」
    カグツチの言葉にレックスは振り向き、本当?と笑いかける。レックスは、カグツチの想像よりも遥かに上手くサーベルを扱っている様を見せた。咎めるところなど何もない。
    「うん、それなら助かる。わざわざありがとう、カグツチ」
    「こちらこそ」

    まだレックスの旅への同道が始まったばかりの頃。カグツチは最初、レックスのことを信用しきれていなかった。天の聖杯のドライバーとはいえ、所詮ただの子供。ただ純粋に目を輝かせて、希望を胸に抱いて。ひたすらにまっすぐ前を向く少年の姿は、カグツチには危うい、とても脆い存在に見えていた。きっとこの少年は、いつか必ず立ち止まってしまう時がくる。そしてその予感は的中した。ホムラとヒカリを奪われたことで一度は折れかけ、彼は全てを投げ出して自分達の前から立ち去ろうとした。
    しかし、エルピス霊洞での試練を乗り超え、そしてモルスの断崖での強い決意を表したレックスの姿を目にしたことで、カグツチの考えは変化していった。
    レックスは一度ホムラとヒカリを失ったことで、新たな強さを手にしていた。マスタードライバーとしての力――それだけではない。もっと別の力、この世界で生きていくための、一番大切な力を。

    「さて、それじゃあこれで訓練はお終いにしましょうか。先を急ぎましょう」
    カグツチの言葉にレックスは頷くと、瓦礫に腰掛けて待っているヒカリの元へと駆けていった。カグツチはその後ろ姿を眺め、ふう、とため息をついた。
    安心した。……そう、レックスに関しては、だ。
    実を言えば、こんな時に武器の扱い方の指導など、どうでもよかったのだ。確かにこのモルスの地でレックスと共に戦う以上、その訓練は役に立つに違いない。だが、マスタードライバーとなったレックスが己の力を十分に扱えることなど、分かりきっていたことではないか。
    かといって、別段それが不快だったわけではない。かつてのカグツチであればそれを嫌がったかもしれないが、彼女は既にレックスを認めていた。
    本当の目的は訓練自体ではなかった。
    カグツチはただ、逸る気持ちを抑えたかったのだ。
    腰に下げた短剣に手を掛ける。柄に指が触れ、カグツチはそっとそれを握り締めた。
    「……メレフ様…」
    ――かつてこの短剣を自分に贈ったドライバーは、今何処にいるのだろうか。


    「メレフ様……!本当に、ご無事でなによりです」
    カグツチの心配とは裏腹に、レックス一行はついにジーク達との合流を果たした。
    五百年前は共に戦った仲間であり、今は帝国――そして世界の敵となったシンを取り逃がすことになったのは悔やまれたが。それでもようやく再会を果たせた己のドライバーの姿を確認すると、不安に揺れていたカグツチの心は徐々に落ち着きを取り戻していった。
    一体どれだけの時間、離れていたのだろう。半日とも、一日とも。それとも、もっと長く、あるいはずっと短かったかもしれない。だが厚い雲海が頭上高く広がるこのモルスの地では、日の明るさすらなく、かといって身動きが取れないほどの闇に包まれているわけでもなく、時間感覚などとうに狂ってしまっていた。

    『――メレフ様ッ』
    先程の戦いの時。カグツチはメレフの姿を認めた瞬間、彼女のいる方へと駆け出していた。すとん、と高台から眼前に降り立ったメレフのサーベルからは殆どエーテルが失われており、武器のクリスタルは今にも消えてしまいそうなほど弱々しい光を放っていた。察するにメレフはアーツを使用せず、ただ己の身に付けていた剣術のみで敵をいなしていたのだろう。だが、それでもブレイドの武器はブレイドから供給されるエーテルの力がなければ本来の力を発揮できない。
    あと少し合流が遅ければ、彼女のサーベルは折れていたことだろう。
    はは、とまるで軽い冗談でも言うかのように、メレフはそれを笑い飛ばした。笑いごとではないのに、とカグツチは思ったが、それを口には出せなかった。何故そんな軽口を叩いたかぐらい、想像できぬカグツチではない。メレフが下らない冗談を好む性質ではないことはよく知っていた。
    それに、己だって似たようなことをしていたと言っても差し支えないではないか。そう、レックスに訓練すると声を掛けて。だがそれは、本当は全く別の意図で。恐らく、メレフは――……

    「ところでカグツチ」
    浮遊していたカグツチの意識を、メレフの呼び声が引き戻す。カグツチは慌てて返事をした。
    「……!はい、どうなさいましたか、メレフ様」
    顔を上げて見たメレフの顔は、普段と変わらぬ冷静さを湛えていた。
    「……レックス達を守ってくれたんだろう?よくやってくれた。彼らが、そしてお前が無事で……、本当に良かった」
    彼女はそう、仲間と己のブレイドの身を案じていたことを告げた。自分自身も窮地に陥っていたであろうに、メレフはただじっとカグツチを見据え、僅かに微笑んだ。
    「……メレフ様……」
    その言葉に、カグツチは喜びと安堵と、己がドライバーの傍らに在ることができなかった無念を僅かに感じ、そして。
    「………ッ」
    さっと、カグツチの顔が青ざめた。自分はとんでもないことをしたのだ、と気づいた彼女は、身が凍るような錯覚を覚えた。
    ――そうだ、自分は。『彼』と共に戦っていたというのに。
    カグツチは強く拳を握り締めた。
    「メレフ様……、私は……、レックスに謝らなければ」
    失礼します、と断ると、カグツチは身を翻し少し離れた後方を歩いていたレックスの方へと駆け寄った。
    そうだ、確かにメレフは己のたった一人の主人に違いない。しかし、いくら己のドライバーが心配だったとはいえ、戦闘中に飛び出していくなどあまりにも軽率だった。愚かだ。これでは、それまで力を合わせてくれたレックスに申し訳が立たないではないか――
    「レックス」
    レックスは駆け寄ってきたカグツチを見上げた。新たな力を得てなおあどけなさの残る大きな瞳が、カグツチを捉える。カグツチはそっと胸に手を当て、レックスに頭を下げた。
    「……レックス、ごめんなさい。戦いの最中だったのに、私は貴方から――」
    「カグツチ」
    そのカグツチの言葉を遮ったのは、レックスの声だった。
    「気にすることないよ。……だって、カグツチのやったことは正しいから」
    カグツチの喉が僅かに音を立てる。少年の声に、カグツチは何も言うことができなくなってしまった。そんなカグツチに、レックスは言葉を続けた。
    「離ればなれになったメレフをカグツチが心配することがおかしいなんて、オレは思わないな。それに、ハナだって一目散にトラのところへ飛んでいってただろ?……ジーク達が向こうでどういう状況だったかは分からないけど。多分同じ状況になったら、ビャッコもサイカも。きっと、同じことしたよね」
    そこまで言うとレックスは、一行で一番先頭を歩いていたトラとハナを見やった。ハナはしっかりとトラの傍に寄り添っていた。心なしか、普段より僅かに両者の距離が近いようにも見える。一見無表情にも見えてしまいがちな、けれども人一倍優しい心根を持つ機械仕掛けの少女は、ただ穏やかな眼差しで主人を見つめていた。
    いや、彼ら二人だけではなかった。皆同じだった。言葉は交わさなくとも、皆ドライバーとブレイド同士でお互いの無事を喜び合っていた。
    「だからさ」
    レックスがカグツチに振り返る。
    「カグツチはメレフの傍にいてよ。それで、また戦いの時に力を貸してほしい。メレフと一緒にね」
    まっすぐな瞳。それは彼の偽りなき本心に違いなかった。誰よりも仲間を大切に想う、純粋なレックスの。
    カグツチは再び手のひらを握った。しかし、それは悔恨ではなく。そして、レックスに向けてゆっくりと頷く。
    「……分かったわ。約束する」

    「……どうだ?話はできたか?」
    自分の元へと戻ってきたカグツチの顔を見て、メレフは彼女に声を掛けた。それを受け、カグツチは安堵した声で返事をする。
    「はい。……もう、大丈夫です」
    カグツチの顔に、もう必要以上に自分を責める色はなかった。かけがえのない、己のたった一人のドライバーの元へ戻ったカグツチは、晴ればれとした顔で再びレックスの姿を見つめた。
    「……ありがとう。貴方の力を信じるわ、レックス」
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