黄金郷 擦り切れた記憶の中で、彼はある瞬間には貧民街を歩いていて、次の瞬間には王城の一室に座っていた。 ただ彷徨う時間の中で、自分が何を探しているのかすらわからない。 ただ、今まで見たことのないものなら何でもいいと思った。 まだ肉体を持っていた頃には自分が真理を探求する学者だと思っていたこともあったが、アレッサンドロ・ディ・カリオストロは自分の足元に星を落とし、不死の存在を自称した瞬間に真理など考えていなかった。 地上の無数の有力者たちが注ぐ好奇心と恐怖、賞賛と嫉妬、そのすべてが入り混じった視線を受けながらも、彼が思い浮かべた感想はただ一つ、「以前にもこんなことがあった」。

だからこそ、その少女の瞳を見た瞬間、天地がひっくり返るような衝撃を受けたのかもしれない。 ギロチンを前にしたエメラルドの瞳は、どこまでも無垢であった。 人生への未練や世の中への恨み、その他既存の世界が三羅万象の中に流し込んだ理など微塵も見当たらない澄んだ瞳の前で、彼は 넋を失ったまま、宝石のような瞳に映る夕暮れをじっと見つめていた。 まだ未知であったとはいえ、目を離すことができなかったのだ。 こんなことを世間では恋に落ちたと言うのだろう。
そして、この宇宙で最も長く宿った狂気が再び頭を上げた。 透明な瞳の向こうに、少女自身も知らないうちに眠っている何かを見つめながら、ヘビは何度目かわからないこの瞬間を思い出し、決意した。 "座"に座り万物を見下ろす頭、硬く張り上げた蛇の首を、この少女の足元に下ろす。 その時、この無限の黄昏を歩く少女を、自らの純粋さから解放することができるだろう.......。 変な話だが、それが蛇の情念と言えよう。 生まれる前にすでに老いてしまった心で思い浮かべることができる最善の愛は、たったそれだけのものだった。
そうして彼は遠慮なくその言葉を口にした。 「女神よ」そう呼ぶ声に、一人夕暮れの海辺を歩いていた少女が振り返る時、その瞳は言葉の意味を全く理解できないまま澄んでいた。 やがて歌を求められた時、少女が奏でる感動的なほど無感動な曲調にも、彼は一向に焦りを感じなかった。 仮にそうしたかったとしても、できなかっただろう。 生まれたこともなく、死ぬこともないまま、喜怒哀楽さえもすべてすり減るまで道中を彷徨い続けた彼に残されたのは、かすかに微笑む顔色だけだったからだ。

別の日、彼は新兵が拘束されたまま地下監獄に座っていた。 逃げ場のない空間には死の匂いが充満しており、一度この中に足を踏み入れた者の命綱は全て自分が握っているかのような軍将校の態度にはさすがに根拠があるようだった。 だからといって、色あせた弧線が彼の唇を離れることはなかった。 生と死は彼にとって全く問題ではなかった。
記憶の中の地獄の輪郭を辿りながら、蛇は感慨に浸った。 それはもちろん秘密警察の地下監獄などとは比べものにならないほど恐ろしく、一面黄金色に輝く場所だった。 思わずそこに身を投じる妄想を止めるために、一瞬自分の目を切り落としたくなるほど。 蛇の触覚末端を見下ろす青い瞳の中にそれが眠っている。 この男の両目は、未来なのか過去なのか定かではないある瞬間に、黄金の輝きを散りばめていた。 今のような抑圧された空虚ではなく、永遠に満たされない空腹で瞳孔の芯を燃やしながら。 それがすなわち枯渇しない愛と同等であると宣言しながら。
彼は今、鉄格子を開けて入ってきた軍人、明らかに容疑者を尋問しているはずなのに、むしろ自分が鉄格子に閉じ込められたような表情をしている男の瞳をすでに知っていた。 これほど面白い人物との出会いも、結局は未知ではなかったのだ。 それでも、その事実は失望や諦めにはつながらなかった。 それは実に珍しいことで、彼がそう言うと、不機嫌そうに返事をする男の言葉通り、彼らの間にはまだ何も起きていないはずなのに、この人物に対してはむしろ親近感すら感じるようになっていた。 元々、自分でも口数が多い性格だとは思っていたが、「宣伝部の犬になれ」という単純な強要に、このような言葉まで吐き出すようになったのは、その得体の知れない親近感のせいかもしれない。
「ノストラダムスになれというなら、喜んで。 実はそれもまた私だ」
寝ぼけたような告白になってしまった言葉を、もちろん相手が素直に受け入れるはずがない。 至近距離で対峙した男の顔に浮かんだのは、わずかな戸惑いを混ぜた不快感で、少なくともさっきまでの生気のない無表情とは全く違うものだった。 今はそれで十分だったので、彼は先ほどの席に戻った。
今回も見つけた、やっと会えた。 蛇は長い吐息を吐いた。
錬金術師、自分は何を求めてそう呼ばれるようになったのだろうか。 わずか数歩歩いたところで、ふと彼の頭をよぎった疑問の答えはすでに決まっていた。 しばしの沈黙、しばらく時間が経った後、兵士が口を開く。
「卿は.......」それでも適切な言葉を選んでいるかのように、少し間が空く。 「過大妄想狂だ。
きっと世の中が楽しいのだろう。 そう言う声は、再び平静を取り戻したものだった。 今出会った異常者について、自分なりの分類を終えたようだ。 彼はそれに特に反論しなかった。 代わりに、くだらない小言を並べて、それにさりげなく返事を返してくれる目の前の男を見て、ある種の満足感を覚えるだけだった。 そうして彼は男を追って地下牢を出た。

光陰とは何の意味もない場所に座って、蛇は自分の居場所を守っていた。 ヘビの目の前、あるいは数万光年先から差し込む恒星の光は、生まれたり死んだりするだけで、決して昇ったり沈んだりすることはない。 夜明けも夕暮れも、太陽より遥かに小さな存在が作り出した言葉ではないか。 逆に言えば、蛇が夕暮れの時間を迎えるためには、自分を超える明るい光、あるいは自分を消し去るほどの広大な光が必要だということだった。
蛇はつま先から垂れ下がった遠い影の断片の向こうに、自分の太陽となりうるかもしれない輝きを覗き込んだ。 左手にあごを抱えたまま、無意識のうちに体が前傾する。 そして瞳孔が細くなり、夢のような視線が瞳孔に留まる。 そしてふと、自分が今見ている光はいったいどちらの光なのか、どちらの光に飲み込まれて死にたいのか自問自答するたびに、蛇は巧妙に質問を変えた。 誰の手で死ぬべきか？ その問いには、すでに決められた答えを出せばいいのだ。 蛇のたった一つの首に女神に捧げた誓いと友人との約束が同時にかかっているという事実だけは明らかだったからだ。
だから急がなければならなかった。 目の前の光に手を伸ばして心臓を突き刺したいという衝動を蛇がまだ抑えられるうちに、女神の解放と友人に贈る怒りの日を準備しなければならない。 そのために代役まで用意したのではないのか。 蛇を殺すのは女神でなければならないのだから。 これまで飽きることなく繰り返された失敗の中で、蛇は約束された未知の世界を準備する方法はただ一つしかないことを痛感したのだ。
うまくいけば、女神の腕に抱かれる前に友人の最期を見ることになるだろう。 蛇と共食いして宿主の絶命に巻き込まれる運命の自滅因子としてではなく、一人の神として蛇が用意した別れの瞬間を迎える友の姿を。
そのためには、友の足を踏み倒してでも代わりの手に絶命させなければならないが、友に忠実であるために友の限界線を引かなければならないとは、実に矛盾したことである。 最善と言いながら出した選択肢すら妥協案に過ぎない、こんなつまらない男が他にいるだろうか、そう自嘲しながら蛇は再び笑みを浮かべた。