Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    🥗/swr

    らくがきとSSと進捗/R18含
    ゲーム8割/創作2割くらい
    ⚠️軽度の怪我・出血/子供化/ケモノ
    SNS等のリンクまとめ→https://lit.link/swr2602

    ☆quiet follow Send AirSkeb request
    POIPOI 365

    🥗/swr

    ☆quiet follow

    2020/09/20 過去作投稿
    アンソロジー寄稿作品
    ---
    神に会いに行ったマルベーニの独白と、本編最終話でこれまでのことに考えを巡らすメツの話。
    ※規約の再録制限期間終了のため掲載。

    ##SS
    ##Xb2
    ##Xenoblade

    在処「——貴方が、この世界の神なのですか」

    ◆◆◆

    鋼色の瞳を持ったブレイド——メツは、無機質で広い通路を悠々と歩いていた。通路にはびっしりと僕が並んでいる。赤く頑強そうな人型の機械達は沈黙したままで、メツがその先へ進んでゆくことを許した。……いや、実際には違った。彼らがメツを許したのではない、メツが彼らを黙らせていたのだ。つい先程通り抜けてきた、酷く暗い広間。そこで得た権能を用いて壁に格納されている僕——タイタン達を沈黙させた彼は、通路奥の扉を抜けて昇降機の上に立った。
    手で触れて操作せずとも、それらは想像するだけで思いのままに作動した。気の遠くなるほどに遥か昔に建造されたとは思えぬほど、昇降機は淀みなく動いた。そして目的地に到着し、昇降機が停止するのにさほど時間はかからなかった。ぴたりと止まった昇降機の床から一歩踏み出す。彼の眼前にはまたしても扉があった。だがこれで最後だと、開く前から分かっていた。自らここに来たのは初めてで、この先の光景は決して見たことがないはずなのに。同じ根を持つ者の奥底にしまい込まれていた景色がまさにこの先にあると、彼は確信できていた。
    脇に据えられた操作盤に軽く手を触れると、重々しい巨大な扉がひとりでに開いていった。鋼色の瞳が高揚に揺れる。
    そこには確信通り——白と黒の「兵器」が鎮座していた。

    ◆◆◆

    『それ』が私の傍らにあった期間はさほど長くはなかった。『それ』と連れ立つようになって以降、私は法王庁の遠征軍としてたびたび遠方の巨神獣へと赴き『それ』と共に「任務」をこなしていたが、呼び覚ました『それ』は、全く私の命令を聞こうとはしなかった。常に不敵な笑みを浮かべ、禍々しい黒の剣を振るい、あらゆるものをいとも容易く『消滅』させる。その力を振るう時の『それ』はいつだって楽しげに笑って見せた。
    何度言おうと加減をしない。焼け野原、焦土などといった表現が生温いとすら思えるような灼き方をされた大地。私はそれを、何度も、何度も、何度も繰り返し目の当たりにすることとなった。
    そしてあの日————法王庁の至宝とされてきた、黄金の杯を模した物体が跡形もなく消滅させられたその時、私はあることに思い至った。
    ——『それ』は破壊のために生み出されたモノなのだと。そして、『それ』こそが神の意志なのだと。

    ◆◆◆

    メツは巨大な黒白の兵器を前に、しばし沈黙していた。
    アイオーン。父が、父の同族達が生み出した、世界を破壊するためだけの僕。メツは硬い金属質の床を蹴り、アイオーンの肩に跳躍した。その横顔をまじまじと眺める。重厚な機体には朽ちた箇所など一つもなかった。機体胸部にあるコアクリスタルに似た箇所にアクセスすることで内部へと入り込んでの操作が可能となる。彼がそれに触れればすぐ起動することができるに違いなかった。だが彼はそれをしようとはせず、薄く笑ってアイオーンの肩に腰を下ろした。
    無機質で仰々しいそれは座り心地など大して良くなかったが、そこからの景色は悪くなかった。そこはアイオーンを格納しておくためだけの場所だった。先ほど通りがかった通路のタイタン達、そして自らやヒカリの操るガーゴイルやセイレーン、サーペントといった僕とは格が違う。おそらくこれはこの一体しか存在せず、秘めた力も量産型の僕とは比べ物にならない。だからこそこの場所が与えられた——いや、この場所に閉じ込められていたというべきか。それをようやく目覚めさせる時がきたのだ。
    「…………はっ」
    強く拳を握りしめる。彼は自らの内が激しく高揚していくのを感じた。それは衝動だ。早くその衝動を思う存分振りかざしてしまいたい、行使して然るべきなのだと彼の中の何かが激しく主張する。生まれてから一度たりとも消えたことがないその衝動は、いまだかつてないほどにメツの中で膨れ上がっていた。笑みが抑えられるはずもなかった。
    だが、その一方で彼の脳裏に燻って消えないものもあった。先ほど交わした問答。それがちりちりと焦げ付くように思考を掠めてゆく。答えに納得がいかなかったのではない。むしろ附に落ちたものだった——いや、求めていたものそのものだったともいえた。
    だがそれに得心してしまうということは、時折自身を見失わせようとしてきた疑問が間違っていなかったということに他ならなかった。

    ◆◆◆

    そこに楽園はなかった。そして、神もいなかった。その地は朽ち果てた人の業の跡地であったし、そこにいたのはアルストにいるのと何ら変わらぬ「ひと」であった。私はそれを悟った時、考えるよりも早く手が動くのを感じた。アルストに築かれたものとは異なる文明の意匠をした台座に収まっていたそれらをひったくるように手中に収め、私は弾けるように駆け出した。透明な天蓋に覆われた広大な砂地は、足がもつれて酷く走りにくかった。今考えてみれば追手など来るはずもなかったのだが、私はとにかく足を止めるわけにはいかないという焦燥に激しく駆り立てられていた。
    そこに楽園はなかった。そして、神もいなかった。私はそれを悟った時、それまで一日生きるごとに深まっていた疑念が確信へと変わるのを感じた。焦燥に駆り立てられ、追手もないのに疾走したのは、一刻も早くなさねばならぬことができたからだ。
    そう、だから私は、あの深い黒紅色を湛えたコアクリスタルに手を伸ばしたのだ。

    ◆◆◆

    「——それなら何だってんだ」
    その呟きを聞いたものは誰もいなかった。それは嘲りでも、怒りでも、悲しみでも、諦観でもなかった。ただの納得だ。それ以上でもそれ以下でもなかった。先ほど殺せなかった男の言葉を幾度反芻しても、やはりそれを聞いた瞬間に得た答えが覆る気配はない。別段覆したいとも思っていなかったし、そもそも覆せるか覆せないかなど今更どうでも良いことだったのだが。
    メツは自身の胸元にあるコアクリスタルに目を落とした。ここへの入り口に繋がっていたつまらない瓦礫混じりの砂地を歩き進む間に覚えた、己の中の何かがふと抜け落ちた感覚。それを不意に思い出したのだ。その感覚を覚えたのは生まれてこの五百年で初めてのことだったが、それが意味するものなど深く考えるまでもなく想定できた。
    それは己を生み出したたった一人の人間が、このアルストから消え去った——ということだ。
    胸が痛むわけでもなく、さしたる感傷も抱かなかった。愛しくもなければ憎くもなかった者だ。ここまでの長い道程を共にした、あの白銀のブレイドとは違う。コアクリスタルは黒紅色の光を湛えたままだった。マスターブレイドであるメツはドライバーがいなくなったところで肉体は消滅しない。そういう風にできているのだ。だがその感覚はぽっかりと残ったまま今この時まで存在している。それにメツは微かな興味を惹かれた。
    ドライバーはもういない。だがメツは決してそれに影響されず、アイオーンに腰を下ろしたままだった。消えないのは肉体だけではなかった。内にある感情も、願いも、衝動も、ドライバーの死が訪れた今も決して崩れ去らなかった。それはある意味での証明ではないか——と、そんな考えがメツの脳裏を掠めた。
    そう、それは証明に他ならなかった。
    世界に絶望したブレイドが、そして世界に絶望したドライバーが。あのように絶望した者たちがいたということ。自分と同質の暗い絶望を抱いた者が、分かち合った者が確かにこの世界に存在していたということ。それこそが「この世界は酷い世界で、壊すべきものである」という証明だった。
    奇妙な空虚さはやはり消えない。もう、同志であった者は誰もいないのだろう。彼はそんな感覚を奇妙な空虚さと共に覚えた。ヨシツネも、ベンケイも、サタヒコも。そしてあの白銀のブレイド——シンも。彼と同じ絶望を抱いた者達は、誰一人としていなかった。
    だが彼はその事実に、ある種の安堵と喜びに似た感情を抱いていた。
    「……っと——」
    格納庫内に微かな揺れを感じ、メツは立ち上がった。途方もなく頑丈に作られた壁の向こうからそれは伝わってきていた。ここに来るまでに与えた命令によって無数の僕達がその役目をこなしているゆえのことだろうと、容易に想像できた。まもなく刻限が訪れる。彼は再び格納庫の床へと降り立つと、振り返ってアイオーンをその目に捉えた。世界を破壊するための黒白の僕は、やはり変わらずそこに沈黙していた。メツと同じく、刻限が訪れるのを待ち続けているかのように。
    メツの顔に薄い笑みが浮かぶ。彼の脳裏に白銀のブレイドの顔がよぎった。そして、自分をこの世界に呼び覚ました男——マルベーニの瞳を思い描いた。
    もうすぐ叶う。まもなくあの人間の子供と、もう一人の天の聖杯がここに来るだろう。彼らもまた「答え」を得ているに違いない。だがそれは己が得た答えと異なるであろうという確信がメツの中にあった。そのどちらが「正しい」のかは、時が来れば分かることだ。

    「さあ、早く来い相棒。早く来い——小僧」
    Tap to full screen .Repost is prohibited