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    osame_jr

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    osame_jr

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    一応、ゴスワの二次創作のつもりです。
    本編後なので、エンディングのネタバレがあります。

    小説自体十数年ぶりに書いたものかつ、このジャンルで初めて書いたものなので、解釈違いや拙い部分多々あるかと思います。

    続く日常1人で帰ってきた暁人とエドの話です。
    明るくも暗くもない中途半端な話かもしれません。

    -----------------------------------------------------------------------------------

     あの夜、般若の男の計画を阻止し暁人は現世に帰ってきた。
     本来は既に彼岸に渡っているはずだった妹は一緒に帰ってくることはなく、霧の渋谷をともにかけた相棒も別れの言葉は告げないままに静かにその身を去った。
     どこまでも続くように感じられる石段を明るい方へ明るい方へ、振り返ることなくのぼっていった先、暁人が目を覚ましたのは病院だった。
     霧による人体消失現象は、ごく短時間の集団意識消失として世の中に理解されたらしい。
     それにより各地で事故が多発し、暁人もバイクで病院に向かっていた途中に事故に巻き込まれた怪我人として運び込まれたそうだ。
     ヘルメットが吹っ飛ぶほどの事故だったはずなのに不思議なほど軽傷だった暁人に告げられたのは麻里が息を引き取ったという知らせだった。
     目覚めた場所が病院だと分かった時に、夢だったのかと思った長い一夜の全てがそれを聞いた瞬間に逃げるのは許さないとばかりに現実として暁人の脳裏を席巻した。
     KK、凛子、絵梨佳、般若面の男、そして麻里。日常とかけ離れたあの霧の夜に出会った全ては現実だった。
     それを裏付けるものは記憶や状況だけではなかった。
     KKと改めて相棒関係となった時にタクティカルジャケットに代わっていたはずの服は、暁人がもともと身に着けていた服に戻っていたが、ボディバッグの中には使い込まれたパスケースが入っていた。普段からバイクで移動している暁人はパスケースを持ち歩く習慣は無い。
     見覚えのあるそれを開いてみると、案の定幼い男の子と母親の写った写真が入っていた。

     軽傷とは言え事故にあった経過を見るため一晩入院になったし、麻里の葬儀などの手続きもあり落ち着いたのは約半月後のことだった。
     暁人はKKの最後の頼みを果たすため、パスケースを手に取った。
     しかし、一介の大学生である暁人に本名もわからない人間の個人情報を特定する術はなかった。そこで向かった先は幽玄坂だ。
     あの日、生者は一人もいない化け物の彷徨い歩く街をその頃には良好とはとても言えない関係だったKKに導かれながら歩いたアジトまでの道を一人でたどる。
    「…あった」
     人であふれた町の中にすっかり溶け込むように、一見すると普通のボロアパートにしか見えない建物は確かにそこに存在していた。恐る恐る階段を上がり2階の奥の扉の前に立つ。あの日に初めて印を結んで解除した札の封印は施されていなかった。
     ドアノブを握って回してみるが、ガツッと固い音が鳴った。
     開かない。当然と言えば当然のことだ。普通、玄関には鍵をかける。あの夜は勝手に入ってくる人間もいなかったから開けたままでも問題なかったが、人々の戻った渋谷ではそうもいかない。
    「鍵が、かかってる……?」
     口に出した瞬間、暁人は一つの事実に思い至り、まじまじと扉を見つめた。
     鍵がかかっているということは鍵をかけた人間がいる。あの夜以降ここに出入りした人間がいるということだ。
     まさかと思った暁人の背後から声がかかった。
    『その部屋に何か用か?』
     耳に覚えのある声だった。
     暁人がバっと声の方を振り返ると、そこにいたのは眼鏡をかけた外国人の男が立っていた。
     直接会ったことはないが、暁人はその男を見たことがあった。
    「エド…?」
     暁人の口からこぼれた言葉に、エドはピクリと眉を動かし懐からボイスレコーダーを取り出した。
    『いかにも、ぼくがエドだ。君はあの夜、公衆電話の向こうにいたKKの協力者だね』
    「僕の事知ってるんですか?」
    『KKは曲がりなりにも元警察官としての正義感や、本人の仕事意識などは持っていたが、几帳面さという面ではあまり期待するべきでない。だが、あの夜は240,300人という膨大な数の魂がコツコツと公衆電話を通じて渋谷の外へ転送されてきた。それを考えればKK以外の誰かが魂を転送してきているという仮説は立てられたからね。渋谷の町中の各種観測データを解析してみれば君の姿をとらえることはさほど難しいことではなかったよ。何せ、あの夜の渋谷にいた生者は君一人だったからね』
     ボイスレコーダーからよどみなく返答が返ってきた。録音なのだから当然といえば当然だが、これだけの長い話を一人で機械に向かって話しているシーンを想像すると少し面白い。
     なるほど、状況から暁人の存在はエドに感知されていたらしい。
    『ところで、君は何者だい?KKに以前から協力者がいるという話は本人から聞いたことが無いし、君の姿を確認したときにKKの近親者の可能性も考えたが、それらしい該当者はいなかった』
    「それは、話せば長くなるんですが」
     電話越しの時はさほど気にならなかったが、いざ対面でボイスレコーダーで会話をされることに面食らったのもあるし、とても立ち話程度では説明できないようなあの長い長い一夜を思って暁人は言いよどんだ。
    『かまわない。ぼくらは途中で渋谷を離脱してしまったから、あの夜霧の中で何があったのかぜひ詳しく聞かせてほしい』
     エドが取り出した鍵で当たり前に開いたアジトにこうして暁人は招かれた。

    『なるほど、やはりKKたち3人は帰ってこなかったわけだね』
     暁人が時間の感覚も曖昧になるような一夜を語り終えるとエドが応えた。あらかじめ録音されていたということは状況からあらかたの予想はしていたという事だろう。
     絵梨佳の人となりを暁人は知らないが、凛子が必要な連絡を怠るとも思えないし、KKもなんだかんだで情に厚い男だ。生きているのに姿も現さず連絡もしないということはないだろう。一方的な連絡だけだったが、あの夜に接してきたエドが希望的観測に縋りつくようなタイプでないこともまた然りだ。
     暁人は何と答えていいかわからず、無言で頷いた。
     KKの調査資料から垣間見た彼らは決してビジネスライクな付き合いばかりではなかった。その仲間を一度に3人失うことになった、しかもその原因は元仲間であるエドの感情を推し量ることは暁人にはできなかった。
    『万事ハッピーエンドとはいかなかったが、君のおかげで最悪は回避することができた。この世と冥府をつなごうという計画は阻止することができたし、巻き込まれた無関係な人々の魂も救うことができた。もう一度言わせてくれ、ありがとう』
     あの日、公衆電話からも聞こえた感謝の言葉をもう一度聞いた。
    「ありがとう、ぼくの仲間を救ってくれて」
     暁人が返事をする前に、耳に馴染んできた声が初めて呼吸を伴って暁人の鼓膜を震わせた。
     暁人は驚いて目の前のエドを凝視した。
    「そんな……僕は、誰も」
     何も知らないまま巻き込まれたたくさんの人たちはみんな無事に帰ってきた。
     何も知らないまま。誰よりも戦い続けた男のことも、互いに思いあいながらすれ違ってしまった彼女らのことも、家族を愛していた故に歪んでしまった黒幕のことも何も知らずに、これまでと変わらない日常を送っている。
     でも、暁人の大事なものは何も帰ってこなかった。暁人のこれまで通りは失われて二度と戻ることはない。
    「僕がもっと上手くやれていたら、KKも凛子さんたちも今もここにいたかも知れない。麻里だって…」
     それ以上は言葉にならなかった。目が熱くなってきてとっさにきつく目をつむってうつむいた。
     きちんと別れを告げることができたから、自分は大丈夫。きちんと現実と向き合って生きていけると思って言い聞かせてきた。心の片隅で首をもたげる、後悔の念に向き合わないまま。
    「今ここに彼らがいない事こそが、君が彼らを救ってくれた何よりの証拠だ」
    「っ!」
     あの一夜の中で、暁人はたくさんの霊に出会っていた。恋人の死の真相を求めたり、積年の恨みつらみを抱えたり、はたまたしょうもない理由で現世に居座っていたり。でもみんな総じて現世に心残りを抱えてあの世に渡れずにいた者たち。
    「酷な事を言うけれど、失われた命は戻らない。だが、その魂が無事にあちら側にわたることができるかは僕たちにも責任がある。渋谷を離れてしまった僕らには彼らに直接何かすることはできなかった。でも、君がいてくれた。だから、ありがとう」
     暁人の抱える心のわだかまりがほろほろと崩れていく気がした。
     大切なものばかり取りこぼしていくと思っていたこの手にも掬えていたものが確かにあったらしい。
    「ありがとうございます」

     穏やかな沈黙が流れた後にエドはすっとボイスレコーダーを取り出した。
    『一度あちら側に渡った魂がその後どうなるのかは、現状まだ解明できていない。それは非常に気になるところではあるんだが、あまりこの町が騒がしいとKKあたりに怒鳴り込まれそうだからだからね。僕らはもう少しの間はこのアジトを拠点に観測を続けようと思う』
     そう、日常は続くのだ。だから人の思いは無くなることは無いし、欲望と情念の坩堝であるこの町は大多数の人々の知らぬままに淀みを生み出しているのだ。
    『だが、今のところメンバーは僕とデイルの2人きりでね。スカウトできる優秀な人材を探しているんだが、どうかな』
     暁人の返事は決まっているし、エドが次に再生する録音済みの音声も決まっていることだろう。


    end
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