思い出の共有とか、個人の記録とか、きっと多くの人がしている使い方じゃなくて、専らアイドルやその周辺の情報収集のために始めたSNS。話題のAIの技術なのか、私個人の興味の対象に関する話題も流れてくるようになって。そんな中でたまたま見かけた新味の飲み物はなんとなく気になっていて、これまたたまたま街中で見かけたから思わず買ってしまった。
「珍しいものを飲んでいますね?」
「あ、七種くん。お疲れ様です」
「お疲れ様であります、あんずさん」
同い歳でアイドルで、かつプロデューサーとしてライバルでもある七種くんが私のことを名前で呼ぶ時は大抵、疲れている時か、何か裏がある時。声のトーンがいつもよりやや低いことを考えると、今日のパターンは多分前者。だから、特に咎めることはしないでおいた。ここはES内で、周りに誰も居ないし。
「いかにも甘そうなものを飲んでいますね。もしかして、本当にお疲れですか?」
「いや、もともと気なってたんだけど、たまたま見かけたから」
「いちご味……ですか?」
「うん。いちごと……杏仁豆腐だったかな」
ドリンク自体と杏仁豆腐の甘さが、いちごの酸味と合わさって美味しい。最近あたたかくなってきたから、冷たいのも良いところだ。
「いかにもジュンが好みそうな味ですね」
「あ、やっぱり七種くんもそう思う? 私も最初SNSで見かけた時にそう思って……でも意外と甘いから、漣くんなら無糖がいいかも」
「はぁ。知りませんけど」
そう言われてはっとする。最初に気になった時も、今日飲んでいる時も漣くんのことをなんとなく思い浮かべていたけど、それってどうなんだろう。……でも最近、漣くんと顔を合わせることが多いし、ご飯を一緒に食べながら話したりすることも多いから、きっとそのせい。
「……て言うか、七種くんの方こそお疲れに見えるけど。大丈夫?」
「そんなことはないですよ、と言いたいところですが……分かりますか。流石はあんずさんですね」
これはこれは、『敏腕プロデューサー』殿には隠し事はできませんな! なんて返されない辺り、本当に疲れているらしい。
「何か買ってこようか。コーヒー? それとも甘いやつとか?」
「……コーヒーでお願いします。すみません」
「いいよ、気にしなくて。私にも手伝いが出来るような案件なら、手伝うんだけど」
「いえ、」