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    らくがきとSSと進捗/R18含
    ゲーム8割/創作2割くらい
    ⚠️軽度の怪我・出血/子供化/ケモノ
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    2020/09/20 過去作投稿
    アンソロジー寄稿作品
    ---
    本編第4話で剣を渡したあと、500年前の悔恨について思いを巡らすミノチの話。
    ※規約の再録制限期間終了のため掲載。

    ##SS
    ##Xb2
    ##Xenoblade

    クリソベリル「ああ、もちろん」
    何の屈託もなく、金の瞳の少年はそう答えた。その手には、二つの色が入り混じったクリスタルを持つ短剣があった。

    それは明け方のインヴィディア王都、フォンス・マイムでの出来事だった。
    その地で人々に紛れて暮らしていたブレイド。彼はミノチといった。彼が孫娘のように大事にしていた人間の子供・イオンを引き金として起こった「イーラ」との戦いは、様々なものを奪い、様々な事実を詳らかにすることとなった。
    旧知の傭兵団長・ヴァンダム。彼に連れられて現れた少年は、共に過ごした期間こそ短いもののその旧友にいたく信頼を置いていたようだった。自分も背中を預けて戦ったことのある者だ、少年の師たり得る人物であることはよく知っていた。その旧友が、命を落とした。奪われたものは還らない。インヴィディアだけでなくアルスト各地でも名を馳せた傭兵団の長は、最早このアルストには存在しないのだ。
    だがミノチの眼前に立つ少年は既に「前」を向いて立っていた。悲しみや悔しさでうずくまることなく。だからこそ、「彼の行く末を見てみたい」そう願ってしまった。聖杯の少女の思いを受けてだけではない、何よりミノチ自身が、彼の切り開く未来がどんなものかを知りたいと思ってしまったのだ。
    託した自身の欠片——ミノチの短剣は、赤と青の淡い光を湛えたまま、少年の手にしっかりと握られていた。


    「ああ、ここまででいいぞイオン。ありがとうな」
    手を引かれ、劇場内の自室の椅子に腰掛ける。数刻程度しか離れていなかったというのに、何故だか酷く久しぶりに戻ってきたような心地がした。皺の寄った顔を上げれば、水色の髪の少女と視線がぶつかった。
    「ほんとう?じゃあ今日はゆっくりしててね
    、おじいちゃん」
    自身を気遣う言葉を言う少女だが、その顔の曇りの方がよほど心配だった。無理もない、自らの過ちでひとりの人間が命を落としてしまった——そんな自責の念に彼女は押しつぶされそうになっているのだ。ミノチは微かに頬を緩め、彼女の手に触れた。
    「イオン」
    触れた少女の手が怯えたように強張った。だがミノチはそのままゆっくりと言葉を続けた。
    「……自分を責めることはない。ヴァンダムはお前を守った。わしはお前が生きていてくれたことが嬉しい」
    嘘偽りのない思いだった。ただそれを分かってほしかった。
    ヴァンダムという友人が失われたこと。それはミノチにとって言うまでもなく辛く、悲しく、憤りすら覚える事実に違いなかった。だがそれ以上に、彼が彼女を守ってくれたこと、そしてそのお陰で彼女は今生きて、自身の傍らにいるのだということ。それを心から嬉しく思う気持ちもまた、ミノチにとっては事実だった。
    少女の眉が下がる。たった数時間前の出来事だ。心に負った生々しい傷跡が癒えているはずもない。だがミノチはそのまま真っ直ぐに彼女を見続けた。そうしてしばらくのち、少女はようやく泣き笑いの表情を浮かべて小さく頷いた。
    「うん。…………うん……」


    しばらくして泣き止んだイオンは、そろそろ食事の支度をするねと言ってミノチの部屋を後にした。その後ろ姿を見送ったあと、ミノチは再び半日ほど前の出来事を思い返した。
    イーラ。雲海の下で暗躍する秘密結社……と、噂程度にしか知らない組織ではあった。しかし五百年前駆け抜けたあの国とは別の存在だということは火を見るより明らかだ。
    五百年前、イーラ王国は沈んだ。自分自身の目で見た。イーラ王家は滅びたのだ。滅びたはずの国の名を用いて活動する彼らの考えは、今のミノチには分からなかった。あの時対面した者の一人は、自分と同じドライバーと同調した者だというのに。
    「ドライバー……か」
    そこまで考えたところで胸の中が曇るような感覚を覚える。
    ドライバー。自身というブレイドにとって、たった一人の同調者。それだけではない。あの鋼色の瞳を持った「聖杯」と同調したドライバー。そして何より、この身を忌避の存在とされる「マンイーター」へと変えた者。彼はまだ、この世に生きている。大戦後、ミノチは当てもなくアルストを放浪していた。法王庁には寄り付かなかったが、いつだったかとある町の噂で聞いたアーケディア法王の名はいつの間にか彼の男のものに代わっていて。そして“奇妙なことに”、それが再び代わったという話は一度も聞かない。
    聖杯達との邂逅、友人の死。この短いあいだに起きた目まぐるしい一連の騒動、そして彼の男の記憶の断片。それらのせいか、ミノチの胸中の燻りは坂を転がる石のように増していく。だがそれは怒りではなく、もっと別の感情だった。ミノチはため息をつき、そして引き出しからあるものを取り出して眺めた。それは本来二丁で一対となる自身の武器のもう一つの短剣と、古びた一冊の脚本だった。
    古びた短剣は最早、武器としては使えないくらいに朽ちている。朽ちぬはずの「ブレイド」の身から生まれたものとは思えないほどだ。枯れ枝のような指で短剣の表面をなぞれば、かすかにざらついた感触が伝わってきた。刀身は朽ちていたが、そこに宿ったクリスタルの色だけは褪せぬ輝きを見せている。
    赤と青の入り混じったクリスタルは彼の体内にドライバーの一部が存在しているという証だ。それは消えることがない。ミノチというブレイドが死ぬまで。そう、たとえミノチより先にドライバーが落命したとしても、ミノチ自身の命が果てる時まで残り続けるのだ。

    そういえば、この短剣を自身のドライバーが手にすることは一度もなかった——などと余計な事実も思い出し、彼はやるせない気分を更に深めることになった。そもそもブレイドの武器をドライバーが用いる戦闘方法は五百年前まで存在しなかった。それが広く用いられるようになったのは、ミノチがドライバーの元から離れた後だった。しかし片割れは託された。聖杯と共に行くことを選んだ少年の元に、そのしるべとなることを願って。
    「五百年も経って……ようやくか」
    ようやく。そう、「ようやく」だ。今更だ。この期に及んで。他者の手に託されて。ようやく、ようやくその剣は己がドライバーの許へと届くのだ。
    もちろんそれは少年のために託したのであって、剣を届けさせるためではない。だがそれに思い至った時、ミノチの中に不思議な感慨をもたらした。それはいつまで経っても消えない、屈曲した感情と入り混じり、余計にミノチを煩悶とさせた。凝り固まった肺と喉からひゅうと音が漏れる。息苦しさを覚えながら、彼は短剣と共に取り出した懐かしい書き物の表紙に目をくれた。
    脚本は経年劣化で端に傷みがあり、折れや傷がそこかしこに付いている。だがページに欠けはなく、『助祭』と題されたそれは開けば書かれた当時の内容をそのまま読むことができた。そこに描かれた助祭の題材となった男はとっくに助祭という地位ではなくなっているが、自身が知り得るのは助祭であった頃の彼の姿のみであって、大戦以降も顔を合わせることはなかった。ミノチの元に法王庁の手の者が現れることもなかった。
    それはミノチ自身が他者に己の秘密を晒すことを避けてここまで生きてきたからなのか、かつてのドライバーがミノチを探し出すことをしようとしなかったのか。そのどちらが理由なのかは彼には判断がつかなかった。

    ——だが、どちらであろうと同じことだ。
    結局ミノチは、自身をこの世に顕現させたドライバーと道を共にすることを諦めた。
    「…………」
    白茶けた脚本のページをめくる。落とした目に入ってくる文字列は、かつての自身が描いたドライバーとの日々だ。脚本だ、必ずしも事実を描いているわけではなかった。だがその端々からは、決して拭い去ることのできぬ後悔が滲み出ている。彼の深緑の瞳はめくられた脚本の文章を捉えていたが、彼はそれを読んではいなかった。

    ——どうすれば良かった?
    どうすれば彼と志を共にできた?どうすれば、一度も開かれることのなかった彼の心に寄り添うことができたのだろう?

    考えても答えは出ない。孤児の少女や傭兵団の長、そしてかの王子。彼らは己のドライバーではなかったが、彼らとの日々はミノチにとって充実したものであった。なのに、何故。この世でたった一人の己のドライバーとは。
    そもそも、そのような後悔をする資格すらないのではないか?そう自嘲していまいたくなる。何故ならドライバーとの決別を決めたのは他ならぬミノチ自身なのだから。
    彼と最後に会話をしたあの日。かの男の言葉に、眼差しに、彼がその腕に抱えていた「何か」に。自分という存在では決して拭い去ることができない、暗い、昏い絶望を見た。
    だがその消えない後悔はミノチを捉えて離さない。
    「……なぁ、マルベーニ……」
    その皺の寄った目元が僅かに細められる。
    ——だからだろうか、あの少年の瞳に惹きつけられたのは。はつらつとした心優しい少年は黄金の瞳を持っていた。よく似ていた——かつて旅路を共にした、今は亡き王国の王子に。そして何故だか、法王でなかった頃の「彼」に。
    顔立ちも言動も、そしてその胸の裡(うち)に秘めたるものも、何もかもが似ても似つかないはずなのに。
    「お前は、あの子を見て……何を思うのだろうな——」

    だがミノチには、ただミノチにとっては、それが酷く懐かしかったのだ。
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