疵「………はぁ」
朝。洗顔を終えた亮は鏡を前に、誰にともなく虚空に向かって溜息を吐いた。
その理由は明白で、鏡に映る自身の首筋に残った昨晩の痕。誰がどう見ても分かる情事の痕跡。恋人であるシャピロがつけたキスマーク。
髪を指で梳かし、いつものように首筋を隠した。
「…髪が長いと言っても、限度があるんだぞ」
こんなことで、いつまでも隠し通せるものか。何度目かの不満が口をついて出る——過去に一度、実際に本人にも伝えたことはあるが、結果は見ての通りだ。
もしかすると、とうに気付かれていて誰も口にして来ないだけなのだとしたら居た堪れない。
「………痛ッ…」
髪を弄っていると不意に痛みが走る。
そういえばそうだった、と昨日のことを思い返しながら、改めて自分の首筋を見た。あぁ、“また”だ。
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