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    🥗/swr

    らくがきとSSと進捗/R18含
    ゲーム8割/創作2割くらい
    ⚠️軽度の怪我・出血/子供化/ケモノ
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    2018/05/06 過去作投稿
    ---
    エンディング後、インヴィディアとスペルビア間で祝宴が催されたという設定の話。
    カグメレというよりメレカグっぽい話です。
    以前書いた『Peafowl』より少し前の時間軸イメージですが、『Peafowl』を読んでなくてもお読みいただけます。
    やや後ろ暗いです。(2022/07/07)

    ##SS
    ##Xb2
    ##Xenoblade

    あなたにふさわしいひと「……やはりこのような格好は慣れないな」
    やや覚束ない足取りで歩いていたメレフが、居心地悪そうにぼやいた。はぁとため息をついて立ち止まり、高いヒールの靴を履いた己の脚先を伸ばして眺めているメレフの元に、カグツチが歩み寄る。
    「脚が痛みますか?」
    そう言ってメレフの肩にそっと手をかける。伸ばされた脚先に視線をやると、その踵あたりがやや赤くなっているのが見えた。
    「そうだな……少し。さっさと着替えてしまいたいよ」
    メレフはそう返すと爪先を眺めるのをやめ、一つ苦笑を見せて再び歩き始めた。その彼女をカグツチも追う。

    その日はインヴィディアの賓客を招いての盛大な祝宴が催されたのだ。祝宴はインヴィディアとの正式な国交回復を記念して行われたものだった。生まれ変わった世界では以前では考えられなかったようなことが次々と起こっていた。大昔から犬猿の仲で小競り合いばかりを続けてきたインヴィディアとスペルビアも、空前絶後のアルストの危機を乗り越えた今では共に手を取り合い歩み寄る姿勢を持とうという考えが広まりつつあった。
    長いアルストの歴史でも何度も刻まれてきた両国の諍いが終焉を迎える日が来るのかもしれない──そんな期待に渦巻いた大規模な祝賀の宴だ。祝宴や歓迎の催しなどに出席することを好まないメレフでさえ、その席に顔を見せない訳にはいかなかった。だから普段なら絶対身につけないような裾の長いドレスを身にまとい、普段はしまい込んでいる黒髪を美しく結い上げ、煌びやかな装飾品を付け、履き慣れない高いヒールの靴を履いたのだ。
    その普段とはあまりに異なる装いのせいで、メレフの挙動はややぎこちなかった。衆目の前でよろめいたり強張った動きを見せたりした訳ではなかったが、この状態では剣も振るえまい──いや、祝宴の場で剣を振るう事案など起きては困るのだが──とその後ろ姿を見ながらカグツチは思い巡らせた。
    さしものスペルビア特別執権官、炎の輝公子とあろう者であっても、得意でないことくらいある。人間は万能ではない。


    二人はようやくメレフの自室にたどり着いた。やや憔悴したような色を浮かべているメレフの代わりに鍵を外して扉を開き、入室を促す。メレフはカグツチに「ありがとう」と一言告げて室内へと進んでいった。よほど疲れていたのか、彼女は灯りもつけずまっすぐに寝台の方へと向かい、沈み込むようにそこへ腰掛けて大きくため息をついた。
    「……ああ、さすがに堪えた。脚がもう限界だ」
    カグツチはそのメレフを横目に見ながら寝台近くのクローゼットを開いた。てきぱきとした仕草で着替えと替えの靴を見繕い、それを抱えてメレフの元へと向かう。
    「どうぞ。お化粧も落とされますか?」
    カグツチが持ってきた着替えと交換するように、メレフは既に外していた装飾品を手渡しながら頷く。
    「ああ、そうする。頼めるか」
    「ええ」
    カグツチは再び体を返し、今度は鏡台の前へと向かう。一番下の引き出しは装飾品入れになっていた。普段は軍服を身にまとい宝石に彩られた華美な装飾品など滅多に身につけない彼女のそれには数えるほどのアクセサリーしか収められていなかった。そこに渡された装飾品をしまうと、アクセサリー入れとは逆に様々な化粧品が並ぶ棚に手を伸ばし、化粧落としやコットン、ブラシなどを持って戻っていった。寝台脇のテーブルに持ってきた物を並べようと目を落とすと、そこには紙切れや小物のようなものが雑多に転がされていた。
    「……メレフ様、これは──」
    そう尋ねかけたカグツチの言葉に、
    「ああそれか。適当によけておいてくれ」
    ぞんざいな返答が覆いかぶさってきた。カグツチの声に少しだけ戸惑いが漏れ出す。
    「ええと……、では執務用の机に移動させておきましょうか」
    「いや、必要ない。捨ててくれればいい」
    それに対して先程より強い口調で返される。どこか冷たさすら感じる硬い声だった。しかしそのままそれらを屑かごに放り込むのは気が引けた。カグツチは無言のままそれらを机の端に寄せ、できたスペースに持ってきた手荷物を並べると、一つため息をついてメレフの横に腰掛けた。
    「……先程受け取った品ではありませんか。明日の朝にでも目を通してはいかがですか」
    「内容など知れている。不要なものだ」
    「……『インヴィディア六大貴族』のものもありますが。本当によろしいので?」
    わざとその送り主達の身の上を口にする。すると横に腰掛けている主人の眉が僅かにひそめられた。
    「……なんだ。今日はいやに突っかかってくるな。お前らしくもない」
    「別に……そのようなつもりはございません。ただの進言です」
    カグツチの言葉に返しあぐねたのか、メレフはしばし沈黙した。着慣れないドレスから着替えようとしていたのだろう、先程手渡され、手に持ったままだった替えのシャツの裾をつまらなさそうにもてあそんでいる。
    「……私はそのようなものが欲しくてあの場に出た訳ではない」
    知っている。そう、言葉が喉まで出かかった。しかしカグツチは口を結んでそれを堪え、メレフの言葉を聞いていた。
    「……私は…………、私が……欲しいのは、そんなものではない……」
    零れるように紡がれる言葉には、気づけば苦悩の色が滲んでいた。その声色にカグツチは胸のコアクリスタルがどくんと脈打つかのような感覚を覚えた。
    メレフが唐突にカグツチへと向き直る。唇が微かに震えているように見えた。
    「……カグツチ、……わたし、は……」
    わなわなと震える口元から、普段の彼女からは想像できないほど弱々しい声が漏れた。瞳は『何か』を切望するかのように緋色を揺らめかせている。その瞳に捉えられ、カグツチの身は動くことができなくなってしまった。
    メレフの手が頰に触れた。するりと撫でられ、カグツチはくすぐったさを覚えて思わず息を詰めた。早く立ち上がって離れろと理性が激しく警鐘を鳴らしたが、カグツチの脚はちっとも言うことを聞かなかった。そしてその動きの停止した影に、もう一つの影が重なった。

    「──っん……」

    それは空虚な口づけだった。
    空っぽだった。
    唇は幾度となく深く重なり合い、けれど、ただの縋り付く所作でしかないメレフのそれは、カグツチの胸の内を言いようもなく焦げ付かせた。
    メレフは唇を離すとはあと息を吐き、眼前の蒼炎を見た。カグツチはそれを呆然と見つめ返す。予測していたことをされただけなのに、思考が酷くざわめきたっていた。
    「……カグ、ツチ…………」
    すると、メレフのか細い声が聞こえた。静寂に支配された暗い部屋の中で、それは驚くほどはっきりと聞き取ることができた。窓から差し込む僅かな星光が二人を照らす。淡い光に晒されて見えたメレフの表情は隠しきれない哀切の色が滲んでいた。悔いるように目を逸らし、拳をきつく握り締める彼女の姿に胸の内がかき乱された。とっさに動こうとした身体を、理性で無理矢理縛り付けた。
    彼女の肉の薄い腰を手繰り寄せ、その耳元に甘い毒を囁きたいという衝動がカグツチの理性をぐらぐらと揺り動かす。

    ──告げたい。
    告げたい。
    誘いなど全てお断りすれば良い、貴女の傍には自分だけが在れば良いではないか──と。

    ああきっと彼女だってそれを強く望んでいるに違いないと、カグツチは確信めいた想いを持っていた。
    ……だがそれは、自分に許された権利ではない。

    「メレフ、さま」
    手も差し伸べられないまま、カグツチは己の「主人」の名を呟いた。その声にメレフの肩が微かに反応を見せる。瞳が苦しげに瞬いて、その秀麗な面持ちが歪みを見せた。そして忘れていた呼吸を思い出したかのように少しだけ息を吸い込むと、
    「カグツチ……ッ」
    メレフは再びカグツチの唇を奪った。
    その勢いで、カグツチは寝台に押し付けられるような格好になった。求め合うその箇所は火傷しそうなくらい熱い。カグツチの白い首筋にかけられたメレフの手に力がこもる。カグツチもまた寄せられた主人の腰を引き寄せようとしかけたが、シーツを握り締めてその欲求を抑えた。メレフに唇を吸われ、堪らない喜悦によってカグツチの肩がびくりと飛び跳ねた。
    「──んっ……う、………」

    ──何の意味もない。ただの、彼女の現実逃避に付き合うだけの。
    そう、それは「慰め」の口づけでしかなかった。
    空っぽの口づけを繰り返しても満たされることなどない。だがカグツチはメレフが自分を求めてくれる時を待っていた。望んでいた。心の底から。
    切なげに翳りを帯びた瞳を揺らめかせている彼女の苦痛を少しでも和らげたい──そう願った。しかし彼女の要求を受け入れる「以上」のことなどできなかった。
    己は彼女を「望んで」はならない。そう思うと胸に灼け切れるかのような不愉快な熱が走る。自ら口づけを返すことすら自分には許されていない。だから彼女が己を求める時を待って、待って、待ち焦がれていた。
    離れたくない。己を、己だけを、メレフに欲してほしい。自分からそれを願い出ることは許されない。何故なら自分は帝国の宝珠で、従者で、ブレイドなのだから。
    他の誰のものにもなってほしくなかった。自分だけの主人であってほしかった。そんなことは不可能だ。メレフは人間で、スペルビアの特別執権官で、ドライバーなのだから。

    「っ、は──ぁ…………」
    ようやく唇が離れる。乱れた呼吸をしているその口元は互いに艶めかしい艶を見せていた。メレフの沈痛な面持ちは和らいでなどいなかった。
    「……すまない……。……馬鹿な、ことを」
    そう苦しげに漏らされた謝罪に、カグツチは肯定も否定もできなかった。頭の中では、拒絶できなかった己を『従者』失格だと罵倒する言葉と、それを押し潰さんばかりに渦巻く欲望で決壊しそうになっていた。
    溢れ出てしまいそうなその不相応な欲求を必死に噛み殺し、カグツチはぎこちなくメレフに微笑みかけた。

    「……今日は、お疲れでしょう。お着替えになって、もう……お休みください」

    その言葉に己を押し倒すような姿勢で俯いていたメレフの身体が強張った。そしてしばらくの沈黙の後、ようやく身体を起こしカグツチからおずおずと離れると、放られたシャツを再び手に取りそれを強く握り締めた。
    「……そう、だな」
    カグツチは身体を起こす。着替え始めたメレフから目を背けながら、そのままふらふらと立ち上がり出入り口へと歩み始めた。恐らく祝宴会場ではつきようがないはずの皺がついてしまったであろうドレスを預かって片付けてしまいたかったが、情けないことにあのまま冷静な顔でメレフの寝支度を手伝えるほどの理性は残っていなかった。
    扉に手をかけ、カグツチは振り返らぬまま精一杯平坦な声を絞り出した。
    「……それでは……私は、失礼致します。……お休みなさいませ、メレフ様」
    すると遠くから、声が聞こえた。それは、とても、とても悲しげな色を滲ませていた。

    「…………ああ、お休み──カグツチ」
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