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    alcoholismsan

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    alcoholismsan

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    ハイデリヒが兄さんに櫛をプレゼントする話冒頭だけ。

    美しく鈍い光を放つ、茶色と黄の鼈甲でできた櫛をプレゼントされたのは、もう春が来たと言ってもいいくらい暖かい日の朝のことだった。まだ寝ぼけながらも顔を洗って少しぼーっとしている俺の前に、それはすっと差し出された。
    「はい、エドワードさん。」
     同居人─アルフォンスが差し出した櫛を見て、俺は首をひねったのだ。
    「はい、って……そもそもこれなんだよ。櫛?これを俺に?」
     アルフォンスはいつものようによく言えば優しく、悪く言えば呑気そうな笑顔で微笑んだ。
    「うん。これ、誕生日のプレゼントにと思って。」
     益々分からない。
    「誕生日って、オレの誕生日もう過ぎてるし。」
     そう言うとアルフォンスは、呑気な笑いを引っ込めてすねたような表情になった。
    「だってエドワードさん、誕生日教えてくれなかったじゃないですか!!しかも冬もやっと終わった今言うなんて、タイミングが悪い……。」
     そう言えばつい最近、こいつに誕生日の話題を振られ、事も無げに返したことを思い出した。その際、アルフォンスは随分焦ってどうして教えてくれなかったのか、と問い詰められたのだが、まさか律儀にプレゼントを買ってくるだなんて思いもよらなかった。
     「お前……律儀だなあ。わざわざ買ってきてくれたのか。」
     この歳になって、しかも知り合いと呼べる人なんて一人もいないこの土地で誕生日のプレゼントを貰うなんて、なんとも言えない不思議な気持ちがする。そもそも元の世界にいたときですら、錬金術を学ぶことや旅に必死でまともに誕生日を祝った記憶もないような気がする。
     アルフォンスが差し出したプレゼントをそつと受け取る。櫛は繊細な細い歯に、焦げ茶色とも言えるような、美しい、けれど不思議な光を放っていた。
    「これは……櫛、だよな?材料は……」
    「鼈甲、というらしいです。ウミガメの甲羅から作られているんだって。東洋の国から伝わったものらしいけど、スペインでは民族衣装として使われてるんだって。あまり見かけないものだし、すごくキレイだったから。プレゼントにちょうどいいなって。」
    「へぇ……これ、そんな珍しいものならもしかしてすごく高かったんじゃ……」
     アルフォンスは慌てて手と首を横に振った。
    「ううん、いいんだ!古道具屋で見つけてきた掘り出し物だし。エドワードさんはそんなこと気にしなくていいんだよ。」
     誕生日なんだから。アルフォンスは優しく笑う。その顔を見て、元の世界へ置いてきた弟の笑顔が少しだけ重なる。
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