よしよし(翔藍)「……ショウ、二十分経ったよ。そろそろおしまいにして」
「ん〜……あと、五分追加……」
くう、とそのまま寝入りそうになるショウの鼻をきゅっと摘む。うぐ、と呻いて眉を寄せたが、それでもボクの膝枕をおしまいにする気はないようで起き上がらない。
ボクらは仕事の都合上、一緒に暮らしていてもプライベートの時間を過ごせないことが多い。仕事で一緒になることはあるけど、あくまで仕事だから必要最低限のコミュニケーションしか取らないようにしている。
だから、こうして一緒に過ごせるプライベートの時間は貴重だ。恋人という特殊な関係でもあるからか、こういう時のショウはボクにべたべたしたがる。言葉通りボクにくっついて、ハグやキスなどのスキンシップを取ってくるんだけど、最近はボクに触れられることが彼の中のブームらしい。
今日も例外なく、帰ってくるなり、甘えさせてくれとボクの膝に寝そべっている。さらに頭を撫でてくれと言うもんだから、望み通りにしてあげている……のはいいけど、二十分もろくに会話も交わさずこの体勢なのはさすがに面白くない。
ボクの膝に頬を擦り付けて子供みたいに笑うショウは嫌いじゃない……というか、好き、だけど。好きだからこそ、ボクも与えるだけでなく、彼から与えられたいという欲求もある。そういう風にボクを成長させたのはショウなんだから。
「……五分経ったら交代して」
「ん? お前も膝枕して欲しいのか? 珍しいじゃん」
「ボクを二十分膝枕したら君の膝が死ぬと思うけど?」
「あー……そこはまあ、男気全開で五分くらいなら頑張れる」
「いいよ。五分であっても、ボクの方が心配になるし。頭をたくさん撫でてくれればいいから」
「お前好きだもんな。いいよ、たくさんよしよししてやる」
にへ、と笑いながら言ったショウにボクは笑い返そうとして、彼の発言に引っ掛かりを感じた。
「……それ、初耳なんだけど」
「ん? 何がだ?」
「ボクが頭を撫でられるのが好きって何情報? 少なくともボクは発言したことないけど」
「あれ、お前自覚なかったのか?」
「自覚?」
首を傾げると、ショウは緩んだ笑みのまま言った。
「シてる時、頭撫でるとすっげえにこにこするし、すきってたくさん言うんだぞ、お前」
「…………は?」
「嘘じゃねえからな? 毎回そうだし。そんなんだからさ、俺もお前の髪に触れるとついそういうスイッチが入りそうになっちまうようになって、髪結ってやる時とかすげえドキドキするし。でも、あの時のお前、すげえかわいいんだよな。恋人の俺じゃなきゃぜってー見られないし」
「嘘」
「だから嘘じゃねえって。ちゃんとログ見返してみろよ」
へらへら笑いながら言うショウにムッとしつつ、軽くログを見返して――五秒後に再生を止めた。該当シーンはすぐに出てきたし、確かにボクは行為の影響で甘く蕩けた顔のショウに頭を撫でられて、歌でだって出したことのない甘い声ですきだの、もっとだの言っていて、五秒以上の再生なんか無理だった。
「ほら、嘘じゃなかっただろ?」
「……っ、う、うそ……」
「嘘だとしたら、そのログは何だよって話にならねえ?」
にやにや笑いながら、ショウがようやく起き上がった。その手がおもむろにボクの頭に伸ばされたものだから、思わずびくりと体を揺らした。
「お前もよしよしして欲しいんだろ? してやるよ、たくさん」
「っ、別に、そういうことをしたくて言ったんじゃない、よ……ボクはただ君に触れて欲しかっただけだし……」
「俺だって、別にシようぜって言ってるわけじゃねえぞ?」
「あんな話しておいて、君のその発言を信じられると思う? 下心しか感じないけど?」
「そういう捉え方する藍がえろいって見方もできるじゃん」
「……バカ、えっち」
「最後の、そっくりそのままお前に返すよ」
ぽん、とショウの手が触れた途端、体の奥に微かな熱が点った気がして、ボクは下唇を噛んだ。