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    🥗/swr

    らくがきとSSと進捗/R18含
    ゲーム8割/創作2割くらい
    ⚠️軽度の怪我・出血/子供化/ケモノ
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    2018/06/12 過去作投稿
    ---
    エンディング後、一緒に旅行に行く計画を立ているメレフとカグツチの話。
    七話、八話のドライバーとブレイドについての会話内容を含みます。
    夢の話→『傲慢たる揺らめきは』
    約束の話→『救恤の極光の下で』

    ##SS
    ##Xb2
    ##Xenoblade

    いつかの憧憬「……それで、今度の休暇はどこへ行く?」
    メレフは執務用の机上に積まれた書類の束に目を通しながら、少し離れたところでてきぱきと明日の支度をしているカグツチに声をかけた。カグツチは手を止めずにふいとメレフへと顔を向け、軽く微笑みを返す。
    「メレフ様の向かわれたい場所でよろしいのでは?」
    「それに悩んでいるから尋ねているんだろう」
    そのカグツチの返答にメレフは書類から顔を上げ、少し困ったように笑いながらカグツチに返した。そのメレフの表情を見て、カグツチもクスクスと笑う。
    「ふふ、失礼致しました」
    メレフは手にしていた書類を机上に置いた。長時間酷使していた目を休めるようにその瞳を閉じ、一つため息をつく。
    「カグツチはどこか行きたい場所はあるか?」
    「私、ですか?」
    カグツチはメレフの問いに軽く首を傾げた。支度する手を止め、思案する様子を見せる。
    「そうですね……、フォンス・マイム……でしょうか。ですが、まだ私達が二人で赴くのは難しいかと」
    「フォンス・マイムか……。はは、確かに少し難があるな」
    メレフは小さく笑いながら、部屋の窓際にふいと視線を投げた。そこには薄桃色の花を絶えず咲かせている、若木の鉢が置かれていた。それはアルストの変容後、長く断絶されていたインヴィディアとスペルビア両国の国交回復を記念し、彼の国から贈られた友好の証だった。
    豊富な水源に恵まれ、独自の美しい自然を持つインヴィディア。その民に愛され続けてきたそのサフロージュは、未だ砂塵吹き荒ぶ乾いたスペルビアの大地に根付かせるには壌土や気候が違いすぎた。そのため贈られたのは室内庭園向けの若木が多く、メレフの部屋に置かれたのはその内の一つであった。
    「……国交が回復したとはいえ、まだ日が浅い。私もまたあの街でサフロージュの木々を見たかったが」
    メレフは立ち上がり、窓際のサフロージュへと歩み寄って行く。夜の帳が降りれば自然とその花弁に淡い光を湛えるこの木は、大木であればそれこそ息を呑む程の美しさを誇る。この小さな若木ではその壮麗たる景色を再現するには到底及ばないが、彼女達にかつての旅の途中のひと時を思い出させるには十分であった。メレフは惜しむような目でサフロージュを眺めながら、呟くように言った。
    「……まあ、こればかりは仕方ない。またいずれあの街へ行けるよう、努力せねばな」
    「そうですね、仰る通りです」
    カグツチもまた頷く。望み薄だと分かりきっていた願いが叶わないことに落胆する様子はなかったが、カグツチもまた苦笑してサフロージュの鉢を見つめた。メレフは再び休暇の行き先について思案するため、沈黙して視線をぼんやりと彷徨わせる。そしてはたと何かを思いついたように彼女は動きを止めた。
    「……そうだ、リベラリタスはどうだ?」
    その言葉にカグツチはきょとんとした表情でメレフの顔を見た。メレフはそのカグツチに向けて嬉しそうに言葉を続けた。
    「ほら、前に約束していただろう?旅をしていた頃、またいつかオーロラを見に行こうと」
    「約束…………」
    そのメレフの言葉をカグツチは繰り返す。カグツチはメレフに向き直ると、少し照れたようにはにかんだ笑顔を見せた。
    「……覚えていてくださったのですね」
    カグツチはメレフの元へと歩み寄って行った。傍らまで来たカグツチに向け、メレフは微笑して頷く。
    「忘れるはずがない」
    リベラリタス島嶼群。天の聖杯達の旅に同道し、初めて降り立った地。かつて従弟と過ごした平穏の時を思い出させるような安息の地。いつだったか、とある恋人達の成就を手助けしたこともあった。
    「懐かしいな。あの地にも様々な思い出がある」
    メレフは記憶に思いを馳せるように言葉を紡ぐ。
    「全て覚えている。約束だけではない、あの時の楽しみも、苦難も……」
    切れ長の目を僅かに伏せ、メレフは傍らに立ったカグツチの「とある場所」に視線を落とした。
    「――それに、羨望もな」
    メレフの手がカグツチの胸元に伸ばされる。カグツチはただ黙ってそれを見ていた。傷一つない白い指先が、カグツチのコアクリスタルにそっと触れた。
    「――――……」
    その指先の感触にカグツチは息を詰めた。メレフは人差し指の先でコアの表面をついとなぞり、カグツチをまっすぐと見据える。カグツチは困惑したように眉を下げた。
    「め……メレフ様、その――」
    言葉に詰まり、カグツチは顔を背けようとした。だがそのカグツチの頰を、先程までコアに触れていた手のひらが包む。その手はするりと肌をひと撫でしたかと思うとカグツチの顎を軽く引き寄せ、その動きを止めさせた。
    音はない。数秒の沈黙の後、メレフは重ねた唇を離すと目の前で固まっているカグツチに向けて一つ微笑した。
    「……大丈夫だ。もう私は……『それ』を欲しようとは思わない」
    カグツチはまだ戸惑いに身を固くしている。なぜ、と言いたげな表情を自分に向けているカグツチに答えるように、メレフは先程よりもさらに小さな声で言葉を紡いだ。
    「……世界樹でのニアの問いかけを覚えているか?」
    沈黙の落ちた室内に、カグツチの喉の鳴る音が響いた。メレフは黙ってカグツチを見据えながら彼女の言葉を待っていた。
    「…………はい」
    カグツチの手が、自らの頰を包んでいたメレフの手に重なる。カグツチは触れた手を愛しげに握ると、ようやくメレフに向けて笑みを浮かべた。
    「忘れる理由などありません」

    天空を貫くようにそびえた巨大な建造物。そこに座する「神」に会うために、そして世界を守るために頂を目指したその最中。旅を共にしていた仲間の一人である少女、ニアが一行のブレイド達に向けた問い。
    それは、「ドライバーがいなくなった後も、コアに戻らず己の生を続けたいか」。
    ブレイドはドライバーなくして存在し得ない。その世界の理を覆し、ただ己のみで生きること。それに憧れを抱くブレイドは恐らくこの広いアルストのどこかに存在していることだろう。
    だが、彼らはそれを選ばなかった。一行のブレイド達の、誰一人として。
    ――そして、そのニアの問いかけに真っ先に答えたのは、カグツチだった。

    「……エルピス霊洞での一件以来、私はよく……『悪夢』を見るようになったよ。……何度も、何度も」
    メレフは僅かな物音にすらかき消えそうなほどの声量で呟く。カグツチはメレフの手を握ったまま、それを聞いていた。
    「……私も同じです」

    夢の内容など、聞き出すまでもなかった。
    単純極まりない、悍ましい「夢」。それは――禁忌を犯し、本来混じり合うことのない人間とブレイドの細胞を融合させること。
    普通ならば起こり得ない事象。ブレイドが人間の血肉を喰らえば、その身には通常発現し得ない新たな才能をもたらす可能性がある。そして主人亡きままに記憶を保ち、一人きりで生き続けることすらできる。
    逆に人間の身にコアクリスタルを埋め込めば、その身にはブレイドの能力、人としては歪なほどの長い命。そして命を分け合った証として、決して癒えることのない深い傷跡を残す。

    ……それらの甘い「夢」が己を幾度も誘惑してきたという経験は、カグツチ自身にもあった。

    「私も……私もリベラリタスで彼らを羨ましいと思いました。――ですが」
    カグツチはメレフの手のひらを握ったまま、その緋色の瞳を見つめた。緋色は一つ瞬きをして、視線を交差させた。カグツチは深く息を吸い、それからゆっくりと唇を動かした。
    「……私はもう、貴女をお一人にすることも、私が一人になることも望んでいませんから」
    少女の問いかけを聞いた時真っ先に浮かんだ答え。カグツチはそれを今一度メレフに告げた。メレフは視線を逸らさない。カグツチは僅かに微笑を深めた。
    「――私は今この『私』の生涯を、貴女と二人で終わりたい」
    カグツチの言葉にメレフの表情が綻ぶ。目を細め、メレフは至福の表情でカグツチを見つめた。
    「カグツチ――」
    メレフの唇が再びカグツチのそれに重ねられた。カグツチはそれを受け入れるようにメレフの身を抱き寄せる。先程の不意打ちよりもずっと優しく、あたたかかった。触れ合っていた唇が離れる。メレフは閉じていた目を開くと、穏やかな顔のまま言った。
    「……ありがとう。あの時お前がああ言ってくれたから、私は壊れずに済んだ」
    メレフの瞳が瞬く。その顔に憂いの色は一欠片もなかった。カグツチは語りかけるようにメレフへと優しく問うた。
    「……今もまだ『夢』を見ますか?」
    「いいや」
    メレフはそれに向けて首を横に振った。
    「お前がああ言ってくれてからは見ていない。……もう二度と見ないだろうよ」
    その声は柔らかかった。メレフはそう言うともう一度だけカグツチに軽く口づけて、その身をくるりと翻した。そして小さく笑い声を上げ、カグツチの顔を見る。
    「はは、何だか話が逸れてしまったな。……それでは、旅行先はリベラリタスでいいか?」
    どこか子供のような可愛らしさを帯びて嬉しげに笑うメレフの姿に、カグツチも笑みを浮かべる。
    「はい、ではそのように。楽しみですね、メレフ様」
    「ああ」
    返答したメレフは、ふいと私用の机へと視線を移ろわせた。
    「……無事にオーロラも見られれば良いのだがな」
    「……?メレフ様、どうなさいましたか?」
    視線を止めて何かを呟いたメレフへカグツチは問いかけた。だがメレフは軽く首を振り、悪戯っぽい声で返す。
    「いいや、何でもない」
    メレフは何かに思いを馳せるように目を細めた。そして再びカグツチの元へ歩みよると、彼女の左手を両手で包み込んだ。

    「……たまには『他人の真似事』でもしようかと思っていただけだよ」
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